第2章 ep.2 勇者一行、カジノ街へ
神殿を出ると、冷たい朝の風が頬を撫でた。
勇者の座をガルドへ譲渡し、軍神に“昇格”してしまったリリアは、両手を頭の後ろで組んで大きく伸びをする。
「ふぁーあ。さて、世界救うのは明日からにしよっか」
「お前な……」
ガルドはこめかみを押さえる。「勇者を任された身としては、修行と鍛錬に励むしか――」
「修行ぉ? だりぃ〜〜。汗臭くなるしー。てか、効率悪いよねぇ?」
リリアは唇を尖らせ、きらりと悪戯っぽく笑った。
「裏技レベリングがあるじゃない!」
「……裏技?」
ラッツが不安そうに目を泳がせる。
「そう! 資金をドカンと稼いで、ポーションと毒を山ほど買い込むの。
んで、経験値がやたら高い“メタルモンスター”を毒殺してレベルアップ! 最速で強くなれるんだよ」
自信満々に言い放つリリアに、ガルドは絶句する。
「鍛錬じゃなくて、博打と毒か……」
「うわぁ……俺ら、絶対ろくでもないことになる未来しか見えない……」
ラッツは肩を落とし、地面に突っ伏した。
「安心しなって。舞台は大都市のカジノ街よ!」
リリアはくるりとターンし、髪をひらめかせる。「金と夢と借金が渦巻く華やかな場所! 軍神の私が監督してあげる!」
「監督する方向がおかしい!」
ガルドが即座に突っ込む。
「資金調達は必要だが……本当にカジノなのか?」
「だってカジノは勝てば大儲けじゃん!」
「負ければ?」
「負けない負けない。私は裏技の女神だから!」
「神は女神一人で充分だ!」
そんな掛け合いをしながら、一行は大都市グラン=ヴェルムへと歩を進めた。
道中、ラッツは盗人ジョブをもらったばかりの身でずっと落ち込みっぱなしだった。
「盗人って……なんかこう、泥棒キャラって感じじゃん。かっこよくない……」
「似合ってるから大丈夫!」とリリアがにこやかに返す。
「全然慰めになってねぇ!」
笑い声とため息が交錯する中、遠くの地平に煌びやかな街並みが浮かび上がってきた。
それが“カジノ街”と呼ばれるグラン=ヴェルムであった。
その頃、街の裏手。
貧民街にある小さなポーション工房。棚の上には賞味期限を過ぎ、売り物にならなかった瓶が山積みになっている。
「お父さーん! また売れ残り? やったぁー!」
ぱたぱたと駆け寄ったのは、一人の美少女。
つややかな黒髪を揺らし、彼女は瓶を抱きしめて目を輝かせる。
「いただきまーす!」
ごくごく。
喉を鳴らして一気に飲み干した。
途端に鼻をつまんで顔をしかめる父親。
「モルティナ……そんなマズいものを、どうしてそんなに」
「え? だっておいしいよ? この苦みとえぐみと鉄さびみたいな味、最高じゃん! だーいすき!」
モルティナはにぱっと笑い、もう一本を手に取る。
「お前は……父さんを泣かせたいのか……。せめて、ちゃんとした食事を……」
「ん〜? 大丈夫! 私、これで元気いっぱいだし!」
父のため息をよそに、モルティナは賞味期限切れポーションを次々に飲み干していく。
その身体に秘められた“特異な資質”を、この時まだ誰も知らなかった――。




