幕間:とある村の大食い少女
村はずれの小さな工房。
窓からは薬草の香りと、ほんのり苦い薬液の匂いが漂っている。
「父さーん! 今日のポーション、昨日よりちょっと酸っぱくて最高だよ!」
モルティナはご機嫌に瓶を傾け、鮮やかな緑色の液体をぐいっと飲み干した。
「ぷはぁっ! ……うん、やっぱりおいしい~!」
奥で帳簿をつけていた父は、顔をしかめる。
「お前な……それは売れ残りの廃棄だぞ。こんなものしか飲ませられなくて、すまん」
モルティナは首を傾げた。
「え? だっておいしいのに? ポーションって全部こんな味だと思ってた」
父は心の中で呻いた。
(本当は激マズで、捨てるしかないものだ……。
娘は腹をすかせて仕方なく飲んでいるんだ。俺はなんて不甲斐ない親なんだ)
「ふふっ、でもいいんだよ」
モルティナはにこりと笑い、瓶の底を覗き込む。
「だって、どうせみんないつか死んじゃうんだから。おいしいって思える方が得じゃん?」
その能天気な諦観に、父は返す言葉を失う。
村の外を歩けば、ひそひそ声が聞こえてくる。
「またポーションをがぶ飲みしてる……」
「怪物みたいだな」
けれどモルティナは気にしていない。
「ま、どうせ死ぬしー♪」と口笛を吹き、帰り道の草花に目をやる。
夜、窓辺で空を見上げた。
流れる雲の合間に、光の筋がかすかに瞬く。
「……でも、もしほんとに誰かに必要とされたら、嬉しいかもなぁ」
空の下で、少女はぽつりとつぶやいた。
彼女がまだ知らない運命の舞台が、すぐそこまで迫っているとも知らずに。




