第3話 旅は道連れ ④
こんなに長くなるとは思いもよりませんでした…。
「も、もう限界っすー!!」
すると、大声を上げながら森から飛び出すロークとミサ。
物凄い剣幕でこちらに向かってくる二人と、それを追って最後の木を薙ぎ倒し同じくこちらに向かう鋼裂蜥蜴。
見れば魔力切れによって『火無光』も限界なのか、点滅を繰り返していた。
想定していたよりも早く迎えた状況に、まだ準備が整っていないが仕方ないと割り切る。
「リアス、詠唱の準備だ!」
「もうやってるにゃん!」
大気中の魔素が、既に取り掛かっていたリアスを中心に渦を巻くように集っていた。先程の『土創』とは比較にならないほどの魔力が急速に練られていく。
空気が震えだし、魔力の奔流に伴って長杖の先端の星と月を模した装飾が輝きを帯びる。
リアスは問題ないと判断し、依然としてこちらに向かって来る怪物を見やる。
元々の作戦では鋼裂蜥蜴を穴に嵌めてから即座に魔術を放つ予定だったが、この状況では落としてから何とか這い出さないようにしなければならない。
「問題はどうやって落とすか、だがっ」
落とし穴を隠す時間が無かった今、取れる選択肢はひとつ。
「バレる前提での脳筋戦法!」
勢いよく駆け出し、逃げる二人と交差するように鋼裂蜥蜴の眼前に飛び出す。しかし、眼中に無いのかそれでも二人を追おうとする。
「無視はひどいなっ!」
それを逆手に取り、跳躍した勢いで抜き放った極夜を鋼裂蜥蜴の左目に突き立てる。
『Gyaaaaaaaaaa---!!』
突如として感じる、今までに無い激痛に身悶えしその進行を止める。
「おー、良かった。目まで硬かったらどうしようかと思った、ぜっ!」
未だ試したことの無かった正攻法が通じ、痛みの原因を振り払おうと頭を振るう鋼裂蜥蜴。突き刺さった極夜を抜き、その勢いの慣性に抗わずに飛び降りる。
これで左側は死角になったと思い、進捗の確認のためにリアスを見る。
「命の灯火に坐す星よ---」
十分な魔力を練り終えたのか、既に詠唱に入り始めていた。
なら次は俺が囮になって鋼裂蜥蜴を穴に嵌めるしかない!
怒りの矛先がミサとロークの二人から、左目を傷付けた俺へと変わる。
落とし穴が死角となった左側へ来るように誘導し、タイミングを測る。
思惑通り俺に俺に着いて来るようになったのは良いけど…。
「おわっ!」
背後から食いつこうと開く顎を躱し、この後のことを考える。
「巡る月、表裏の瞬き、その血脈を---」
リアスの方を注視すれば、いよいよ詠唱も佳境に入ってきたようで、溢れだした魔力の流れが彼女の背中から枝葉の様に綺麗な線を描き迸っている。
すると、追従していた鋼裂蜥蜴が異変を感知したのか、魔力の収束地点であるリアスを見つける。
あり得ない量の魔力に危険を察知したのか、怒りに任せるよりも危険因子を排除することを優先とし狙いを魔術師へと変える。
「まずい…!」
走る速度を上げ、鋼裂蜥蜴の牙が届くよりも速く、詠唱途中のリアスを担ぎ上げる。
お姫様抱っこなんてかっこいいものではなく、肩に担ぐ形となってしまったため不満がありそうな顔をしているが、さすが優秀な魔術師、集中を切らさずにそのまま詠唱を続けていた。
「一か八か…!」
ぐるりと方向転換し、落とし穴の方へと真っ直ぐにかける。
左目が見えないことと、目の前の獲物に注力していることを鑑みて賭けに出る。
速度をわざと落とし、喰われるか喰われないかのギリギリのラインで走る。
落とし穴の淵に辿り着く直前、両足に力を込め一気に急停止。鼻先が付目の前に迫るも、一気に跳躍しそのまま鋼裂蜥蜴の頭を踏み台にする。
「---落ちろ」
