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第九話:命の選択

 


 わたくしは山田。 復活コーポレーション社でカスタマー向けの営業担当をしております。

 わたくしは、友人である黒木博士と社長に誘われこの会社の設立に協力しました。

 ただ、彼らの様に知識も経歴もないわたくしは、できそうな営業を担当することにしました。

 実際、特殊な業種ゆえ、営業というよりもユーザーサポートと言った方がよいのかもしれません。

 しかしながら、仕事を続けているうちに、いくつかの疑問が湧いてきました。

 そして、そんな疑念を抱くのはわたくしだけでは無かったのです。

 わたくしは、同じ意思を持つ者達と協力してこのサービスを終わらせる計画を立てました。

 そして、ついにその日が来たのです。



 ------------------------



 早瀬は、現在、黒木タカヤの家に来ていた。

 突然連絡があり、指定された場所に行くと、高級そうな黒いセダンが迎えに来た。運転手は初老の男性で他には誰も乗っていない。

 車は、しばらく走りトンネルに入ったところで一旦速度を落とした。驚くことに車体の色がシルバーに変わったのだ。この時ナンバーも変わっているが友人には見えなていない。

「え?」

 すでに状況に異常を感じていたが、当然さらに何が起きたのか不思議に思ったのか声が出ていた。

「前方にもう一台おりまして、タイミングをあわせてトンネルを出るはずです。

 なお、ここで、あなたの持たされている発信機もスマートフォンの信号もこの車では遮断し、前方の車から模倣して発信します。途中で消しますが」

「ほ、ほほう~」

 早瀬は、変な納得をしていた。

「よろしければ、念のためスマートフォンの電源はお切りいただけると幸いです」

「はい。

 切りました」

 早瀬は、すぐにバッグからスマホを取り出して電源をオフにした。

「では、あと二十分ほど我慢願います」

「お気遣い、いろいろとありがとうございます。

 わたしは全然大丈夫ですので、お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」

 と、丁寧な感じだが、通常ほぼ使うことが無さそうな言葉を口にしていた。

 二十分後、車が乗り入れたのは、場所はどこかはよくわからなかったが、大豪邸であることはよくわかる門だった。

 そして、車止めにはタカヤが待っていた。

 上は白のトレーナー、下はジーンズという今までになくラフな格好、普通の若者という印象だ。

 そして、挨拶も少なめに応接室らしき部屋に案内された。



「わざわざお越しいただいてありがとうございます」

 タカヤがあらためて挨拶をした。

「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。

 じゃなくって、逢いたかったから嬉しいです」

 早瀬は笑顔で応じる。

「早速で申し訳ないのですが、話をさせてください」

「はい……なんとなく聞きたくない話な気がするけど、どうぞ聞かせてください」

 早瀬の笑顔が消えていく。

「どうやら、長くてあと三日ほどの様です」

「え……」

「僕は、祖父の望みを叶えるために復活させられました。

 そして、復活させた理由は、研究内容を守らせるためだと聞きました。

 ですが、山田さん、関係者ですが、彼によると、第一の理由は、祖父自身の後悔を晴らすため、それは失った家族への罪滅ぼしなのだそうです。

 それを、僕の夢を叶える事で果たそうと考えた。

 僕の夢はなんだと思います?」

「ええと、お婿さんになるとか?」

 早瀬は、何を言ってもたぶんあたらなそうなので、意味深のつもりで答えた。

