第9話 蟻掃除
最近の暑さを考えると、これからの夏が恐怖で仕方ないですね…。
遺物の中でも銃を扱う者はあまり多くない。
発見された当初は小型故に移動の際も邪魔になりにくく、物珍しいのもあってか見つかれば高値で市場に出回っていたらしい。
しかし、使われていく内に様々な弊害があることを冒険者たちは理解していく。
まず第一に、扱える者が土属性と火属性に魔術適性がある者という振るいにかけられる。
弾自体は土属性の魔術によって生成されなければならず、鋳造などの技術によって作成されたとしてもそれだけでは異獣に対して有効打になることは無い。
仮に他者の手によって生成された弾を使用したとしても、消費されていく弾数と購入しなければならない手間を考慮すると経済的にもあまり良いとは言えないだろう。
そして第二に、引き金を引く際に装填されてある弾丸に火属性の魔術を纏わせなければならないこと。
常に状況が変動していく戦闘の中で、適正量の火属性魔術を一つ一つの弾丸へと纏わせること。
これが熟練者の中でも非常に難しく、魔力を精密に扱う技量が問われてくる。
しかし、メインは違った。
最小の動きで敵へと照準を合わせ、的確に相手の弱点を突き一撃で沈めていく。
回転式の弾倉へと直接的に弾丸を生成することで、二丁拳銃の弱点である装填の手間を無くし連続して弾を射出することを可能としていた。
驚くべきなのはその魔力を扱う精度で、射出するタイミングと少しでもずれていれば暴発しかねない繊細な技術を二丁で行っているということだ。
「す、すげぇ…」
目の前で起こる経験と才能から生じる熟練の技に、ただ感嘆の声を漏らしてしまう。
戦闘時だというのに危うく見入ってしまうほどだ。
「これは負けてられないなっ!」
メインに続く様にミサも気合いを入れ一閃を放ち、着々と異獣の数を減らしていく。
何匹か後へ溢れてしまうが、小屋の方ではロークが防御壁を張りリアスが取りこぼした椀型蟻を魔術によって排除してゆく。
気付けば小屋の周りには椀型蟻の遺骸で溢れており、鼓動探知で感知した最後の敵を斬り払う。
「ガッハッハッハ! いやぁ、助かった!」
「おっさん、こういうことは最初っから教えといてくれよな」
「あん? それも言わなかったか、ある日から異獣が沸いたってよ」
……言ってた気がする。
が、そんなの気付けるはずが無いだろっ!
仮に気付けたとしても、今も続いてるとは思わねぇだろうが!!
「というか、いい加減この曲を止めてくれ」
「ガハハ! 中々ロックだろう、曲名は『暴れまくれッ』だ!」
「やっぱ子守唄じゃねぇだろ!?」
メインは要望通り、遺物を停止させ曲を止める。
静まり返った周囲を改めて確認すると、そこらは椀型蟻の遺骸や体液で無惨な状態となっていた。
念の為、再度鼓動探知を広げ、敵影が無いことを確認しメインに詳しい事情を伺う。
「椀型蟻は二日に一回、決まって夜に襲撃してきやがる。その度に迎撃しては掃除してを繰り返してたんだ」
「モカ殿とラテ殿はこのことを?」
「いや、怖がるといけねえからな」
なるほど、あの爆音の音楽は銃器の音を分かりにくくさせるためか。
不器用ながらになんとも親父らしいことをしているもんだ。
でもあの音楽は絶対起きるぞ……?
「日に日に数を増して困ってたんだが、そんなところにお前達が来てくれてな。助かったわ!」
「本気で殴るぞ」
こちらの怒りを物ともせずにメインは高らかに笑う。
というか、この数を今から処理するのか…。
よく今までこの量を一人でこなしてきたものだ。
「それで、いつもはどうやって掃除してたんだ?」
「普段は一箇所に集めて燃やしてたんだが…ん〜……」
「なんだよ」
「いやぁ、今までは多くても十五ほどだったんだが。流石にこの数ともなるとどうしたらいいか俺でも分からん!」
「はぁ!?」
十五ォ!?
今の数と全然違うじゃねぇか!
つうとなんだモカとラテにバレない為には、朝までに一体一体集めて燃やすしかないのか…?
め、メンドくせぇ……。
「まだ、ピクピクしてるのにゃ…!」
「流石に俺でも気持ち悪いっす…!」
と思っていると、視界の端に椀型蟻の遺骸を見て慄いている二人が目に入る。
「リアス、ここらの遺骸を魔術で集められねぇか」
「いや、普通にイヤなのにゃ。ミャーはもう疲れたのにゃ」
「…後で小遣いやるよ」
「さっさと手伝うにゃ!」
「俺もっすか!?」
労働力《筋肉》を引き連れてゆくリアスは風属性の魔術を行使し、ある程度の量を纏め上げる。
もちろんロークを始め、俺とミサも手伝うことで作業はすぐに終わり、火事にならないように数箇所に分けられた山をメインが燃やして行く。
全てが片付く頃には日も昇りかけており、辺りは白み初めていた。
第9話 蟻掃除
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