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第3章 ep.9-2 銀髪エルフの追撃

リリアは思わず一歩下がった。

 銀髪のエルフは、波間に立ちながら紅の瞳を潤ませ、しかし剣呑な気配を全身から漂わせている。


「あなたは……私を愛してくれるって、そう言ったじゃない……!」


「な、なにそれ!? あたしそんなこと――」


「……言った」

 エルフの瞳がきらりと光り、リリアの背筋を凍りつかせた。


「……っ」


 その瞬間、リリアの脳裏に光景が蘇る。


回想:ビーチにて


「おねぇさんかわいいね! 一人? お茶しない? ってかラインやってる?」

 リリアは場当たり的に声をかけた。

 相手は長い銀髪を持つ美しいエルフ。驚いたように瞬きをし、やがて小さく笑った。


「あなたは……私を愛してくれるの?」


「? ん? ああ……もちろん愛してるさ! これからも、この先も、永遠さ!」


 エルフの頬が染まり、震える声が漏れる。

「……う、うれしい……私たちが会えたのは、運命なのね……」


(よくわかんないけど! よっしゃー! 人生初のナンパ成功だ! 百合ハーレムに一歩近づいたぜ!)


 そのとき、横からカイがひょっこり顔を出した。

「うぇーい! リリアちゃん、収穫どうよ? 俺っちはからっきしでさ~……って! なにこれめっちゃかわいい子じゃん! リリアちゃんやるぅー!」


 エルフの表情が一瞬で凍りつく。

「……誰? この男」


 背筋に悪寒。殺意が渦巻く。


「…し、知らない!」

 リリアは即答。


「え、リリアちゃん冷たっ!? 俺っちとは遊びだったのー!? なんつって! 俺も混ぜてく――」


 カイですら気づくほどの、死の気配。


「……やばめ?」

 次の瞬間、リリアはとんでもない速さで逃げ出していた。


「待って! あなたは一体、彼女の何なの!?」

 エルフがカイを鋭く睨む。


「きゃーっ!!」

 カイは悲鳴を上げて砂浜に崩れ落ちた。


現在


「……そういうわけで……君とは遊びだった」

 リリアは額を押さえ、うつむいた。


「いやいや、絶対違う。とりあえず勘違いさせてるんだから謝れって!」

 ガルドは勇者一行が誇る色男であり女性の執念に慣れているつもりだった。

 ただ、目の前にいるエルフから人間とは考えられない、魔物すら可愛く見える殺気を放っていた。


 銀髪エルフは、なおも執念深く見つめてくる。

「仲良さそうに…見せつけてるわけ!?

君とは遊びだった……ですって!? そんなの、許せるわけない!!」


「……あ、あーと、ごめんなさい!?」

 リリアは慌てて取り繕うが、もう遅い。


 エルフが地を蹴り、恐ろしい速さで迫る。


「逃げろォォォ!!」

 ガルドが叫んだ。


 一同は全力で浜辺を駆け抜ける。

 勇者パーティが今までで一番の速さを叩き出した瞬間だった。


 なんとか工房まで逃げ込み、戸を閉めて息を整える。


「……死ぬかと思った」

 ラッツが床に倒れ込み、肩で息をする。


「リリア……」

 モルティナが呆れた目を向ける。


「ちょっとした遊びだったのに、なんでこうなるのよ……」

 リリアは頬を引きつらせる。


「遊びじゃねえだろ! あんなもん命懸けだ!」

 ガルドが怒鳴った。


しかしその夜、工房には香ばしい匂いが立ち込めていた。

 テーブルには焼き魚、刺身、そして鍋。大漁の魚が、ガルドの手で見事な料理へと変わっていたのだ。


「おお……兄貴、こんな特技あったんすか!」

 ラッツが感激の声を上げる。


「まあ、サバイバルで生き延びるには料理も必要だからな」

 ガルドは少し照れたように返す。


「……おいしい」

 モルティナが幸せそうに口元をほころばせた。


 リリアも満足げに頷く。

「やっぱりパーティっていいよね~♡」


 笑い声が響き、戦いの疲れがようやく癒されていく。


「明後日には……アダマンタイトの盾が完成する」

 カイが真剣な声で告げた。

「モルティナ、お前の命を守る最高傑作だ」


「はい……! ありがとうございます」

 モルティナは深く頭を下げた。


 ガルドは拳を握りしめる。

「……次は俺の剣を。もっと強くならなきゃならない」


「だったら“黒曜竜の牙”を持ってこい」

 カイは即答した。

「最強の刃を打つには、それしかねぇ」


 その頃――


 工房の外、月明かりに銀髪が揺れる。

 エルフは暗がりから室内を見つめ、口元に笑みを浮かべていた。


「絶対に離れない……愛しい人♡」


 その声は夜風に溶け、誰の耳にも届かなかった。

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