「近いですね。

 ですが、祖父は僕の夢がヒーローになることだと思っていた」

「じゃぁ、夢を叶えるって、あなたをヒーローにするってことです?」

「そうです。

 知識と資産は持て余してたらしいですから……。

 まずは、研究途中になっていた”人の復活”を実現させた。

 独自に遺伝子操作技術も開発、合わせて人間離れしたした者を生み出した。

 さらに、強化スーツや機械類、サポートする組織を作り出し……。

 そして、どうやら”敵”までもを作った様です」

「あ……」

「僕が誕生してから、これまでは会社を守る仕事と、社会悪をつぶす様な事を行ってきました。

 さほど世間には影響し無いのでしょうけど、少しくらいは救われる人が居たらと思っていました。

 ですが、社会悪をつぶすと言ってもやってるのは人殺しです。

 後ろめたさはありましたが、そのうち、人間では無い僕がやるべきだと考える様にもなりました。

 警察が僕を追う理由はそれだと思います」

「御じいさまは、なぜ罪滅ぼしなんです?」

「復活させたかったのは僕の母、祖父にとっては娘です。

 ”人の復活”が研究途中だったと言いましたが、彼女を交通事故で亡くした事から”人の復活”の研究が始まったんです。

 そして実現、娘を復活させた。

 しかし、復活した娘は拒絶してすぐに自殺しました。

 失意に暮れていた時、さらに娘の伴侶と孫を事故で失った。

 ずっと研究に没頭し続け、娘だけでなく他の家族とも全く交流していなかった事を後悔しました。

 そこで、今度は、孫の復活とその夢の実現が次の目的となりました。

 だけど、孫の夢が何か?というのが記憶では分からなかったのです。

 そこで、孫の幼少期に聞いたヒーローになりたいという夢を思い出したということだそうです」

「言い難いけど、かなりおかしくなってたのね。 夢の実現という、とにかく何かを目的にしてすがるしかないくらいに」

「はい。 僕もそう思います」

「すごい話を聞いて、埋もれてしまうとこだったけど、全部把握したうえで、話を戻させてね。

 あなたの夢はなんですか?

 ヒーローになることでは無いってことですよね?

 それに、お婿さんになるのが近いって……。

 そこを聞くかって感じかもしれないけど……」

「僕は、生まれてからまだひと月くらいなんです。

 でも、彼の記憶を持っている。

 だから、彼の気持ちも全て知っている。

 特に夢というものは無いんです。もうそういう年齢ですからね。

 ただ普通に生きて、自分のできることを真面目にやって知らない誰かの役に立てたら嬉しいなと考える。 本当に良い人でした。

 まぁ、新しい何かの可能性を見つけられたら挑戦はしたと思いますけどね」

「夢って……ああ、そうかも、聞いた自分も確かに無いや。

 小さいころ、なんか書かされた気もしなくもないけど、あれを夢とできるのは目指して実現した人だけよね」

「ははは、ですよね。

 でも、今は体を鍛えているんです。

 知識は彼のおかげで十分なのもありますが、彼、本当は筋トレとかしたかったみたいなんです。

 周囲の人達からの優等生みたいなイメージが、そうじゃないから、やらなかった。

 追加で少し時間をもらえたのですから、せめてそのくらいの希望ならできるかなって。

 既に死んだ者には贅沢な望みですかね」

「ええと?」

「そうですね、正直に言うと、ただ普通に生きることです」

「あの、さっき、わたしにも夢が無いって言いましたけど……、

 小さいころにお嫁さんになりたいとか思った事もないけど、なぜか今はそれが望みかもしれない。

 叶えたいなぁ」

「近日中、明日かもしれませんが、決着をつけに行ってきます」

「あ、流された。 で、どこへ行くの?」

「仕事です」

「仕事で決着って?

