第2章 ep.5 街の影とチンピラ勇者
大都市グラン=ヴェルムの街路は、夜でも賑わいが絶えない。
宿に戻る道すがら、リリアはまだ昨日の勝利を自慢し続けていた。
「ほら〜! 私がいたから大儲けできたでしょ? もう一回カジノ行っちゃう?」
「いい加減にしろ」
ガルドは短く返す。視線は鋭く、しかし心中には小さなざらつきが残っていた。
(……確かにステータスは上がった。レベルも伸びた。だが……これでいいのか? 本当にこれで魔王と戦えるのか……)
「ねぇ勇者さま〜? 顔怖いよ。もっと笑顔笑顔!」
リリアがわざと口角を引っ張ってみせる。
「そうだそうだ〜! 姉御の笑顔で和ませなきゃだめだぞ〜!」
ラッツも媚びを売り、手を合わせて拝むようにぴょこぴょこ飛び跳ねる。
「……てめぇらの顔が一番ストレスなんだよ」
ガルドはぼそっと吐き捨てた。
そのときだった。路地の暗がりから、黒服の男たちがぬるりと現れる。
どこかカジノの匂いがする連中。無言で一行を取り囲んだ。
「なぁ、昨日の美少女……いや、軍神様? 派手に勝ったらしいじゃねぇか」
「目立つのはよくねぇぜ。カジノに逆らうとどうなるか、教えてやらねぇと」
リリアは肩をすくめ、笑顔でごまかす。
「いやぁ〜人気者はつらいですねぇ? 俺、ファン対応とか苦手なんですよぉ」
「姉御ぉ! や、やっばいよ逃げよ逃げよぉ!」
ラッツはすぐに後ろへ下がり、汗をだらだら流す。
だがその横で、ガルドはゆっくり前に出た。
目の奥で光るのは、久しく押さえ込んでいた炎。
「……最近は我慢してたけどよ」
彼は指を鳴らし、黒服たちを睨みつける。
「溜まってんだよ。……ちょうどいい、少し発散させてもらう」
次の瞬間、ガルドの拳が閃いた。
黒服の一人が呻き声を上げ、地面に沈む。
周りの男たちが「なっ……!」とたじろぐ間に、ガルドはすでに次の相手へ踏み込んでいた。
ラッツはギルドで絡まてたころを思い出し絶叫する。
「ひぃぃぃ! や、やめて勇者さまぁ!」
リリアは後ずさりし、両手をぶんぶん振り回す。
「もうー! お母さんこんな子に育てた覚えはありません! 今すぐ謝ってー!」
「そうだそうだぁ! お父さんだってお前がこんなんなるとは思わなかったぁ!」
ラッツも涙目で叫びながら必死に止めようとする。
だがガルドは鼻で笑い、冷ややかに呟いた。
「……ああ、雑魚より先にお前らから片づけるか」
「す、すみませんでしたーー!」
二人は声を揃えて土下座した。
やがて黒服たちは、全員転がされたまま呻き声をあげていた。
ガルドは袖を払ってため息を吐く。
「……ちょっとは気が晴れた」
リリアとラッツは顔を引きつらせたまま同時に言った。
「こいつ絶対ヤンキーだ……」
一方その頃、カジノの奥。
黒服の一人が、這うようにして支配人の前にひれ伏していた。
「し、支配人……あの一行、我々では手に負えません……」
「あらぁ〜ん♡」
支配人は大きな体をゆるりと揺らし、宝石の散りばめられた扇子をぱたりと閉じた。
「やっぱり手強いのねぇ。ますます遊びたくなっちゃうじゃないのぉ♡」
筋骨隆々の巨体に、艶やかな笑み。
「しょうがないわねぇ……次は“私”が直接サービスしてあ・げ・る♡」
闇に溶けるような声が、街の底へと響いた。




