第3章 ep.16 職人の仕事
カイの工房に再び熱が戻った。
黒曜竜の牙を火にくべると、炉の炎は一際赤く燃え上がる。
「はぁぁぁっ! 今度は最高の一振りにしてやる!」
カイは汗を飛ばしながら槌を振り下ろす。
牙と鉄が火花を散らし、リズムよく金床を叩き続ける音が工房を満たした。
三日三晩。
冒険者たちは工房の隅で寝起きし、食事を共にした。
モルティナは黙々と盾の手入れをし、ラッツは魚を焼いて飢えをしのぎ、リリアは炉の火に当たりながら「温泉みた~い」と呑気に笑っていた。
「……できた」
カイが深い息を吐き、槌を下ろす。
そこにあったのは、黒曜の光を宿した大剣だった。
刃は漆黒、縁には赤がちらつき、ただ置かれているだけで圧倒的な存在感を放つ。
「……おお」
ガルドは思わず息を呑む。
「これ……間違いなく最高傑作じゃないっすか!」
ラッツが目を丸くした。
「強そう。かっこいい」
モルティナも感嘆の声を漏らす。
「うんうん、文句なし! 勇者剣って感じ!」
リリアは大きく頷いて親指を立てた。
だが、カイは険しい顔を崩さなかった。
「……ダメだ」
「え?」
一同が声を揃える。
「見た目も性能も最高級……だが、肝心の“ガルドらしさ”がない。ここ最近、汎用品ばっかり打ってたから、オーダーメイドの勘が鈍っちまったんだ」
「ええ~? 十分すぎる出来だろ」
ガルドが眉をひそめる。
「そうそう! 立派な武器だよ!」
「兄貴に似合ってるっす!」
「かっこいい!」
三人が口々に褒める。
しかし――
「職人がダメだって言ってるだろォォォ!!!」
カイの怒声が工房を揺るがした。
「中途半端なもんで満足したら、それで終いだ! そんな剣を持って戦場に立ったら、魂が泣くぞ!」
一同は思わず身をすくめる。
「よし、なら壊す」
カイは大剣をドンと床に置いた。
「え!? ちょ、ちょっと待って!」
リリアが慌てて手を振る。
「……お前らも手伝え。立派な剣ほど壊すのは難しいんだ」
「えええええええ!?」
ラッツとモルティナが悲鳴を上げる。
かくして始まったのは「立派すぎる剣を壊す」という前代未聞の作業だった。
ガルドが全力で叩き斬ろうとするも刃は欠けない。
ラッツが火薬を詰めて爆破しても傷ひとつ付かない。
モルティナが盾で押し潰そうとしても、逆に盾がきしむ。
「……さすが黒曜竜の牙」
モルティナが額の汗を拭う。
「壊すのにこんだけ苦労するなんて……これ、完成してたら本物の勇者武器だったんじゃ……」
ラッツが呟くと、一同は言葉を失った。
最後はカイが炉の炎に投げ込み、金床で何度も叩きつけ、ようやく刃は形を失った。
「ふぅ……無念だが、作り直す」
カイは煙を吐くように息をついた。
「よし! その前にリフレッシュだ!」
カイが顔を上げ、にやりと笑った。
「女の子と遊ぶぞ!」
「……え?」
モルティナがぽかんとする。
「ごはんおごってくれるの?」
「優しくしてね♡」
モルティナは小首をかしげ、リリアは昭和チックなお色気ポーズを取った。
「……よし! ビーチにナンパ行くべ!」
カイは拳を突き上げ、ガルドとラッツを強引に引っ張る。
「いや、剣作ってくれよ!」
ガルドが抵抗するも、肩をがっしり押さえられて引きずられていく。
「まかせてくださいよー! 村一番の俊足で、子供のころはモテモテだったんすよー! 大きくなるにつれ、女の子が冷たい目で見るようになったっすけど……」
ラッツは無駄に胸を張っていた。
リリアは両手を腰に当てて高らかに笑う。
「よーし! 次回――」
一同の声が揃った。
「男! ビーチのナンパ対決




