第1話 穿つ運命ならば ②
冒険者と呼ばれる職業は長年に渡って人類を脅かしてきた獣、異獣に対してその存在を調査及び討伐を目的とするもの。そして原則として冒険者組合というものに所属していなければならない。
組合から斡旋される依頼の中には討伐は勿論のこと、研究機関による調査依頼や環境の調査、素材の採集まで幅広い種類の依頼がある。
そしてシノアは普段、数ある依頼の中から調査を主とした依頼を受注することが多い。
それは本人の討伐能力が劣るためでは無く、彼自身の能力と性格に起因するものだった。
今朝方受注した依頼もまさしく調査を目的としたもので、他の冒険者よりも観察眼が優れている彼は昼過ぎには既に調査を完了していた。あとは街に戻り、組合にて依頼内容の報告をすれば今日の成果としては十分であった。
しかし帰路に着いたタイミングで、まさか異獣とばったり出くわすことになるとはシノア自身も思っていなかった。
「しかも調査の原因自体に襲われるとはなぁ…」
この溜め息で何度目になるのか。
シノアは主にクラキリシュ国という大陸南部に位置する王制国家、その首都コンガルドにて活動をしている。
しかし近頃、その近辺において大型の異獣に食い荒らされたと思わしき動物の死骸が多数発見されており、被害に遭ったと思われる人の遺体までもが報告されている。
受注した調査内容はその原因と思しき異獣の調査を任されていた。
未だに様子を探るようにして周囲にその鋭い眼差し向けている鋼裂蜥蜴にバレないように、倒木の陰から顔だけを出し観察をする。
「思ってたより小ぶりだな」
午前の間に見つけた食い残された死骸にはどれも同じような歯形がついており、周囲に残された足跡や木の擦れ具合から体長はおおよそ7〜8m。
被害にあった死骸はどれも昨夜のうちに襲われており夜行性と踏んでいた。
しかし森の闇に身を潜める目の前の個体は大きく見積もっても5〜6mほどしか無く、活動しているのも夜帯ではなく日中。
シノアが想像していたものと姿かたちは酷似していても、大きさと習性は一致していない。
予測が外れたかと内心、斥候としての自尊心が傷つくのを感じつつ目の前の個体に集中する。
先の戦闘で鎧よりも幾倍も強固なあの鱗には、生半可な攻撃では通用しないこと分かっている。
だとするとこちらは一人しかいない手前、一時撤退をして応援を呼ぶか、面倒臭いが致し方なしと割り切りここで討伐をするかの二択になるのだが。
ここでは前者を選択することは無い。というよりも出来ないと言い換えた方が正しい。
それはシノアが既に帰路に着いていたということもあり、この場所からはすぐ近くに港へと続く街道と、シノアの拠点としているクラキリシュ国その首都がある。
獣だとしても異獣であれば知能は決して低くはない。
シノアがこのまま首都であるコンガルドに戻れば、必ずその後を追ってくる。仮に見つからない様に慎重に徹したとしても、すでに首都付近であるこの辺りまで獲物を探しに来ていたとなれば、遅かれ早かれ恐ろしい事態に直面することは想像にかたくない。
「組合からは追加報酬を貰うとして、やるしかないよなぁ…」
最早クセとなりつつある溜め息を吐き、覚悟を決めるのだった。