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第14話 頼れる相棒

最近の天気に振り回されて、絶賛体調を崩しております……。

「くそっ…あとどのくらい距離なんだ」


 あまりにも広範囲にわたって広がる巣にぼやくメイン。

 その表情には焦りのみならず、イラつきも浮かんでいる。


「シノア殿、何か分かったか?」


 手に着いた土を払う。振動を感知するために屈んでいた体勢から立ち上がり、細分化された部屋の内部にいる生物を生物を感知する為に広げていた鼓動探知ソナーを止める。


 敵の数が少ない所を選んだとしても、先のように数で押しつぶされることになってしまう。

 実際、足に傷を負った戦闘以降も、何度か大部屋に出るたびに大量の異獣と戦っている。


「既に食糧貯蔵室は通ったからな、もう一つない限り、あとは潜って女王のいる部屋に行くしか無い」


 何個か前に通った部屋はここの蟻型異獣の食糧貯蔵庫で、大部屋の中にはこれまでに貯めた」であろう異獣たちのエサ《・・》が大量に積み上がっていた。

 モカとラテは見つからなかったが、その部屋にあったエサ《・・》はどれも生きてはいなかった為、そこにいたら双子も命は無かっただろう。そういう意味では、まだ生きている可能性のある女王の部屋へと運ばれたのは不幸中の幸いと言えるだろう。


「うえぇ…またあの部屋に行くのは嫌だにゃ」


「確かに、あの部屋は応えたっすね…」


 ちなみに貯蔵庫の匂いはとても強烈な腐敗臭で包まれており、獣人であり鼻がより効くリアスにとっては1秒でも居たくない部屋だったそうだ。


「最悪二手に別れて捜索するしかないな」


「そうっすね」


 その時、リアスの耳がピクリと揺れる。



「——きゃぁ!」



「っ! 聞こえたか?」


「当たり前だ、ありゃ間違いなくチビ共の声だった」


 音が反響していたせいで正確な距離までは分からなかったが、そう遠く無い場所から双子の声が聞こえた。

 彼女たちの生存がわかったことは僥倖だが、声の感じからして何かが起こっていることは確かだろう。


 急いで声のした方角へと走り出す。

 徐々に通路が狭まってゆく中、壁面に自生している苔の光を頼りに先へ進む。


『GYuiii』


 突如として壁面から大量の蟻型異獣が飛び出してくる。

 異獣たちが通れるような穴は無かった筈だがと、出てきた所をよく見てみると無理矢理に岩壁をこじ開けたようで、通路などお構いなしと言わんばかりに襲いかかってくる。


「急に出てきたっすね!?」


「おそらく女王とやらの部屋が近いのだろう!」


 ミサが先頭に立つロークを援護しているものの、通路の狭さゆえに戦斧を振るえずどうしても大盾で押し潰すという戦法になってしまっている。


 ここでこれ以上増えられたらまずい!


 なんとか連携することで対処できているが、徐々に増えてゆく異獣の量に手数が追いつかなくなってゆく。


「後ろからもきてるのにゃ!」


「シノア殿! 二人を連れて先に行け!」


 後方から襲い掛かる椀型蟻パラボラアントに向かって土属性の魔術を放つリアス。ミサはちらりと背後を確認すらや否や、勢いよく方向転換し後方に駆け出した。


「ロークと私で食い止める!」


「了解っす!」


 ロークは進行方向を妨害する鋸蟻ダルクスアントの群れを一挙に押し潰し活路を開くと、そのまま俺たちに道を譲るようにして他の蟻型異獣を牽制し始める。


 この数を二人で対処するのは流石に危険すぎる、そんなことは百も承知なのか、残る二人と交わった目にはただ信じろといった思いが宿っていた。


「こんなところで死ぬなよ」


「分かっている!」


「お二人のことは頼んだっすよ!」


 ロークを抜き去り、切り開いてくれた道が塞がる前に通路を通り抜ける。


 群がる異獣たちによって二人の姿は瞬く間に見えなくなった。


「俺が言うのもなんだが、あれで良かったのか?」


 双子の助けを言い出した手前、どこか申し訳なさそうにしているメイン。


「あんなのでくたばるタマじゃないさ」


 俺たちに今できることはあの二人を信じて切り抜け、双子を助け出すことだ。


 さらに速度をあげ通路を抜けると、新しい部屋に出たのかまたしてもドーム状の部屋へと出る。

 しかし、その部屋は今までのようにただの空洞の作りだけでは無く、明確な役割を持った部屋であった。


 四方から天井に至るまで、びっしりと部屋の大半を占める青白い球体型の物体。

 近くによればそれは僅かにだが脈動を繰り返しており、一目でそれが命を宿しているのだと分かる。


「これ全部が卵か…!?」


「気持ち悪いのにゃ…」


 問答無用で魔術を練り、目の前の卵へと炎魔術を行使しようとするリアス。

 慌ててそれを止めるべくリアスの手を掴むと、思いもよらない行動に集中が削がれたのか瞬時に練られた魔力が魔素へと還元してゆく。


「下手に刺激するな、俺たちが今するべきことは双子を助けることだ」


 ここで急に孵化されても、手に負えなくなって時間を浪費するだけだ。

 余計な体力を消耗する必要はない。


「わ、わかったから、いい加減手を話すにゃん…」


「あぁ、悪い」


 掴んでいた手を離すと、何かが気に障ったのか掴まれた部分を摩っている。


 咄嗟とは言え、そこまで力を入れたつもりは無いんだけどな…?


