第3章 ep.9-1 リゾートでの休憩
アダマンタイトタートルを討伐して数時間後。
四人は工房で治療を受けたあと、ほっとした空気に包まれていた。
「……ふぅ。レベル、上がってる」
ガルドが視界に浮かぶウィンドウを見つめる。
ステータス欄の数字がわずかに伸び、新しいスキル欄に光が宿っていた。
「《反応強化》……攻撃を避ける力が増すか」
「おれもだ!」
ラッツが嬉しそうに叫ぶ。
「短剣スキルが一段階上がって、《影走り》ってのが使えるようになった! なんか、素早く背後を取れる感じっす!」
「私も、《防壁展開》ってスキルが……。大きな盾をもう一枚出せるみたい」
モルティナは黒焦げの盾を抱えながらも、瞳を輝かせていた。
ガルドは黙ってスキル欄を見つめる。
そして、ふとリリアへ視線を向けた。
「……今回、正直言うと……お前が来なかったら危なかった」
「え? なに、照れてんの?」
リリアがにやりと笑う。
「勘違いするな。だが、俺はまだ未熟だ。二の型すら通じなかった。……もっと強くならなきゃならねぇ」
ガルドは拳を握りしめ、決意を口にする。
「……ふぁぁ~」
緊張感を吹き飛ばすように、モルティナのお腹が鳴った。
「……お腹、すいた」
「ははっ」
ラッツが吹き出す。
「まあ確かに、命懸けで戦ったあとにゃ、腹も減るっすよね」
そのとき、工房の奥からカイが顔を出した。
「よし、だったら慰労を込めて晩餐会だ! 今日は魚料理で決まりだな!」
「おお!」
一同の顔が明るくなる。
「じゃあ、材料はよろしくお願いしまーす!」
カイがにこやかに言い放った。
「俺らが獲ってくるんかい!」
三人のツッコミが見事に揃った。
「いってらっしゃーい」
「お前もくるんだよ…」
潮風の匂いが漂う浜辺。
ガルドたちは腰まで海に浸かり、網や手槍を構えていた。
「よし、こっちに追い込め!」
ガルドが声を上げ、ラッツが素早く泳ぎ回る。
その動きに合わせて魚の群れが追い込まれ、網の中へと入っていった。
「ひゃっほー! 大漁っすよ!」
ラッツが網を掲げて叫ぶ。数十匹の魚が銀鱗を輝かせて跳ねた。
「お前……意外と漁師向きだな」
ガルドが感心する。
一方その頃――
リリアは浮き輪代わりの丸木にまたがり、ぷかぷかと漂っていた。
「いやー、リゾート満喫って感じ! 戦いのあとはこれだよね~」
「遊んでばっかりいないで、少しは手伝え!」
ガルドが苛立った声を飛ばす。
「えー? 勇者パーティに癒し役は必要でしょ?」
リリアはひらひらと手を振った。
「……まあ、ラッツが頑張ってるから十分だけどさ」
モルティナはくすくす笑いながら、籠に魚を詰めていく。
やがて浜辺は大漁の魚でいっぱいになった。
「これで晩餐はバッチリっすね!」
ラッツが胸を張る。
「よし、もう十分だ。そろそろ戻るぞ」
ガルドが言うと、リリアが頬をふくらませた。
「えー? あたしまだ遊び足りないんだけど!」
「いい加減にしろ」
ガルドが溜め息をつきながら歩み寄る。
その瞬間――
「……誰よ、その男」
背筋を凍らせる声が、波音に混じって響いた。
振り向くと、そこには長い銀髪を風に揺らす一人のエルフが立っていた。
紅の瞳に燃えるような感情を宿し、リリアを真っ直ぐ見つめている。
「やっと見つけたのに……愛してくれるって、嘘だったの!?」
「……は?」
ガルドとラッツとモルティナが同時に硬直した。
「ちょ、ちょっと待って!?」
リリアは青ざめ、背筋に冷や汗を伝わせていた。
新たな嵐が、リゾートの海辺を覆おうとしていた。
――つづく。