 ……でも、その言い方、

 ……死んだら復活させちゃうからね」

「さっきの話、聞いてました? 言い方を変えますね。終わらせに行くのです。だから、もう復活はありません」

「じゃぁ、あなたが死んだらわたしも死ぬからね」

「なんてこと言うんですか」

「だって、一緒がいい。 それに死にたくないから死なないで、だってあなた……」

「どうしてそこまで言ってもらえるのかは、これ以上聞きません。

 ただ、今、決めました。 生きて帰って来ます」

「そう言えば納得するからって、ごまかしてないです?」

「いや、帰ってきますよ。

 そうしたくなりました。それが力になる気がします」

「いいわ、じゃぁ信じてますからね」

「はい。

 では、田村さんに送ってもらいますので表へ」

「信じたから、今日は帰ります」

 早瀬は、黒木邸から帰された。



 早瀬を乗せた車は連れてこられた際の道を戻っていた。

「あなた様には、感謝しております」

 田村が運転しながら早瀬に話しかけた。

「感謝の意味をお聞きしても?」

「すいません、それはご勘弁ください。 無粋ですので」

「じゃぁ、わたしもあなたに今言える分の感謝をします。

 いろいろ、お手数かけてしまったから。今とか」

「なるほど。

 お役に立てていたのでしたら光栄です」

「また、会いましょうね」

「はい、ぜひに」



 ------------------------

 *****  当子side  ****/



 十二月二十日

 営業担当者さんとテーブルを挟んで向かい合っている。

 モニターとして、これまでに思った事感じた事などを報告するためだ。

 でもそれは、報告というより、そう、辛い、苦しい、悲しい、そういう思いを多く語っていたかもしれない。

「貴重なご意見、たいへんありがとうございました。

 では、本件失敗でございますね」

 マイナスよりな報告を聞いて、特に弁解や反論もせず早々に納得し、そして見せた表情、それは、なぜか普通の笑顔だった。

「そうなんですか?」

 意外な答えと表情に、つい聞き返してしまった。

「それから、たいへんご迷惑をおかけいたしました。

 しかし、この結果を持ちまして本サービスは採用されないことでしょう。

 ……本当によかった。

 今後、無駄に人の命を亡くす事にならずに……

 今回の四人の方には、本当に本当に申し訳無いことをしました。

 尊い犠牲と言う言葉では軽すぎて形容のしようも無いです」

「はい。 わたし、最初はまったく気にして無かった。 わたしが本当に馬鹿だった」

「やめておけば良かったと思われますか?」

「いえ、そうは思わないです。

 でも、何が正しいのか、わからないの……」

「考えるのはおやめなさい。

 答えは雲の上で出されてしまった。 だから、このサービスは存在してしまった」

「あなたは、平気なのですか?」

「わたくしだって好きでやってる訳ではありませんし、納得しているわけでもありません。

 仕事で無ければ絶対にやりませんよ。

 いや、言い訳ですね、わたくしにも当初から賛同し参加した責任がある」

「ごめんなさい」

 わたしは、つい責めるような言葉を返してしまった事を誤った。

 担当者さんは、首を横に振ってから、声のトーンを落として話を付け加えた。

「クローンも記憶の操作も今後必要になる技術です。

 ……すいません、語弊がありました。本来不要ですが、他国がいずれ有する事が確実であるため、わが国にも不可欠なのです。

 そして、他国に負けないためには、国が全面的にバックアップする必要があり、逆に国としても大手を振って援助がしたい。

 だから、一般に認知させる必要があった。

 そんな都合で始まったサービスです。

 CM等も多かったでしょう?」

「わたしが知ってるくらいですもんね」

「ですので、今更、苦情が増えても頓挫することは許され無いのですが……

 それでも、今回の企画は度が過ぎている……。

 ……さて、一体を作る原価がおいくらだと思われますか?」

 担当者さんは、一瞬だけど初めて険しい顔をしてから、わたしに唐突な質問を返した。

「百億なんじゃ? あ、違うか、人としての存在がどうとかの費用が高いって言ってましたっけ」

「二億です」

「え?」

「ぼったくりと思われますか?

 一体の完成品を作るのに、およそ百体作るのです。 人間の形まで成長できない者もありますが……」

「そ……んなに……」

 当然知らなかったし想像もしていなかった。

「ええ、そんなレベルで一般向けに初めてしまったのです。

 補足ですが、もちろん彼らの体は再利用されます。 詳しくは申しませんが……他の人の命を救うことにもなります。

 その売却費で残りの百億と利益を確保します。 製造原価二億で百人だと大赤字ですからね」

「じゃ、五人って事は…」

「ご安心ください……というのもおかしいですが、今回は企画の検証ですので百体は同じです。

 その中から五体を選択してあります」

「それでも、既に九十五人の彼が殺されたってことなのね」

 思わず口にしてしまったが、担当者さんは、特に肯定もせずに話を続けた。

「このサービスが採用となれば、精度向上のため制作数は五百体となります。

 つまり、四百九十九体の死体ができあがる。

 数が増えれば原価自体は下がり弊社は利益増大です。

 もっとも、サービスを選択するかどうかはお客様次第……といっても、そもそも破格ですから費用に拘る方はほとんどいないでしょうね。

 ですが、わたくしには、それでも許せないのです」


 その感情はわかる。 だけど、助かる人が増えるなら……。

 そんな風にも考えてしまう私には、確かに答えは出せないし、決める権利も資格も無いのだ。

 わたしは、彼を生き返らせてしまったのだから。

 ましてや、四人目の彼を欠陥品と考えてしまった。物扱いに他ならない。


「さて、あなた様にはお詫びをしなければいけません」

「お詫び……ですか?」

「はい、五人のうち三人目の記憶の一部を消し、四人目は性格に少し欠陥のある者を選択しました」

「え?」

 どういうこと?