 次の部屋へと繋がる通路を探すために、部屋の中央へと向かう。

 どこもかしこも蟻たちの卵だらけで、誤って割ってしまわないように慎重に進んでゆく。


「あれじゃねぇか?」


 メインの指差す方を見ると、今まで通ってきたような横穴の大きさではなく、まるで巨大な何かが通ったような巨大な穴が目に入る。


「急ごう」


 恐らく女王の部屋へと繋がるであろう通路へと足を向けたその時。


 ーーーパキッ


 全員が何を言うまでもなく、音の聞こえた方へとそっと首を動かす。


 視線の先では、青白かったはずの卵が光沢を帯びないまるで石膏の様な質感へと変わっていた。

 先端に小さな亀裂が入ると、それはやがて全体へとヒビを走らせてゆく。


「い、いやな予感がするのにゃ…」


 そして、殻を破り中から顔を出したのは紛れもなく椀型蟻であった。

 1匹が孵りだすと、それは波紋のように全ての卵へと伝播して行く。


 最悪なタイミングで孵化が始まってしまった。


「走れっ!!」


 先程までの静けさが嘘かのように、部屋中が異獣の産声で溢れかえってゆく。

 全員が無我夢中で穴へと向かい、リアスに至っては全速力で走っている。


 しかし、無情にも誕生の波は足よりも早く通路へと到達してしまう。


「命の灯火に坐す星よ---」


 リアスが詠唱を始めると、大気中の魔素が風を伴い収束してゆく。

 固有能力である『星織りの巫女(アストロメイデン)』によって極大の魔術を行使するつもりらしい。


「おいバカ猫! そんな火力の高い魔術なんか使ったら俺たちも窒息死するぞ!」


「じゃあどうしたらいいのにゃん!!」


 振り返るリアスの目には涙が浮かんでおり、一目でパニックに陥っていると判断できた。


 凄腕の冒険者といえど、閉鎖空間で大量の異獣に囲われるとなると流石に厳しいか。

 かといっても、この状況を打破するにはリアスの力が必要だ。


「メインのおっさん、俺とリアスで援護する。先に通路を渡って双子を助けろ」


「バカ言ってんじゃねぇ、家族のために赤の他人をこれ以上犠牲にできるかよ」


「早く行かねぇと助からねぇかも知れないだろ! …それに、まだ誰も死んじゃいねぇよ」


 その時、俺たちがこの部屋に入ってきた辺りから爆発音と共に衝撃が響いてくる。

 振り返れば、生まれたばかりの蟻たちが宙へと舞っており、そのどれもが多大なるダメージを受けていた。

 所々では火炎のようなものも見受けられ、そんな芸当が出来るのは知る限り二人しかいない。


「ガハハハ! すごいな、お前さんの仲間は!」


「ああ、そうだろ!」


 全ての卵から蟻たちが孵り、前方からも所狭しと襲ってくる。

 次の部屋へと繋がる穴は、次第に埋め尽くされる蟻たちで見えなくなってゆく。


「おっさん、一瞬だけこの波を切り開く、その隙に渡ってくれ。…乗り遅れるなよ?」


「誰に言ってやがる!」


 走る二人より前に駆け出し、俺の頼れる二振りの相棒を握りしめるとそれに呼応するように光を帯びる。

 これは極夜ニクス白夜メヘラにある程度の衝撃エネルギーが溜まったことで使える大技。


十字華天牛ピドニアガグランナ!!」


 剣を十字に振るうと、溜まりきった衝撃が刀身から斬撃として放たれる。

 振り撒かれる光の粉は、切り裂いた敵の血で染まりまるで通った後に花弁が舞うかのよう。


「今だ!!」


 メインが過去に見ない程に、全速力で通路へと駆け出す。

 異獣の海に一筋の道を作ったのも束の間のことで、蟻たちは開けた場所を瞬く間に飲み込み覆い尽くして行く。

 メインが向こうへと辿り着くと同時に、その背は幼体の蟻たちの姿ですぐに見えなくなる。


「あとは俺たちだ! 頼りにしてるぞ、魔術!!」


「ミャー頼りじゃにゃいか!!」




 第14話 頼れる相棒



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