第3章 ep.2 軍神様の水着バレー大作戦!
海だった。
照りつける陽光、白い砂浜、青すぎる海。椰子の木が風に揺れ、どこからともなく焼き魚の香り。屋台の兄ちゃんがココナッツを器用に割っている。
「……武器屋はどこだ」
ガルドが低くつぶやく。
「こころの目で見なさい。ほら、リゾートにだって名店はあるのよ?」
リリアは両手を広げ、砂浜を指した。女神の念話で「腕利きの鍛冶師がいる」と聞き、地図のピンを頼りに来たのだが――着いたのは完全にバカンス地だった。
「姉御、海っすよ? 剣の研ぎ粉じゃなくて日焼けオイルが売ってますけど?」
「……オイル、盾に塗ったら光って敵が目を細める」
「モルティナ、盾が汚れるだけだからやめるんだ」
ラッツがはしゃぎ、モルティナがいつも通り平坦に提案し、ガルドは頭痛を押さえる。
そのとき、リリアがぽんと手を打った。
「はい、会議。武器強化のまえに士気高揚! ビーチバレーで勝ったチームに“マンゴー盛り”奢り!」
「どういう順番だよ」
「軍神様の順番だよ。文句ある?」
「……ない」
「(あるけど逆らうと長引くやつだ……)」
即席のコートが描かれ、男チーム(ガルド&ラッツ)VS女チーム(リリア&モルティナ)で試合が始まる。
リリアは燃えるような赤いビキニ。本人の狙い通り、視線をさらう格好だった。腰をひねって挑発するたび、砂浜の男たちがちらちらと目を向ける。
一方モルティナは紺のワンピース水着。機能性しか考えていないシンプルな作り――だが、豊かな胸元を完全に抑えきれず、生地が張ってしまっていた。本人は気にせず無表情。
「……胸が揺れる」
「おい本人が言うな!」ガルドがすかさず制止する。
「ずるいっ! その天然で巨乳とか反則でしょ!」リリアが大げさに悔しがった。
「……泳ぎの邪魔」
「いや絶対武器だよ! 戦力だよ!」
「くだらんこと言ってないで始めろ」
ガルドは黒い無地の短パン一枚。筋肉質な体を晒していても色気は皆無、ただ戦場で鍛えた肉体をそのまま持ち込んだだけの、質実剛健な佇まいだった。
「いくよーっ!」
リリアのトスがふわりと上がる。跳躍した彼女の身体は軽やかに舞い――小悪魔めいた笑みとともにフェイントを落とした。ガルドのブロックが空を切る。
「ふぎゃっ!」
直撃を受けたラッツが砂に沈む。
「ラッツ、目で追え」
「追ってますよぉ! 追ったら直撃したんですよぉ!」
次のサーブはラッツの番だった。
ボールを手に取り、深呼吸。
「よし……俺が決める!」
そのとき――視界の端に、モルティナの胸元が揺れた。
無表情のままレシーブ体勢に入る彼女。だが、紺のワンピース水着は豊かな曲線を包みきれず、どうしても存在感を主張していた。
「…………」
ラッツの顔がみるみる赤くなる。
「おい、打て」ガルドが低く促す。
「え、えっと、あの、その……」
――ボトッ。
手からボールが落ちた。
「サーブミス!」リリアが高らかに宣言する。
「な、なんでだラッツ!」
「む、胸が、視界に……! も、もう無理っす……! あ、泡……」
ラッツはその場で白目をむき、泡を吹いて砂に倒れ込んだ。
「おい、気絶するほどか!」
「……無様」モルティナが首をかしげる。
「ラッツぅ~♡ もっと見ていいのよぉ~♡」リリアが追い打ちをかけた。
「やめろ! 余計ひどくなる!」ガルドが必死に止めた。
それでも試合は続く。
モルティナは着実に守りを固めていた。
巨体が跳ねるたび胸が揺れる――しかし本人は気にする様子もなく、冷静に砂を蹴ってボールへ走る。
伸ばした両腕。
砂に倒れ込みながらも、確実にボールを拾い上げる。
「ナイスレシーブ!」リリアが歓声を上げる。
「……拾っただけ」モルティナは相変わらず無表情。
ラッツは口をぱくぱくさせた。
「い、今の……めちゃくちゃかっこよかったっす……!」
「……胸ばっかり見てただろ」
ガルドの低い声が飛ぶ。
「ひぃっ!」
「色香は関係ねぇ。シンプルに技量が高ぇんだ。あいつの足運びと体幹、並じゃない」
硬派な口調でそう評するガルドに、モルティナは一度だけ瞬きを返した。
「……褒められた」
「別に褒めてねぇ」
結局、男チームの完敗。砂上に崩れたラッツの口からは、弱々しい泡が――
「……出かけたけど、今日は出さない」
「出さないでくれ。名誉のために」
笑って汗を拭う一行に、影が差した。
眩しい光の向こうから、黒く焼けた男が歩いてくる。金のメッシュ、片耳ピアス、開きすぎたシャツ。腰には工具袋――なのに雰囲気は完全に“チャラい”。
「やっほー☆ お嬢さん方、ビーチ似合ってるじゃーん。飲みに行こ? マンゴー、食べたい?」
白い歯がキラリと光る。
「ああん♡マンゴー食べたいなーついてっちゃおうかなー♡」
リリアがノリノリで返す。
「おい、その女にかまわないほうが身のためだぞ」
ガルドが低く睨みつけた。
「なにない、あんちゃんのツレぇ?女の子ノリノリじゃん?お話しして何も問題ないっしょ!」
「悪いことは言わねぇ。その女から身を引け」
「ははーん嫉妬かぁー?何、何?何しくれんのかなぁー?」
「……てめぇのこと考えてやってるんだろうが!」
瞬間、リリアが両頬を押さえて絶叫した。
「いやぁぁあああ! あ、あたしのためにぃいい! 争わないでぇーーー! あはぁーーん、うふぅううん、おほほほほ! お、お……おえぇ、慣れない声出して喉いてぇ……おえぇ」
一同「…………」
ギャル男はしばらく黙っていたが、肩をすくめて言った。
「兄ちゃん、悪かったな。……あんたの言う通りだったみたいだ」
「わかればいいんだよ」
ガルドはすっと鞘に手を戻した。
「……さっすが軍神様。すべて計算通りでこの場を収めたんすね……」
ラッツが感嘆の声を漏らす。
「――殺すぞ」
リリアの低い声が砂浜に響いた。




