第2章 ep.10 決戦前夜
カジノの奥、豪奢なVIPルーム。
赤い絨毯の上で、ジルベール・デモーニオはワイングラスを傾けていた。
「……報告しなさいな♡」
「はっ。奴ら――勇者一行は、思った以上に伸びております」
黒服の側近が跪き、低い声で続ける。
「盾役の娘が、倒れません。剣士も型を磨き、盗賊の小僧も隠密に冴えが……」
「まぁ♡ ゾクゾクするわね」
ジルベールは唇を歪め、不気味に笑った。
「強くなった獲物を叩き潰す瞬間が、一番美味しいのよ♡」
一方その頃、工房。
寝床の片隅で、勇者一行は小さな火を囲んでいた。
「……剣速、少し上がったな」
ガルドは手のひらを見つめ、短く呟く。二の型が少しずつ板についてきている。
「モルティナもすごいですよぉ! 盾で受けるのも早くなってますし!」
ラッツが泡を吹きそうになりながらも必死にフォローする。
「わ、私……みんなの役に立ててるなら、嬉しいです」
モルティナが大盾を抱きしめ、はにかんだ。
リリアは満足げにうなずく。
「よしよし、みんな成長してる! これでカジノも余裕で攻略よ! 金は天下の回り物〜♪」
「破産フラグですぅぅ……」
ラッツが再び青ざめる。
そのとき、リリアが指を鳴らした。
「そうそう! 前にあたし気絶してて見られなかったけど、ジルベールのステータス、今なら覗けるんだよね〜」
軍神の光が空間に走り、文字が浮かび上がる。
――ジルベール・デモーニオ。レベル68。ジョブ:闇賭博師。ユニークスキル:瞬間移動、魔眼。
「……強ぇな」
ガルドが目を細めた。
「正面からやり合うのは、正気じゃねぇ」
「だから正気じゃないやり方で勝つのよ!」
リリアはどや顔をする。
「……俺の胃はもたない」
ガルドは額を押さえた。
工房の奥から父親が現れた。
「……どうか、娘を頼む」
その声は静かだが、深く重かった。
「モルティナがこんなに笑っているのは初めてだ。……どうか、その居場所を守ってやってくれ」
モルティナは頬を赤くして俯いた。
「お父さん……」
翌朝。
カジノの使者が現れ、金色の封筒を差し出した。
「支配人からの正式なご招待状です」
リリアは目を輝かせ、封を開く。
「『VIPルームで待つ』……きたぁー! ラブレター第二弾!」
「……死地への招待状だ」
ガルドの低い声が響く。
だが次の瞬間、彼はにやりと笑った。
「――だが、負けっぱなしは性に合わねぇ!」
「ひぃっ!」
モルティナが盾を抱きしめる。
「ちょっと! 負けたからって威嚇していい理由にはならないでしょ!」
リリアが即座にツッコむ。
ガルドは頭を押さえ、ため息をついた。
「……ちげぇよ。今日も……頭いてぇ」
「……」
「……」
一瞬の沈黙。ラッツが小声でつぶやく。
「ガルドさんの“胃痛芸”に……また新しいバリエーションが増えたぁぁ……」
笑いと不安が入り混じる中――
街に夜が落ち、カジノの塔にジルベールの影が浮かんだ。
不気味な笑い声が、窓の奥からこだました。
――決戦前夜。




