第2章 ep.3 軍神リリア、カジノで無双する
大都市グラン=ヴェルム。
夜の帳に灯るのは、眩いばかりの光。煌々と輝く看板が立ち並び、人々のざわめきは絶えることがない。
「ここが……カジノ街……」
ラッツは目を丸くし、財布を抱きしめて小刻みに震えた。
「すごい、人だかり……でも俺もう帰りたい……」
「おい、気を抜くな」
ガルドは周囲を一瞥する。
「金と欲望の集まる街だ。スリや詐欺だって横行してる。気を張れ」
「は〜い、監督さまからのありがた〜い注意でした〜」
リリアは両手を頭の後ろで組み、ひょいと街の中心にそびえる巨大な建物を指差した。
「でも目指すのは決まってるでしょ? ほら、あそこ!」
金色の看板にでかでかと「GRAND CASINO」と書かれた建物。まばゆい光を放ちながら、まるで人々を飲み込もうとしているかのようだった。
「いらっしゃいませ、お嬢さま」
カジノの扉を開けるや否や、ディーラーが恭しく頭を下げた。
「本日はどの卓へ?」
「ポーカー一択!」
リリアは即答した。
「だって、頭脳戦こそ私の本領だもん」
「……嫌な予感しかしない」
ガルドは小さくため息をつき、ラッツは「ぜったい死ぬ……借金で死ぬ……」と呟きながらよろよろとついていった。
円卓の上にカードが並ぶ。
観客席に集まった客たちの目が、一斉にリリアへ注がれた。
「おい、見ろよ。あの金髪美少女……」
「カジノに慣れてねぇ観光客だろ。すぐにスってんてんさ」
「でも顔がいいから許す!」
囁き声の中、対面に座るのは大柄の男。鼻には金の指輪をつけ、顎髭を撫でながらにやりと笑った。
「お嬢ちゃん、カジノは初めてかい? 悪いことは言わねぇ、身の丈に合った賭けをするんだな」
「ふふん、余裕余裕。軍神リリア様に負けはない!」
リリアは配られたカードをぱっと手に取り、数秒眺めただけで場を見渡した。
男の眉が動く。隣の客が鼻をこすった。背後の観客が息を呑む。
(……この人、ハッタリでベットを上げるつもり……。あの人は本当に強い役を持ってる……。ふむふむ……)
リリアの目が爛々と輝く。
「よし、オールイン!」
「なっ……!」
ガルドの瞳が見開かれる。
「いきなり全賭けか!」
「お、おいおいおい! やめろ、破産する! 死ぬ! 俺が死ぬ!」
ラッツが隣で白目をむき、口から泡を吹いた。
観客たちがどよめく。
「無謀だ!」
「まだ序盤だぞ!」
「だが美少女だから許す!」
相手の男は大笑いした。
「面白ぇ! 乗ってやる!」
数秒後。カードが開かれた。
相手は自信満々のフルハウス。
だがリリアは――ロイヤルストレートフラッシュ。
「なっ……!?」
男の顔が蒼白に染まる。
歓声が爆発した。
「すげぇぇぇ!」
「全賭けで勝ちやがった!」
「伝説だ!」
リリアはチップの山を前に仁王立ちし、ドヤ顔を決める。
「見たか! これが軍神リリア様の脳筋知能無双! 金貨は正義、ポーション買い放題ぃぃぃ!」
「……もうダメだ……」
ラッツはひっくり返ったまま小刻みに痙攣している。
「俺たち、借金地獄じゃなくて支配人に殺される未来しか見えない……」
「……本当にやっちまったな」
ガルドは額を押さえ、苦々しく呟いた。
その熱狂の裏側。
カジノの奥まった廊下を、黒服のスタッフが歩いていた。耳飾りの通信具を押さえ、小声で囁く。
「支配人……例の少女が、全卓を制しました。確率を読み切り、全ベット。観客も夢中です」
返答は――妙に艶めかしい、おねぇの声だった。
「まぁ〜いやぁだ♡ この館でそんな派手に勝つなんて、目立っちゃうじゃないのぉ〜」
煙草の火がぼっと赤く揺れた。
闇の奥から現れたのは、筋骨隆々の巨体。金糸のフリルをまとい、宝石をじゃらつかせた男が、妖艶に腰をくねらせながら立ち上がる。
「勝ちすぎる客はねぇ……大抵ろくな末路にならないのよ♡」
扇子をぱたりと閉じ、唇を紅く歪める。
「ふふ……かわいい顔してるじゃない。調べておきなさい。
いずれ“私のテーブル”に招待してあ・げ・る♡」
カジノ支配人――闇と金欲を司る怪物が、軍神リリアに視線を注いだ瞬間だった。




