第3章 ep.17 男!ビーチのナンパ対決
リリアとモルティナは仲良くスイーツ店へ消えていった。
「パフェ!」「あいす!」と笑い声が遠ざかる。残されたのは――ガルド、ラッツ、そしてカイ。
「さてと……」
カイは浜辺に腰を下ろし、ニヤリと笑った。
「男同士、腹割って話そうじゃん? 職人ってのはな、武器の表面だけじゃなく、持ち主の内面を見るのも仕事なんだ。……その若さでいろいろ苦労してんだろ。手を見ればわかるぜ」
「……カイさん」
ラッツの目が潤む。
「ちゃんと考えてたんすね……」
ガルドはそっぽを向き、照れくさそうに鼻を鳴らした。
「つーわけで!」
カイが突然立ち上がり、ビシッと人差し指を突き出した。
「内面をさらけ出すにはナンパしかないっしょ!? ただいまより――ナンパ対決、開始ーっ!」
「お前やっぱりナンパしたいだけだろ……」
ガルドが眉をひそめる。
「ははーん、さては負けるのが怖いんだろ? お前さんはツラしか取り柄がないから、女の子とまともに話せねぇんだよな」
カイの挑発に、ガルドの眉がぴくりと動く。
「……っち、興味ねぇ」
「ノリわるぅー! ラッツ、あんなやつほっといて行こーぜー」
「え! ガルドさんやんないなら意味なくないっすか!? だってこれ“対決”っすよ!?」
その時――
(ハロー! チェリーボーイ! お困りのようだね!)
「っぐ!? なんだこのバカみてぇな声……頭に響く……」
ガルドは頭を抱えた。
(驚いた? 実は念話スキルのレベルが上がってさ! こんなに離れてても念話できちゃう! しかも、視界も共有できちゃうの! あなたたちの私生活まるみえよー! おーっほっほっほ♡)
「リリア! なんでお前が!?」
(話は聞かせてもらった! 面白そうなことになってるじゃない。なんで私も誘わないのよ! そりゃ今モルティナちゃんと二人っきりでデートできて幸せだけどさ! 誘ってくれないのは違うじゃん! 誘われて用事があるって断りたいのおわかり!?)
「頭いてぇ……ほんと黙ってくれないかな……」
心の底から願った瞬間、念話の声はボリュームダウンした。
(もしーもーし、きこえますか、今あなたの脳内に直接……)
「……」
(あれ? 無視される? 接続きれんのこれ? 許せん!)
リリアはにやけながら悪戯を思いつく。
(ほーら、カイの工房に置いてあった呪いの大剣……転送ポチッ!)
「んあ!? な、なんだこれ……」
突然ガルドの手に現れる漆黒の大剣。握った瞬間――
「お待たせベイビーたち♡」
場面が変わる。
カイは女の子に手を振っていた。
「おねぇさん! まぶしすぎて太陽とまちがえちゃったよ!」
「やだー! うける!」
ラッツは顔を真っ赤にして立ち尽くす。
「あ、あの、き、きれいですね……」
「……」
「……ここはよく来られるんですか?」
「……」
「……」
沈黙が重すぎて、ラッツの心が折れそうになったその時――
「待たせたな」
背後からチャラい声が響く。
「兄貴ぃ!? ……って、ええええっ!!」
振り返ると、ガルドが美女の群れを引き連れて登場した。
「ビーチに散らばった星屑を集めてたら遅くなっちまったよ。わりーな♡」
「きゃー! かっこいいー!!」
女性たちの黄色い歓声が浜辺を埋め尽くす。
「やるじゃねぇか……! 見直したぜ!」
カイが目を輝かせた。
しかしその時、男たちの怒声が飛んできた。
「てめぇか! 俺の女になにしてやがる!」
チンピラ風の男たちがぞろぞろと現れる。
ガルドは鼻で笑った。
「はっ! ふざけるなよ。こんなに美しいレディたちを“俺の女”だと? 物扱いするんじゃねぇ! 許せねぇ!」
「きゃー!!」
女たちが歓声を上げる。
「むかつく野郎だ! やっちまえ!」
チンピラたちが一斉に襲いかかった。
「一の型――!」
ガルドが叫び、剣を振るう。
炎のような連撃が舞い、大群を次々と切り伏せていく。
「な、なんだこいつ!? レベル50の冒険者も混じってるのに束になっても敵わねぇ!」
「ほー、やるじゃねぇか! さすが勇者さまってところか!」
カイは腕を組みながら観察していた。
「なるほどなるほど……戦い方のクセ、掴めてきたぜ」
「なんか兄貴、いつも以上に強い気がする……でも兄貴が悪くね?」
ラッツが冷や汗をかく。
「男ってのはな。かっこつけたい時が一番実力を出せる生き物なんだよ、坊主」
カイが真顔で答えた。
やがてチンピラたちは砂浜に転がり、ガルドは美女たちに囲まれてご満悦。
「怖がらせちまってごめんね? ハニーたち♡」
「きゃー!!」
そこに――
「あー! 面白そうなとこ見逃したかも!? 一足遅かったかぁ」
リリアがひょっこり現れた。
「これ姉御の仕業でしょ!? 何とかしてください!」
ラッツが泣きつく。
「は? なんで? 楽しそうだからいいじゃん。むしろ見逃したっぽいから帰るわ……ぐえっ!」
カイが首根っこをつかんだ。
「おい嬢ちゃん。あれ、また持ち出したの?」
「ひゅーひゅー……しらね」リリアは口笛でごまかす。
「ったく。あれ取り返してこいよ。それで今回は勘弁してやる」
「えー、面白いのに……しょがないなー」
リリアが指を弾くと、呪いの大剣がガルドの手から強制的に消えた。
「そんなことできたんすか!? 前もやってくださいよ!」
ラッツが絶叫する。
正気に戻ったガルドは、美女に囲まれたまま顔を真っ赤にした。
「リリアーーッ!! てめぇ絶対許さねぇからな!!」
砂浜には、爆笑と悲鳴と歓声が入り混じった。




