第3章 ep.3 鍛冶師カイと呪いの大剣
「兄ちゃん、悪かったな。……あんたの言う通りだったみたいだ」
黒く焼けた男――さっきのチャラ男が頭をかいた。さっきまでの軽口は影を潜め、どこか真剣だ。
「わかればいい」
ガルドは短く答え、鞘から手を離す。
「詫びと言っちゃなんだけどよ。兄ちゃん、剣士だろ?うちの工房よってかない?鍛冶をやっててよ、いい剣たくさんあるからサービスさせてもらうぜ!」
リリアはフンと鼻を鳴らし、不機嫌そうにいった。
「最高峰の鍛冶師“ここにいる”って、ゲームで知ってたから来たの。女の子がパーティにいることが販売条件の、あのスケベチャラ男のことね。」
「……はは。あいつが最高峰の鍛冶師?何言ってんだ。」
ガルドが疑念をいただくとカイは肩をすくめた。
「じゃ、案内する。海と太陽の先、火の匂いがする方へ」
リゾート街の喧噪を抜けると、潮の香りに混じって鉄と油の匂いが強くなる。
小さな路地の奥に、低い屋根の工房があった。看板には――Sun & Hammer。扉を開けば、炉の赤が頬を打つ。
「ほら、入んな。騒がしいのは嫌いだが、仕事の音は好きなんだ」
カイが器用に前髪をかき上げ、壁のフックから金属板を外して見せる。
《鍛冶ギルド公認/鍛冶スキル:8》
「……本物だな」
ガルドが低く呟く。
「へぇーへぇー。で、どんなの売ってんの?」
リリアがカウンターに肘をつく。
並ぶ品は――どれも妙にクセが強い。
「“超強力爆弾(投)”。起動すると広範囲にミスリルだって壊す強力な爆発が起きるぜ!
威力はお墨付きよ!」
「へぇーなかなかいいじゃん。どれど…
「ただし、起動、0.5秒後に爆発しちまう」
「ひっ」ラッツが半歩下がる。
「作動者にもダメージ入るやつじゃないっすか、それ!」
「“臭気盾(試作K)”。持ち主以外が一歩以内に近づくと、鼻がもげる臭いが出る」
モルティナの瞳がわずかに輝く。
「……いいかも」
「絶対やめろ!」三人の声がハモった。
「こっちは“自動研磨鞘”。納めるたびに刃を微細に研ぐ。緊急時、命を拾う刃ってわけだ」
ガルドは思わず鞘に指先を滑らせる。
「……これは、いい」
工房の奥、布をかけられた長い包みが目に入った。
リリアの目が、猫のように細くなる。
「ねぇねぇ、その奥の“触るな危険”って札、気になるなぁ?」
カイが慌てて前に立つ。
「いや、そいつはダメだ。呪いの大剣――店出ししてない没作品だ」
「没、ねぇ。――理由は?」
リリアがニヤリとする。カイは観念したように息を吐いた。
「昔、常連の女戦士に頼まれて“世界で一番格好いい大剣”を打った。……張り切りすぎた俺の“モテたい欲”が、鍛造時の魔力流に混ざっちまったんだろうな。装備者の性格が“軽薄”に上書きされる。戦闘性能は悪くない、むしろ良すぎる。だが……もはや武器じゃなく黒歴史だ」
耳まで赤くし、カイは布の端を押さえる。
「最高におもしろいじゃない♡」
リリアがその指をするりとすり抜け、布をひょいとめくった。現れたのは、装飾の少ない、妙に手になじみそうな長剣。
「ガルド。ちょっと“握ってみて”? ……ほら、検証よ、検証」
「やめ――」カイが制止しかけた時には、遅かった。
ガルドの指が柄を掴む。
グリップの重心。刃の走り。すべてが“合う”。
そして――
「よぉ、モルティナ。海風が似合うね。盾が似合う君はとってもかわいいよ?」
すべてが“軽い”声に変わった。
「ひぃぃっ!」
ラッツの身体が跳ねる。
「兄貴がチャラい! 兄貴がチャラいっ!」
モルティナは一歩退いた――が、頬の端が、ごく、ごくわずかに熱を帯びる。
「……でも、“かわいい”って言われたの、初めて」
リリアのこめかみがピキッと鳴った。
「なにっ!モルティナたんを口説くのは計算外!イケメン、許さんぞー!しかもモルティナたん!いつもかわいいっているじゃないか!?軍神様のかわいいはいらないのぉーーー!」
「まぁまぁ落ち着けよ、ベイベーたち!フゥーーー!」
チャラ男ガルドは軽くウインクする。
引き続きモルティナへのアプローチを再開。
「君のその黒髪、星屑をすくって染めたのかな? 好きだよ、全部」
工房の温度が、炉よりも上がった。
カイが半泣きで叫ぶ。
「それ俺の黒歴史! だから封印してたの! 返せぇ!」
「黒歴史っていっても今とあんま変わんないんじゃ…」
「…いい加減にしろよ、イケメンやろー!モルティナたんにそれ以上近づくんじゃねぇ。あ、そうだ。」
リリアがぐいと前に出る。胸を張り、髪をかき上げ、まつ毛をぱちぱちさせ――
お色気全開。
「う・ふ・ん♡ ガルドぉ。ねぇ、見て? あたし可愛いでしょ? 可愛いよね? 可愛いって言って?」
チャラ男ガルドの動きが、ぴたりと止まる。
「どうだ?あまりの可愛さにモルティナたんに目がいかないだろう?そうだ!この軍神様だけをみるんだ。ガルドぉ。どう?ねぇーどう?きゃぴ!♡」
視線がリリアの肩から、肘から、空中をさまよい――
「…………無理。きつくなーい?ってか何歳だよって感じ??」
厳しい現実をつきつきた。
リリアの笑顔が凍りつく。
「今、何て言った?…いまぁ!なんていったぁ!!」
「ああーみんな言わないでいたのに言っちゃたよ…」
ラッツがあきれる。
「なんか気持ちりぃ、……頭、いてぇ」
ガルドが眉間を抑えようとしたとき、柄が手から離れて空気が元に戻った。
チャラさが、すっと薄れる。
呪いが切れ、いつものガルドが立っている。
「……二度と、くだらねぇ武器を俺に近づけるな」
静かな声。炉の爆ぜる音だけが、パチンと鳴った。
カイは両手で顔を覆い、膝から崩れ落ちる。
「だから言ったのに……。」
「私だって、私だって、見た目っぽい話し方になるように気を付けてるのに…アラフォーに年齢は」
部屋の隅で項垂れながら傷つくリリア。
「はあ。ほんと姉御はろくなことしないよな」
肩をすくめながらことの顛末に一息つくラッツ。そして――
「かわいいって言われた…好きって言われちゃった…」
薄っすらと頬を染めるモルティナであった。




