最終話
春と言ってもまだ肌寒さの残る日、中等部では卒業式が行われた。内部進学組がほとんどなので、別れの気分も盛り上がらない。
真咲は丞玖と共に校庭の桜の木の下にいた。花はまだ三分咲きといったところだろうか。まだまだ蕾の方が多い。
「で、当たって砕けた結果はどうだった?」
真咲の問いに、「砕けるって最初から言うなよ」とぼやいてから、丞玖は言葉を継いだ。
「高校を卒業して、それでもまだ私が好きだったら、もう一度告白して。って、そう言われた」
中学卒業のタイミングで、丞玖は未優に告白した。背伸びをした中学生の恋が叶う訳もなく、上手に躱されたわけだが、かといって希望が残っていないわけでもない。三年の間に未優に恋人が出来なければ、後は丞玖の気持ち次第と言い換える事も出来る。可能性はゼロではないのだ。かなり低い確率ではあるけれど。
「なあ、樋口はどんな女の子が好みなんだ? やっぱり日本人形みたいな」
丞玖が尋ねる。亡くなった母親のように色白で長い黒髪の。そう言いたいようだ。もしくは、あの女性のように。
真咲は暫く逡巡した後、口を開いた。
「そうだなあ。おっぱいの大きい人がいいかも」
しばらく沈黙した丞玖が、探るように聞き返す。
「麻美さん、みたいに?」
「うん。麻美さんみたいに」
冗談のつもりだったが、あながち嘘とも言い切れない。愛情深くて、強い人。あの時の温もりは真咲の中で形を変え、再び大切な記憶となった。
「お前なあ!」
がしっと、太い腕が首に回された。
「なに目覚めてるんだよ、このマザコン野郎が」
首を絞めながら、丞玖が呆れたように笑う。
「……苦しい」
眩暈に似た陶酔が訪れる。絞め落とされてしまう前に、真咲は丞玖の腕を力いっぱいタップした。
完




