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第7話

「そうねるなって」

 帰り道。隣を歩いている丞玖たすくが、真咲まさきの背中を叩いた。

「放っといて部活行けばよかったのに」

 真咲がそう言うと、丞玖はカラカラと笑った。

「未優先生に頼まれちゃ断れないだろうが」

 部活に戻るはずだった丞玖は、未優に言われて真咲を家まで送ってくれる事になった。遊ばれた悔しさと部活を休ませてしまった罪悪感で不機嫌になっている真咲を気にする様子もなく、丞玖の足取りは軽い。身の程知らずにも未優に気があるこいつにとって、彼女の依頼は何を置いても果たすべき使命なのかも知れない。

「お前んち寄っていい? 麻美さん、おやつ出してくんねえかな」

「図々しい」

 ぼやきながらも、たしか頂き物の煎餅せんべいがあった筈だと、真咲は棚の中を思い出していた。

「今日倒れたこと、麻美さんには内緒な」

 丞玖は「了解」と軽く答えた後、少々声をひそめた。

「大丈夫なのか? 去年も同じようなことがあったって、未優先生、言ってたぞ」

 心配げな口調に、不機嫌を続けるのが申し訳なくなった真咲は、小さく笑って見せた。

「大丈夫。平気だよ」

 丞玖は「そうか」と安堵したように言った後、つと真咲の前に回り込んだ。

「なあ、夏休みの約束、忘れてないよな」

 ああ、そのことか。丞玖の真剣な表情に笑い出しそうになりながら、真咲は頷いた。


 話は二か月前に遡る。

「村祭り?」

 ずいぶん長閑のどかな響きだと思いながら真咲は尋ね返した。

「四年ぶりの開催なんだ。結構盛り上がるんだぜ。夜店も出るし」

 丞玖の祖父母が住む田舎の祭りを見に来ないかと誘われたのだ。祖父母の家は旅館を経営しているから空いている部屋に泊めてもらえばいいと、丞玖は少々強引に誘う。

「海の幸山の幸が満載の料理を食べられるぞ。にえの儀式に参加すれば超豪華な景品が出るらしいし」

「贄の儀式って何だよ」

 不穏ふおんな響きに引っ掛かって真咲が尋ねると、丞玖は少し黙った後、ぎこちなく説明を始めた。

「成人の儀式っていうか、肝試きもだめしみたいなもんなんだ」

 その年に十五歳を迎えた男子が、丘の上にある社のなかで一夜を明かすのだという。

 年に一度、祭りの夜に異界の入口が開き、来訪した神が贄に満足すれば、村には豊かな実りがもたらされる。ただ一つ禁忌きんきがあり、贄は朝まで決して目を開けてはいけない。開けたら最後、この世で一番恐ろしいものを見るのだという。

 異界という言葉にかれ、真咲は祭りを見てみたいと思った。ホラーやお化け屋敷は好きな方だ。村の社での肝試しも悪くないと思った。

 真咲が泊りがけで祭りを見に行きたいと言うと、麻美は困ったように考え込み、海外にいる父親に電話を架けた。向こうは真夜中にも関わらずである。パソコンの画面の向こうで眉間みけんしわを寄せた父は、何故か丞玖の田舎がある県名を確認し、それならという事で許可が下りた。八月の終わりの三日間。学校行事以外では初めての、親元を離れての旅行である。

「未優先生は、ちゃんと誘ったのか?」

 真咲がそう言うと、丞玖は「それなんだよな~」と言って額を押さえた。

「何て言って誘えばいいんだろう。なあ樋口、いい案ないかなあ?」

 丞玖が本当に誘いたかったのは未優の方なのだろう。けれど、いざとなると勇気が出ないらしい。断られるのが怖いのか。見掛けによらず気が小さい奴だ。

「麻美さんから頼んでもらえないかな。うちの真咲が心配だから付いて行ってやってくださいって」

「あのなあ」

 少々過保護な所がある麻美だが、さすがにそれは言わないだろう。何よりも真咲のプライドが傷つく。

「当たって砕けてみろよ」

 そう言って大きな背中をどやしつけ、それぐらいでは揺れもしない肩に手を掛けて真咲は笑った。

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