第2章 ep.7 モルティナ、工房にて
薬草と薬液の匂いが充満する部屋で、三人は目を覚ました。
天井まで積まれたポーションの瓶が光を反射してきらきら揺れている。
リリアはベッドから身を起こし、ぐえっと声を漏らした。
「げほっ……うえぇぇ……にが……でも効くぅ……」
彼女の視線の先に座っていたのは、黒髪の美少女。
大きな瞳でにこにこしながら、瓶を抱えている。
「私、モルティナ。いっぱい飲ませたから、元気になってるでしょ!」
その一言で、リリアの脳内に火花が散った。
「……で、出たぁぁぁぁ! ゲームで最強キャラ! 俺の推しぃぃぃ!」
ベッドから飛び起き、リリアは妙に低い声でモルティナに迫る。
「よぉ〜モルティナたん♡ 一緒に俺と世界救おうぜぇ? かわいいなぁ〜ぺろぺろえろえろはすはす!
前世だったら完全にアウトだけど、今は俺、美少女だからセーフだよねぇぇ? 百合だもんねー♡」
モルティナはぽかんと瞬きを繰り返す。
リリアはさらに手を広げ、天井を仰いだ。
「そうだ、そうだとも! このために俺は転生したんだなぁーー!」
「ちょっ、ちょっと姉御! やめましょうよぉ!」
ラッツが慌てて割り込み、必死に止める。
「命の恩人なんですよ!? 口説くとか……だめだってばぁぁ!」
「えぇぇ〜? せっかくの出会いなのに……」
リリアは名残惜しそうにモルティナの手を離した。
モルティナは頬を赤らめ、瓶を胸に抱きしめる。
一方で、ガルドは剣を膝に立て、黙っていた。
リリアの騒ぎにも一切口を挟まない。
(勇者になって、レベルも上げた。それでも……ジルベールには敵わなかった。
俺は……また足りなかったのか)
普段なら冷静にツッコむ彼が無言でいることで、部屋の空気は不思議な重みを帯びた。
沈黙を破ったのはリリアだった。
「ま、まあ落ち込むのはあとにしといて。今は大事な鑑定タイムだよ!」
彼女が指を鳴らすと、軍神権限で光の板が現れ、モルティナのステータスが映し出される。
モルティナ
レベル:12
ジョブ:なし
ユニークスキル:〈大食い〉
「……は?」
ガルドが眉をひそめる。
「な、なんですかこれぇ!? おにぎり何個食えるかって話ですかぁ!?」
ラッツが裏返った声を上げた。
モルティナは顔を赤くし、視線を逸らす。
「……ご、ごめんなさい……ちょっと人より食べるだけで……」
部屋がぽかんと静まり返る。
ラッツは「(なんでスキル欄に大食い……?)」とつぶやき、ガルドは無言でため息を吐いた。
そこでリリアが、どや顔を決める。
「ふっ……お前ら、わかってないなぁ〜」
鼻を鳴らし、胸を張ってにやり。
「このスキル、ただの食いしん坊じゃないんだよ! 戦闘中にポーションを無限に飲める。つまり HP が減らない! 最強タンク爆誕ってわけ!」
「……」
「……」
二人はぽかんと黙り込む。
「しかもね!」リリアは身を乗り出す。
「ゲームでもモルティナは最強キャラだったんだよぉ! 可愛いし、性能も最高! これでパーティの勝ち確定!」
「……なんでそんなに誇らしげなんですか」
ラッツがぼそっと漏らす。
「……胃が痛ぇ」
ガルドは頭を抱え、深くため息をついた。




