表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/74

第3話 勇者、戦わず群衆を掌握す

「ガルドをやっちまえー!」

群衆の熱狂がギルドを揺らす。

歓声の中心にいるのは――少年を盾に抱きしめ、短剣を舐めて笑う金髪の美少女。


勇者を名乗る彼女は、自信満々に顎を上げた。

「ほら見ろ! みんな俺の味方だ。悪党はお前一人ってことだな、イケメン」


ガルドは低く舌打ちする。

「……クソッたれ。ガキを危険にしてるのはテメェだろうが」


剣を肩に担ぎ直しながら、心の中で吐き捨てる。

(武器なんて、いつでも返してやるつもりだった。少し脅して、怯えさせりゃそれで済むと思ってた……)

(だがこの狂った“勇者”が人質ごっこを始めたせいで、本当にガキの命が危なくなっちまった)


「……チッ、仕方ねぇ」

ガルドの眼が鋭く光る。


少年の顔はすでに真っ青だった。

「ぐ、ぐるじぃっ……! はな、はなして……」

勇者の腕に首を絞められ、必死に喉をかきむしる。

やがて泡を吹き、白目を剥いてびくびくと痙攣した。


「おい! やめろ! ガキが死ぬ!」

ガルドが怒声を上げる。


だが群衆は――。

「見ろ! 少年は勇者様のために命を捧げている!」

「これぞ新しき信仰の形!」

「尊い犠牲……涙が止まらん!」

「犠牲なしに大儀なし。ああ無常なり!」

「勇者様は新戦術“人質戦法”を編み出されたのだ!」


広間は喝采と歓声に包まれた。


「ふはは! これが俺の頭脳プレイだ!」

勇者は調子に乗り、少年をさらにぐいっと締め上げる。


「……最低だな」

ガルドは歯噛みし、剣に手をかけた。


そのとき。

群衆の中の一人が興奮のあまり、誤ってナイフを振り上げ、少年の体に迫った。


「ひっ……!」


ガルドの体が疾風のように動いた。

大剣の刃が閃光を描き、ナイフを弾き飛ばす。

金属音が響き渡り、宙に舞った刃は床に突き刺さった。


「なっ……速ぇ……!」

「今の、見えなかったぞ……」


冒険者たちが息を呑む。

その一撃は力任せではない。

刃筋は正確無比で、無駄が一切ない。

“堕ちた神童”と呼ばれようと、誰にも見られず磨き続けた剣術――

それがガルドの本当の姿だった。


少年は白目のまま、か細くつぶやいた。

「た、助かったのは……勇者様のおかげぇ……」


「そうだ! 勇者様が守ってくださったのだ!」

「新戦術“人質防御法”の応用だ!」

「勇者様ばんざーい!」


またしても群衆は勝手に解釈し、勇者を神格化する。


勇者は親指を立て、にやりと笑った。

「よっしゃー! 俺のおかげだな!」


「お前のせいでこうなったんだろうが!」

ガルドが怒鳴る。


しかし熱狂は止まらない。

「勇者様最高!」

「勇者様の犠牲精神に涙が止まらん!」

「犠牲は尊い! 勇者様ばんざーい!」


群衆の歓声と勇者の勝ち誇った笑みを前に――

ガルドは額を押さえ、深いため息を漏らした。


「……胃が痛ぇ」


この茶番を理解しているのは、やはり彼ただ一人だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