第3章 ep.15 鍛冶師、熱く語る
火山を後にした一行は、全身すすで真っ黒になりながらリゾート街へ戻ってきた。
潮風が肌を撫でるだけで、まるで天国のように感じる。
「……生きて帰ってこれた」
モルティナが深く息をつき、盾を抱きしめる。
「兄貴、マジで勇者っすよ……」
ラッツは半ば感涙していた。
「ふっふーん! 軍神様の監督のおかげかなぁ♡」
リリアが勝ち誇った顔で両腕を広げる。
「……何もしてなかっただろ」
ガルドの冷静なツッコミがすかさず入る。
「はぁ!? 見守るっていう最高に重要な役割を担ってたんだよ!? あたしが余計な口出ししなかったから、ガルドが勇者っぽくキマったの! 感謝しなさーい!」
「……はいはい」
ガルドは疲れきった顔で手を振った。
工房の扉を開けると、カイが炉の火を調整していた。
「おう、やっと帰ってきたか……って、お前らボロボロだな。で、戦果は?」
ガルドは黙って腰の袋を開き、中から黒曜竜の牙を取り出した。
漆黒の光を帯びた巨大な牙が、炉の炎を受けて赤く揺らめく。
「……っ!!!」
カイの目が、これまでに見たことのないほど大きく見開かれた。
「こ、これは……黒曜竜の牙……っ!? ほんとに手に入れてきやがったのか!」
牙を両手で抱え、カイは興奮のあまり膝をついた。
「すげぇ……! これなら最強の刀身が打てる! ああ、ずっと夢見てた素材だ……!」
「やったじゃん兄貴!」
ラッツが嬉しそうに肩を叩く。
モルティナは静かに頷いた。
「この素材で……新しい盾も作れる?」
「ああ! アダマンタイトの盾は予定通り完成する。その上で――黒曜竜の牙を核にすれば、ガルドの剣は本物の“勇者の剣”になる!」
カイは振り返り、炎を映した瞳でまっすぐガルドを見据えた。
「兄ちゃん、いいか。剣ってのはただの鉄の塊じゃねぇ。持ち主の意思と、鍛冶師の魂を重ねた時、初めて“命を託せる武器”になるんだ」
その言葉に、工房の空気が一瞬で熱を帯びる。
「……でたでた。職人の熱い語り」
リリアが耳をほじりながら笑った。
「でもさー、剣なんて結局“攻撃力+いくつ”でしょ? 派手に光ってたらなんでもいいじゃん?」
「なっ……!」
カイの額に青筋が浮かぶ。
「嬢ちゃん、今すぐ外に出ろ! 俺の目の前でそんな暴言を吐くやつは、金床でしばいてやりてぇ!」
「ひぃ! 怖い怖い怖い! 軍神様はガルドの剣をかっこよくしてほしいってだけだもん!」
リリアはガルドの背中に隠れた。
ガルドは苦笑しながら首を振る。
「……見た目も、魂も、全部任せる。カイ、お前の最高傑作を頼む」
その言葉に、カイは深く頷いた。
「おうとも! これ以上の素材と依頼主はねぇ。最高の一振りを打ってやる!」
工房の炉がさらに燃え上がる。
炎の奥に、未来の剣の輝きが見えるようだった。
モルティナは盾を磨きながら、心からの安堵を浮かべる。
ラッツは大漁の魚を思い出しつつ「また宴だな!」と笑った。
リリアはというと――炉に映った自分の顔を見ながら、にやりと笑った。
「ま、勇者様がちゃんと勇者っぽくなったから、軍神様も安心して茶化せるわけよ♡」
こうして勇者たちの物語は、再び大きな節目を迎えようとしていた。




