第2章 ep.11 カジノ潜入 ― VIPルームの悪夢再び
夕暮れ。ネオンの光が街を染め、煌びやかなカジノの門が開かれていた。
勇者一行は、支配人直々の「招待状」を手に、きらびやかなホールを歩いていた。
「うわぁ……お金の匂いしかしない……」
ラッツは天井を仰ぎ、胃を押さえた。煌びやかなシャンデリアに、着飾った紳士淑女たち。どのテーブルにも金貨の山が積まれている。
「へっへっへぇ! これ全部、あたしたちのものになるんだよね〜♪」
リリアはご満悦で両手を広げる。
「……一枚も勝ってないのに、なに言ってんだ」
ガルドは呆れ顔だ。だが、その目は決して緩んではいなかった。
――相手は、あの怪物ジルベール。気を抜けば死ぬ。
案内役のディーラーが立ち止まり、恭しく一礼する。
「こちらでございます。支配人が皆様をお待ちしております」
重厚な扉が開かれた瞬間――甘い香水の匂いと、粘つくような笑い声が漏れ出した。
「おほほほほ♡ いらっしゃいませぇ、勇敢なる子羊ちゃんたち♡」
赤い絨毯の奥、豪奢な椅子に腰掛けていたのは、筋骨隆々のおねぇ――ジルベール・デモーニオ。
煌びやかな衣装に身を包み、分厚い腕には宝石が鈍く光っている。
「ひぃっ……!」
モルティナが思わず盾を抱きしめる。
「……出たな」
ガルドは剣に手をかけ、一歩前に出た。
「まずは挨拶代わりに……」
リリアが指を鳴らし、軍神権限でステータスウィンドウを開いた。
◆ ステータス:ジルベール・デモーニオ
レベル:68
ジョブ:闇賭博師(デモーニオファミリー首領)
スキル:〈瞬間移動〉〈魔眼〉
備考:筋力・敏捷・魔力いずれも高水準。瞬間移動で死角から襲うトリックスター。
「……やっぱ強ぇな」
ガルドの額に汗が浮かぶ。
「正面からぶつかるだけじゃ、勝ち目はねぇ」
「だから! 正面からいかないのよ!」
リリアはどや顔で胸を張る。
◆ 勇者一行の最新ステータス
リリア(軍神/Lv20)
指揮・戦術特化。〈戦術指揮〉で仲間の動きを補正し、〈転送〉でポーションや罠を瞬時に渡せる。
ガルド(勇者/Lv20)
〈剣術Lv8〉、自作の二の型を会得。正面突破の切り札。
ラッツ(盗賊/Lv20)
〈罠術Lv3〉〈隠密Lv2〉。戦場を制御し、敵の瞬間移動を封じる役割。
モルティナ(Lv12)
〈大食い〉〈盾術Lv1〉。ポーションと巨大盾で「不沈艦」として敵の攻撃を一手に引き受ける。
ジルベールは立ち上がり、ワイングラスを軽く振った。
「レベル20前後の子羊ちゃんたちが、レベル68の狼に勝てると思ってるのかしらぁ♡」
「……勝てるさ」
ガルドは静かに言った。
「俺ひとりじゃ無理だ。だが――こいつらと一緒なら、勝算はある」
「ひぃっ……! な、なんでこっち見るんですか!」
モルティナは小さく叫ぶ。
「そ、そうですよぉ! 賭けはやめましょうよぉ!」
ラッツは青ざめて首を振る。
「賭け上等!」
リリアがにやりと笑い、指を突き出す。
「だってゲームはね――みんなでやったほうが、クリア率が高いの!」
ジルベールの笑い声が、低く不気味に響いた。
「おほほほほ♡ いいわぁ。その“チーム”とやらで、どこまで耐えられるか……見せてもらうわね♡」
赤い絨毯の上で、双方の視線がぶつかり合う。
――圧倒的な強者。
――だが、勇者一行には「勝てる布陣」がある。
ジルベールが立ち上がると、空気が重く揺れた。
だがリリアは平然と肩をすくめ、笑ってみせた。
「ふーん。思ったより平気ね。どんな奴か分かってたら案外慣れるもんよ。……それにちょっと顔、かっこいいじゃん」
「――ッ!?」
ジルベールの目が吊り上がった。
「私はねぇ!」
声がホールに響き渡る。
「面のいい女に“かっこいい”って言われるのが大嫌いなの! 世界で二番目に可愛いこの私に向かって、なんてこと言うのかしらぁ!?」
リリア以外の三人が凍り付く。
「この前は手加減してあげたけど……その女に免じて、今度は――本気で相手してあげるわ♡」
「……なんで余計なこと言うんすかぁぁ!」
ラッツが頭を抱える。
一同「……」
重苦しい沈黙を切り裂くように、赤い絨毯の上で視線が交錯する。
――今宵、カジノのVIPルームで、命を賭けたゲームが幕を開ける。




