第2話 はじまりの鐘 ③
第2話終わりです!
魔術は大きく六つの属性に分けられており、火・水・風・土の基本属性に、能力補助に特化した白と黒。
大抵の魔術師はその内の一つか二つに適性のある者がほとんどとなっており、三つも適性があれば仕事には苦労すること無く生きていけるだろう。
その為、魔術師になる者は自分の適性にあった魔術を学び修練するために、大陸の東に位置する魔術学院に向かう者が多い。
そんな魔術の素質が大きく関わる魔術師という職の中で、リアス・サダルメリクは天性の持ち主だった。
文字通り才能の塊であった彼女は基本四属性はもちろん、相反する白と黒の両属性にも適性があり魔術学院を主席で卒業。その後は多方面からお抱えの魔術師にならないかという提案を蹴り、まさかの冒険者という安泰とは真反対の職に就く。
そんな経歴を持つ彼女を前にして、おもちゃ箱を見る子どものようなキラキラとした瞳をするミサとローク。
「あなたが優秀な魔術師であるリアス・サダルメリク殿ですか!」
二人の視線を追い、隣に並んで座るリアスを見る。
羨望の眼差しを受け、満更でも無いのか誇らしげに胸を張っている。
褐色の肌に幼さを残しつつも、どこか色気を感じる顔立ち。
恐らく彼女の一族に伝わる伝統的な衣装であろう装備は、所々に目立つ金の装飾が散りばめられており一般的な魔術とは毛色が違った装いをしている。
そして何より、人間とは違う位置にある耳は髪と同じ漆黒の獣毛が生えており、時折ゆらゆらと揺れ動く尻尾は彼女が獣人であることを示していた。
「いかにも! ミャーこそ猫人、西猫族の天才魔術師リアス・サダルメリクにゃ!」
おぉ! と感嘆の声を露わにする二人を見て、より一層無い胸を張るリアス。
そんな三人を気持ちは遠巻きに見つつ、リアス・サダルメリクが単独で活動している理由を思い出す。
優秀な彼女がどのパーティーにも入らずに単独でいるわけ。答えは至ってシンプルで、彼女の性格自身に問題があるのだ。
それは彼女が幼少の頃より大人たちに神童だと持て囃されたため調子に乗りやすく、さらに金にがめついためでもあった。
リアスが初め組合を訪れた頃はそれはもう色々なパーティーから引っ張りだこだったのだが、やれそんな依頼は気乗りしないから今日は休むだの、やれ私の魔術は単価が高いから報酬はほぼ貰って行くだのと、一つ、また一つとリアスと組むパーティーは減っていき俺が気づいた時には単独で依頼をこなすようになっていた。
俺自身は元々一人の方が好きだったので、組合では緊急時以外に他のパーティーと組むことは無いのだが、興味本位でオフィーリアに人柄を聞いたところその様な答えが返ってきたのである。
そんな話を聞けば誰でもこいつとだけは組みたくは無いと思うのは必然である。
故に俺は今ものすごく不安なのだ。
「このアホ面を浮かべている人間から依頼があるって聞いたけど、どんな依頼にゃ?」
よし、やはりこいつは苦手かもしれん。
そんなシノアを他所に、リアスにも同じ内容を話す出すミサ。
「ふむふむ…良いにゃ、その依頼受けるのにゃ!」
「ほ、本当か!」
「もちろんにゃ! 面白そうだし、何より国も絡むなんて金の匂いがするのにゃ…」
にしし、と悪い顔をして笑うリアスを見ると本当に大丈夫なのだろうかと不安になってくる。
「改めて私がミサ・レオナールでこちらがローク・ベリエだ。長い付き合いになるかも知らないが宜しく頼む」
「よろしくにゃ! ところでこの朴念仁も仲間なのかにゃ?」
ビシリと迷いなく指をこちらに差してくるリアス。
我関せずのように遠巻きで見守っていたのだが、それが逆に仇となってしまった。
勝手に目元がピクつく。
だがしかし、ここは年上の矜持として大人の対応を見せなければいけない。
「そうだよな、俺だけ自己紹介がまだだったからな。俺はシノア・ククルって言うんだ、シノアでいいぞ」
「お前の名前なんか聞いてないのにゃ。一緒に来るのか気になったから聞いただけなのにゃ」
「さっきまでは行く気だったけど、今は悩んでるよ!」
お前のせいでな!
今日は良い酒でも買って帰ろうと思っていると、部屋の扉が勢い良く開かれる。
無遠慮に開けられた扉の方を振り向くとそこには、オフィーリアが立っていた。
「お話のところ、申し訳ございません!」
余程急いでここに来たのか息も絶え絶えだ。
「ただいま組合にて、緊急の討伐任務が発令されました」
状況を察知しだした面々を見て、オフィーリアはその中からシノアを見つめ口を開く。
「対象はシノア様が討伐されたはずの新種の異獣です」
有り得ない情報を聞き驚愕に目を見開く。
コンガルドの街には夜を知らせる鐘が鳴り響いていた。
第2話 始まりの鐘
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