第3章 ep.1 軍神の新しい力と泣き虫盗人
翌朝。
モルティナの家の簡素な寝床に、リリアは転がるように眠っていた。昨夜のご馳走と疲労で、ぐったりしている。
「……ぐうぐう……軍神様は、朝寝坊がデフォだから……」
布団にくるまったまま、リリアが寝言のようにつぶやく。
「姉御〜! もう朝っすよぉ〜!」
ラッツが遠慮がちに布団を揺するが、リリアは一切起きる気配がない。
「……おかわり」
モルティナは寝ぼけ眼で、昨日の大鍋を指差す。すでに空っぽなのに。
外では、ガルドだけが黙々と素振りを続けていた。剣が風を切る音が、規則正しく響く。
突然、リリアの頭に甘ったるい声が響いた。
『おはようございます、軍神様。はあ~それにしても朝から鍛錬するガルド様は素敵ですね♡』
「ひぃっ!? 誰!? って、女神!? やめろよ、勝手に脳内に侵入してくんな! 視界も勝手に見てるだろこれ! 完全にストーカーじゃん! きもっ!」
リリアが飛び起きて叫んだ。
「……また変な発作か」
「姉御〜! 頭やられちゃったんすかぁ!?」
「……怖い」
仲間たちの冷めた視線をよそに、女神の声は淡々と続いた。
『軍神様には、新しい権能がございます。それは――仲間に職業を与える力です』
光が降り注ぎ、モルティナとラッツの頭上に魔法陣が浮かぶ。
『モルティナ。あなたには〈ガーディアン〉の職を授けます』
「……ガーディアン?」
モルティナの手に、重厚な盾が現れた。
「守るの……悪くないかも」
その照れくさそうな表情に、一同はほっとした。
だが次の瞬間――
『ラッツ。あなたには〈泥棒〉の職を授けます』
「ど、どどどど泥棒ォ!?」
ラッツがその場で転げ回った。
「いや待って! せめて盗人って言ってくださいよ! 盗人ならまだカッコつくじゃないっすか! 泥棒って……完全に犯罪者じゃないっすかぁ!」
リリアがニヤリと笑う。
「だってアンタ、カジノの金持ってきたじゃん。完全に現行犯〜♡」
「違うっす! あれは軍神様が持てって言ったからで……! うわあああ! 俺だけ格下感すごい! なんでだよぉ!」
ラッツは床に突っ伏して泣きじゃくる。
「……似合ってる」
モルティナがぼそりと呟いた。
「ぐはぁっ! とどめ刺すのやめてくださいぃ!」
ガルドがため息をつきながら口を開く。
「泥棒でも使いようはある。リリアが何かやらかしたら…お前が全員分の罪を被れ」
「慰めになってないっすよぉぉ!」
ラッツの嘆き声が家中に響き渡った。
その騒ぎを押し切るように、女神の声が響く。
『さて、次なる脅威の報せです。四天王の一角――バルゴラス。その勢力が急速に拡大しています』
リリアの顔色がサッと青ざめた。
「……バ、バルゴラス!?」
あの能天気なリリアが本気で動揺している。
「え、ちょっと待って。リリアが青ざめるって……相当ヤバいやつなんじゃ……」
「……こわい」
「マジで死にたくないっす……」
楽観ムードは一気に崩れた。
「……行くぞ」
ガルドが低く呟いた。
「勢力を広げる前に叩く。遅れれば遅れるほど被害は大きくなる」
「えええ!? やだやだやだ! あたしまだ死にたくない! 少なくとも武器の新調ぐらいはしてからにしよ!」
「……珍しく正論だな」
リリアのまともな意見に、一同はしぶしぶ頷いた。
こうして、戦力増強のための旅が始まる――。




