第3章 ep.14 勇者の一撃
黒曜竜の咆哮が、火山全体を揺るがした。
灼熱の空気が吹き荒れ、地面が震動する。火口の熱風は肌を焼き、視界は赤黒い蜃気楼にかすんでいた。
「ぐっ……押し込まれる!」
モルティナが盾を突き出し、炎を必死に受け止めていた。だが《防壁展開》の光壁は既にひび割れ、じりじりと後退させられていく。
ガルドは剣を握り直し、仲間を見渡す。
「ラッツ、右へ回って牽制しろ! モルティナはそのまま炎を止めろ。俺が決める!」
「了解っす!」
「任せて!」
勇者の声に即座に応える二人。その声に、これまでの戦いとは違う確信が宿っていた。
黒曜竜の巨体が再び炎を吐き出す。
モルティナは盾を二重に展開し、炎を真正面で受け止める。
火柱が光壁を裂き、火花と衝撃が弾け飛ぶ。
彼女の体は震えていたが、その足は一歩も退かなかった。
「……まだ、耐えられる!」
その横を、ラッツが駆け抜ける。
「兄貴! 今だ!」
影走りで竜の尾をかすめ、注意を引く。巨体がわずかに向きを変える。
「――ここだ!」
ガルドは全身の力を解き放ち、炎の中へ踏み込んだ。
思い出す。
ステータスで圧倒的に有利なのにモルティナに負けた。
アダマンタイトタートルには二の型が通じず、無力を痛感した。
全部が無駄じゃない。
仲間を信じ、技を磨き、勇者として進むための糧になった。
「お前らが隙を作ってくれた……なら俺が、終わらせる!」
剣を振り抜く。
一閃、また一閃。残光が炎を断ち、軌跡を空に刻む。
消えずに残る光の線が幾重にも重なり、やがて竜の胸郭へ収束する導線となる。
黒曜竜が大きく息を吸い込む。胸が膨らみ、鱗の継ぎ目が一瞬だけ露わになった。
ガルドは最後の一歩を踏み込み、全ての力を刃に込める。
「二の型――《残光連断・一心》!!!」
残光の軌跡が収束し、雷鳴のような衝撃が轟いた。
光の奔流は黒曜竜の胸を貫き、硬い鱗を粉砕する。
灼熱の体液が噴き出し、竜が断末魔の咆哮を上げた。
地響きとともに、黒曜竜の巨体が崩れ落ちる。
火山の揺れが徐々に収まり、炎の渦も弱まっていった。
しばしの沈黙のあと――
「……や、やった、のか」
ラッツが震える声を漏らす。
「ほんとに……守り切れた」
モルティナが盾を抱きしめ、力なく膝をついた。
岩場の上に腰掛けていたリリアは、黙って戦いを見守っていた。
本当なら、口を挟んで場をかき回すこともできた。爆弾で山を吹き飛ばすことだってできた。
けれど彼女はあえて何もせず、ただ目を細める。
(……やるじゃん、勇者。今回は軍神様の出番なんていらなかったね)
頬杖を外し、立ち上がると、リリアは小さく笑った。
「ふふん。やっと“勇者”らしくなってきたじゃない」
黒曜竜の亡骸から転がり落ちた漆黒の牙が、炎に照らされ妖しく輝く。
ガルドはそれを拾い上げ、拳を握りしめた。
「……これが、黒曜竜の牙。カイの炉に届ける、俺たちの勝利だ」
その横顔には、今までにない確かな自信が宿っていた。
熱風が吹き抜け、焼けた岩肌をなでる。
勇者の一撃は、確かに仲間と共に刻まれたのだ。