振り向き様に捨て台詞を吐き、あとはリアスの魔術を放つだけかと思いきや、鋼裂蜥蜴はその巨体の慣性を感じさせない勢いで同じく急停止。
淵ギリギリで止まった鋼裂蜥蜴は獲物を追いかけようと、首を向けた瞬間。
「うぉおおらぁあ!!」
大楯を前面に構え、言わばシールドバッシュと呼ぶであろうロークの押し出しが鋼裂蜥蜴の横っ腹に直撃する。
魔法使ったものではない捨て身の攻撃は、常人ではない威力を持ち鋼裂蜥蜴を穴の中へと落とすことに成功した。
ロークが向かって来ているのが見えていたため、既にリアスは地面に降ろしている。
迸る魔力の線は、それぞれが結び付き合い、点と点が繋がったような複雑な紋様を浮かび上がらせていた。
彼女が天才と呼ばれる所以となったのは、何も全ての属性が扱えるだけではない。
それは彼女固有の能力で、全ての属性に適性があったことによる祝福の権能。
自身の想像した魔術を想像し放てる独自の魔術。
発動する際は身体から溢れる魔力が星座を模る様に見える事から、別名『星織りの巫女』。
この作戦の要である彼女の本領である。
「『原初の焔』!!」
恐らく、彼女の中で最大威力であろう火属性魔術を穴の中へと放つ。
膨大な熱量が鋼裂蜥蜴を包み、土に囲まれ熱の逃げ場が無い形となっている穴の中は灼熱の地獄と化しているだろう。
どこにも行く宛の無い炎が上空へと向かって火柱を上げ、周囲にいる俺たちにもその熱を伝えてくる。
「これで一件落着だにゃん」
極大の魔術を放って尚、疲労を見せないリアスは長杖を付き炎の勢いが弱まってきた淵へと歩み出す。
---途端、炎の中から焼け焦げた鋼裂蜥蜴の頭部がリアスを襲おうとその牙を向ける。
リアスもそれに気付き反射的に避けようとするも、やはり魔術の反動が祟っていたのか足に力が入らずに動けなくなってしまう。
「危ねぇ…!」
しかし、間一髪のところで間に入り、リアスを抱え込んで鋼裂蜥蜴からの攻撃を躱す。
最期の力を振り絞ってのものだったのか、目の光が失われ全身から脱力するとまた炎の中へと消えていった。
念のため鼓動探知を広げるが、さすがに事切れたのか反応は感じられなかった。
「あ、ありがとにゃ…でも良い加減下ろすのにゃ!」
さっきは肩に担いで嫌な顔をされたので、今回は咄嗟にお姫様抱っこの形を取ってしまった。
慌てて彼女を降ろし、こちらに駆け寄ってくるミサとロークと合流する。
「みんな無事でよかったっす!」
「ギリギリだったがなんとかなったな」
収まる炎を見て事態の終わりを漸く実感する。
「…帰るか」
「そうっすね」
「リアス殿には言質通り、消化をして貰おう」
「にゃっ!?」
その後、なんとか消化し終わった俺たちは、無事に組合への報告を完了させ解散する運びとなった。
勿論、最初はトラブルもあったものの、存外悪い動きでは無かったので旅に同行する者は明朝、身支度を整え街の正門に集合することとなった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ふわぁ〜…」
朝日を全身に受け、眠い瞼を擦りながらも集合地点である正門に辿り着く。
「一番ビリだから次のご飯はシノアの奢りにゃん!」
既に俺以外揃って居り、身支度を整えた三人は日の光を背にこちらを見ていた。
「俺、ソーセージが食いたいっす!」
「私は魚料理が良いな」
今まで一人での仕事が多かったが目の前にいる三人を見て、仲間がいる依頼も悪くないと思う。
「誰も奢るなんて言ってないぞ」
同じ列に並び立ち、お互いの顔を見合う。
これからの長い旅に思いを馳せ一歩を踏み出す。
「さて、行きますか」
第3話 旅は道連れ
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