第3章 ep.8 鍛冶師、驚愕す
工房に戻った四人は、ボロボロの姿を晒していた。
モルティナの盾は黒く焼け焦げ、ガルドの剣は刃こぼれだらけ。ラッツは足を引きずり、魂が抜けたような顔をしている。
その中で一人だけ妙に元気に胸を張っているのは、言うまでもなくリリアだった。
「いやー! 軍神様の華麗なる活躍で大勝利! これもぜーんぶあたしのおかげね!」
「……」
ガルドは反論しようとしたが、疲労で舌が回らなかった。
カイは目を見開き、彼らの手にある銀白の破片に釘付けになる。
「……こ、これは……アダマンタイト……っ!」
彼は破片を震える手で撫で、声を震わせた。
「まさか本当にあの怪物を……討伐してきやがったのか!」
「えへん!」
リリアは鼻を鳴らし、腰に手を当てる。
「サブクエなんて朝飯前よ!」
「……いや、その前にだ」
カイが彼女を睨む。
「嬢ちゃん、いつの間に危険区域に抜け出したんだ? さっきまで俺と一緒にビーチでナンパしてただろ!」
「な、なにぃ!?」
ガルドとラッツが同時に振り向く。モルティナも目を丸くした。
「えっ……えっと……」
リリアは冷や汗を流しつつ笑顔を貼りつける。
「情報収集、情報収集よ! 女の子から有益な情報を……」
「はぁ!? 嬢ちゃん、女に声かけても相手にされなかったじゃねぇか! 挙げ句、おじさんじみたセクハラ飛ばしてキモがられてただろ!」
「ひぃ!」
「銀髪のエルフに声かけた時なんて、殺意むき出しで追いかけられてたじゃねぇか! おかげで俺まで一緒に逃げる羽目になったんだぞ!」
「……」
三人の冒険者がリリアに一斉に視線を突き刺す。
「……それで危険区域に逃げてきた、と」
ガルドが低く呟いた。
「ち、違うもん! だって、あの爆弾だってちゃんと買ったんだから! みんなに内緒でね♡」
「購入!?」
ラッツが悲鳴を上げた。
「あんなヤバイもんを金出して買ったのかよ!」
「だって“裏技”は必要でしょ? 軍神様の計算通り!」
リリアは胸を張った。
カイは頭を抱えながらも、アダマンタイトの破片を見つめ直す。
「……まあいい。問題はこれだ。この素材なら最高の防具を打てる」
「防具?」
ガルドが問い返す。
「ああ。アダマンタイトはその硬度と魔力伝導率ゆえに“盾”向けの素材だ。剣にも使えなくはねぇが、せいぜい装飾に回す程度だな」
「装飾なんて……どうでもいいだろ」
ガルドがぼそりと漏らす。
カイの額に青筋が浮いた。
「なにィ……?」
工房の空気が凍りつく。
「装飾なんて“どうでもいい”? おい兄ちゃん、それは鍛冶師への冒涜だぞ!」
カイは炉に拳を叩きつけ、怒鳴った。
「柄の装飾ひとつで握り心地が変わり、戦場で生死を分けるんだ! たとえ装飾であろうと、職人の魂を込める。それが武具を“命を託す道具”に変えるんだ!」
三人は押し黙る。
ただリリアだけが「カイかっこいー」とケラケラ笑っていた。
カイは息を荒げ、破片を炉の赤にかざした。
「アダマンタイトの盾……必ず打ち上げてみせる。モルティナ、命を預ける覚悟はあるか?」
モルティナは静かに頷き、盾を胸に抱きしめる。
「……はい」
「だが!」
カイは続ける。
「盾だけでは終わらねぇ。ガルドの剣も、真の刃を打つには別の素材が要る。アダマンタイトは飾りにしかならんが……刃に適した金属が存在する」
「……何が必要なんだ」
ガルドが問い詰める。
「“黒曜竜の牙”。火山の奥に棲む古竜の牙こそ、最強の刀身を作るための素材だ」
炉の火がぱちぱちと爆ぜる。
冒険の終わりではなく、次なる挑戦の始まりを告げる音のように。




