第27話
邦彦の妻になってからの雪絵は幸せそうだった。そして幸せであることへの不安を、時折り麻美に洩らした。ふと見せる悲し気な眼差しは、何かに怯えているようにも見えた。
雪絵の不安が禍を呼び込んだのだろうか。ある日突然、運命は牙を剥いた。安定期を迎え、お腹の大きさが目立ってきた頃だった。雪絵の身体を病が襲った。恐らく出産には耐えられないだろうと医師に告げられ、雪絵は震える声で麻美に言った。
「ばちが当たったの。託宣を軽んじたから」
雪絵は話してくれた。故郷に伝わる因習について。
雪深い里の神社には、村を守る神が祭られているのだという。巫女は神様の妻として生涯独身で過ごし、巫女が亡くなると新しい巫女が後を継ぐ。村に女の子が生まれると神社にお伺いを立て、神託があればその子は巫女候補となる。そして、巫女候補のうち最年長の娘が神様の許嫁になるのだ。
許嫁は二十歳になったとき、後に十代の候補がいる場合にのみ許嫁の任を解かれる。普通の娘として結婚も許されるのだ。
雪絵が生まれた時にも、次の年に生まれた従妹の華絵にも神託はあった。順番から言って巫女になるのは雪絵の筈だった。けれど古い巫女が亡くなったとき、村人は皆、雪絵ではなく従妹の華絵を推した。何故なら、華絵には明らかに巫女としての資質が備わっていたから。
人には見えないものを見、聞こえない筈の声を聞く。そんな華絵を、村人は神様の嫁にふさわしいと判断したのだ。
華絵は従容と村の意思に従い、雪絵は負い目を感じながらも村を後にした。
「自分だけ幸せになろうとしたから、いけなかったの」
雪絵はそう言って泣いた。華絵を身代わりにして逃げたから、神様が怒っているのだと。
「麻美ちゃん。私が死んだら、この子をお願い」
雪絵の手を握り、麻美は黙って頷くしかなかった。
それから暫く経った、どこか肌寒さを感じる花曇りの朝。
生まれたばかりの赤ん坊を胸に抱き、静かに雪絵は旅立った。二十一歳だった。




