第3章 ep.5 危険区域への道
工房を出ると、南国の陽射しと潮風が肌を打った。
リゾート街の喧噪はまだ近く、通りには旅人や観光客の姿があふれている。色とりどりのパラソルの下で笑い声が響き、ビーチサイドでは子どもたちが水遊びをしていた。
「……なんか場違いだな」
ガルドは人波を抜けながら低く呟く。
「ほんとっすよ。これから命懸けの討伐だってのに、横でカクテル片手に踊ってるとか……」
ラッツはうんざりした顔をする。
モルティナは静かに首を振った。
「でも……守られてるからこそ、あの人たちは安心して楽しめるんだと思う。危険区域に近づく人が少ないから、あの明るさも保たれてるのよ」
「……らしい答えだな」
ガルドは短く返し、歩を進めた。
リゾート客の姿が少なくなるにつれ、潮の香りに混じって鉄錆のような匂いが漂ってきた。白い砂浜は次第に黒く、重たい色へと変わっていく。
ラッツが鼻をひくつかせる。
「……なんか、焦げ臭くないっすか?」
「ああ」
ガルドが頷く。
「コータスの縄張りに近いんだろう。奴は火を吐くらしいからな」
モルティナが眉を寄せた。
「火と、ミスリルの殻……防御も攻撃も兼ね備えてるなんて、厄介ね」
「おいおい、不安煽らないでくださいよ!」
ラッツはぶるっと肩を震わせた。
その時、ガルドが不意に立ち止まり、振り返る。
「……本当にリリアは来なくていいのか?」
「無理に呼んだら、余計に拗ねるでしょ」
モルティナが苦笑する。
「それに、彼女がいなくても……私たちならできる。そう信じたいの」
「……そういうもんかねぇ」
ラッツは頭をかきながらぼやいた。
「でも正直、姉御がいないと不安っすよ。なんだかんだ言って、場の空気は締まる人なんで」
「……締まる?」
ガルドが訝しげに眉を寄せる。
「いや、まあ……騒ぐだけ騒いで最後はなんとかしてくれる、みたいな?」
「それを“締める”って言うのか……?」
三人は顔を見合わせ、ふっと笑った。
張り詰めた空気が少しだけ和らぎ、足取りが軽くなる。
しかし――
道の先に広がるのは、ひと気のない岩場だった。
砂浜は途切れ、黒々とした岩礁が入り組み、潮が泡立つ音が耳を打つ。
空気は一気に重たくなり、遠くで轟く低い唸りが聞こえる。
ラッツがごくりと唾を飲んだ。
「……なあ、今のって波の音っすよね?」
「違うな」
ガルドは剣の柄に手をやり、目を細める。
「……あれは、獣の息づかいだ」
モルティナが無言で盾を構えた。
陽光の下、銀の装飾がぎらりと光る。
三人の前に待ち受けるのは――伝説の素材を宿す巨獣。
南国リゾートの裏側に潜む危険区域で、勇者たちの新たな試練が始まろうとしていた。




