第7話 三匹の猫
私生活が忙しすぎて遅れてしまいました…。
「き、気まずい…」
木で造られた大きめのテーブルを囲み、まさかのメインの手作りだったというシフォンケーキをいただく。
それに合わせて淹れてくれた紅茶もとても美味しく、見た目からは想像できない特技を披露された俺たち。
隣を見ればリアスも久しぶりの甘味に満足なのか、これまで見たことのない幸せそうな表情で頬張っており、俺含め他の三人も三日ぶりの携帯食料以外の食べ物に舌鼓を打っていた。
「「じーーーーーっ……」」
のだが、目の前に座る双子からの視線がとても痛い。
俺の対面には双子のモカとラテが座っているのだが、なぜかずっと無言で俺を見ているのだ。
しかも執拗に俺だけを。
せっかくなら目の前の甘味に集中したいのだが、口にケーキを運ぶ時でさえ目を離さずに俺を見つめる始末。
俺が何かしたんだろうか…。
これほどまでに見つめられると、そろそろ穴が開くのではと錯覚してしまいそうになるわけで…。
ちなみにミサは自分の対面に双子では無く、メインのおっさんが座っているため些かしょんぼりとしており、見つめられている俺が羨ましいのか時折こちらを睨んでくる。
やめて、これ以上俺を見ないで…。
あ、ケーキか? おかわりを狙って俺のケーキを見てるのか?
そう思ってケーキを一切れ宙に浮かせてみるが、双子の視線がケーキを追うことは無くやはり俺だけを見ている。
ケーキじゃなかったのかと思い口に運ぼうとすると、フォークの先にあるはずの一切れが無くなっていた。
隣を見るとこちらに後頭部を見せる形で不自然に座っているリアス。
後ろ姿でも粗食していることが分かるので、俺のケーキが消えた犯人は確実にこいつだった。
「---フンッ」
「ぎにゃ!?」
イラついたのでリアスの尻尾を握ってやった。
椅子から飛び上がっていた。
おもしろい。
…引っ掻かれた。
ヒリヒリとする頬を撫でながら座り直すと、食事が一息ついたのか双子が椅子から降りるとそのまま俺の膝へとそれぞれ座り始めた。
「ガハハ! モカとラテが懐くなんて珍しいな!」
「これは懐かれてるのか…」
せめて片方はミサの方へ行ってあげて…!
そろそろハンカチを噛んで血涙を流すわよあの子!
「「じーーーー…」」
「な、なんだよ」
「なんだか懐かしい、感じ…」
「です…」
懐かしい…? はて、どこかで会ったことがあるのだろうか。
俺はまったくの初対面だと、思っていたのだが。
「そういえば、お二人は今日誕生日なんでしたっけ?」
「ほぅ…! 幾つになったんだい!?」
ロークの質問に乗じて、ミサが興味津々といった様子で聞いているのだが、あわよくばこちらにも来てくれという魂胆が見え見えである。
「12歳…」
「多分…」
「多分…?」
曖昧な受け答えにメインのおっさんを見ると、複雑そうな表情で頬を掻いていた。
「娘とは言ったが、モカとラテは拾い子でな。オレがここに移り住んで暫くしたある日、いつ間にかポツンと森の中にいてな。周りには誰もいないし、まだ赤ん坊だったしで面倒見ることにしたんだ」
そんな背景があったのか。
両膝に乗る双子の少女へと視線を落とし、彼女たちのためにも記憶を遡ってみるがやはり何も心当たりはない。
忘れているという雰囲気でも別段ないんだが…。
ミサはといえば、そんな二人の境遇に同情したのか瞳に涙を溜めていた。
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会話に花が咲き、気付けば思っていたよりも時間が経っていた。
「さて、そろそろお暇するか」
「そうっすね、日も沈んでくる頃合いでしょうし」
結局俺の膝の上に落ち着いてしまった双子を下ろし、別れの挨拶を告げる。
「ぐぅ…! 非常に名残惜しいが、致し方無いっ」
「ミャーはもうちょっと食べていきたいにゃ」
「だそうだローク、置いてこうぜ」
「諦めるなにゃん!!」
リアスからの飛び蹴りを華麗に躱し、ご馳走になった礼を言いにメインの方へ。
「せっかくのケーキだったのに邪魔しちまって悪いな」
「ガハハ! 気にするな、ちび共の良い誕生祝いになったわ!」
あまりに愉快そうに笑うので、思わずこちらも笑みが溢れてしまう。
「というかお前ら、迷惑じゃなけりゃウチに泊まってけ」
「いや、ご馳走にまでなってるのにこれ以上は…」
「良いんだ、チビ共はここから離れたことが無くてな。良かったら話をしてやってくれ」
予想外の提案に困惑し、リーダーであるミサの方を振り向く。
ミサもこれ以上迷惑をかける訳にはいかないと伝えようとすると、足元にモカとラテが抱きつき潤んだ瞳でミサの顔を見上げる。
「ご厚意に甘えよう、シノア殿」
いや、そんな鼻血を出されながら言われましても。
そんなこんなでケーキと茶菓子だけならず、寝床まで借りることになった俺たちは一晩お世話になるのだった。
第7話 三匹の猫




