第3章 ep.10 火山への道
翌朝。
工房には、昨日の晩餐の名残りが漂っていた。テーブルの上には干した魚の骨が散らばり、鍋にはまだ出汁の香りが残っている。
「よし……!」
ガルドは背に剣を背負い直し、立ち上がった。
「モルティナの盾が完成するまでに、俺たちは“黒曜竜の牙”を手に入れる」
「ほんとに行くんすか……火山っすよ、火山!」
ラッツは顔をしかめ、額に手を当てる。
「俺、暑いの苦手なんすけど……」
「文句言うな。次の一振りのためだ」
ガルドは静かに言い放つ。
カイが炉の火を弄りながら口を挟んだ。
「黒曜竜の牙は火山の奥だ。奴は“溶岩を喰らう古竜”と呼ばれてる。普通の冒険者なら近づくだけで丸焦げだぞ」
「うわぁ……なんて危険な響き……」
ラッツは頭を抱える。
「でも、ガルドの剣が強くなるなら……」
モルティナは盾を抱えたまま、きっぱり言った。
「私は、行く」
「おお、モルティナたんかっこいい!」
リリアがぱちぱちと拍手した。
「ま、軍神様はこのリゾートで優雅にお昼寝して待っててもいいんだけどね~♡」
「お前も来るんだよ!」
三人の声が揃って飛ぶ。
準備を整えた一同は、リゾートの街を抜け、北へと進んだ。
街道沿いには椰子の木が並び、色鮮やかな花が咲き乱れている。南国の楽園のような光景も、次第に影を潜めていった。
やがて地面は黒ずんだ岩肌に変わり、空気はじっとりと熱を帯び始める。
潮風は次第に消え、代わりに焦げたような臭いが鼻を突いた。
「うっ……もう暑いっす……」
ラッツが汗を拭いながら呻く。
「まだ入り口だ」
ガルドは険しい目で前を見据える。
「ここからが本番だぞ」
モルティナも盾を握り直し、真剣な顔になる。
「……火山って、本当に燃えてるんだね」
遠くに赤黒く煙を吐く山がそびえていた。
大地は割れ、ところどころから溶岩がにじみ出ている。
空はどんよりと曇り、熱気が視界を揺らしていた。
「わぁ……映える……! 写真撮りたい!」
リリアは両手を広げ、きらきらした目で景色を眺めている。
「遊びじゃねぇんだぞ!」
ガルドが一喝する。
その時だった。
足元の岩がぐらりと揺れ、地面の割れ目から赤い光が漏れ出した。
ごうっ、と吹き上がる熱風。
「ひっ!? な、なんか出てきたっすよ!」
ラッツが悲鳴を上げた。
割れ目から姿を現したのは、溶岩に包まれた小型の蜥蜴のような魔物だった。
赤熱した牙を剥き、こちらへ飛びかかってくる。
「前哨戦ってわけか」
ガルドは剣を構えた。
「行くぞ!」
火山の試練が、彼らを迎え撃とうとしていた。