「一人目と二人目が本来の製品候補でした。 そのため、そのどちらかをご選択いただける前提でございます」

「それは、わたしを騙していたということなのですね」

「結果は同じになると思いました。 その分を考慮しての値引き二億でございます」

「そういうことですか……。

 ……その事を許すのは難しいですが、彼が嬉しかったと言ってくれたから、それでチャラです」

「あなた達は優しいですね。

 お礼と言ってはなんですが、何かご希望はありますか?

 わたくしに出来る事であれば……」

 担当者さんの目が、まだ何かを考えていそうに見える……気がした。

「じゃあ、お願いがあります」

「どうぞ」

「彼らについて…………」



 担当者さんとの話が終わり、わたしは家に向かった。

 後は、十二月二十五日を待つだけだ。

 今日、お母さんに伝えよう。

 怒られるかもだけど、もう決めた事だから。

 それに、今、わたしの心はわくわくしている。

 担当者さんのこと、今度会ったら、山田さんって呼ぼうかな……。

 そういえば、なんか街に流れてる音楽って、クリスマスの曲?

 あれ、景色も、イルミネーションとか装飾とか、全然クリスマスじゃん。

 そうよね、もうすぐクリスマスなんだ、いつから、こんなに街は煌めいていたのだろう……いつから……。



 ------------------------



 十二月二十三日、

 わたしは、山田さんに呼び出されました。何か予定が変わったとかかなぁ、良いことな気はしないのです。

 で、復活コーポレーションの病院の応接室にいます。

 あと、なぜか早瀬も連れて来る様に言われたので一緒に来てもらってます。

 あと一人、全然知らないおじさん。


 みんなにお茶が出されたところで知らないおじさんが説明を始めました。

「まず、わしは黒木博士のクローンです。

 復活者のできそこないなんですが、それも含めてわたし自身の話はどうでもいいので気にしないでください。

 ここからは、ちょっと説明が長くなりますので、とりあえず聞いてください」

 その後、まずは、黒木博士という人についてと復活サービスの始まった経緯などの説明を受けました。

 早瀬は、ここまでは、少し前に彼氏?に聞いてほとんど知ってたみたい。

 続けて、この計画について教えてくれました。

 社長殺害事件、早瀬誘拐未遂事件、他にもあるらしいけど詳細はほとんど説明無しだった。

 そして、それらが、全て自作自演であった事を明かされました。加えて、なんと、モニターの件も計画の一部だったのです。


 今日、呼ばれた理由は、関わった事柄についての謝罪と今後どうするかという話をするためでしたが、それは、私たちにとっても大きな意味があったからです。

 ただ、最初良い気がしなかったわたしの勘は、全く充てにならなかったのは……まぁいいか。



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 十二月二十三日、未明

 復活コーポレーション社研究所の裏手には一面のサッカーコートがある。

 ここは、その左右及び奥手側を山に囲まれている。

 山崩れの危険性を指摘されていた土地であるが、そこを少し埋め立て整地して作った土地だ。

 さらに地下は、近隣の河川が氾濫した際に利用する治水設備となっている。

 復活コーポレーションの社会貢献活動の一つだ。

 しかし、その地下にあるのは治水設備だけでは無かった。ここには、復活コーポレーション社自体も認知していない秘密工場があるのだ。


 数分前、その秘密工場内最奥。

 一段高くなっている場所にガラス張りの部屋がある。

「ついに、この日が来た。

 全員、今日までありがとう。

 さぁ、最後の仕上げだ」

 その中に立つ白衣の人物が持ったマイクに年甲斐もなくそう叫んだ。

 工場内の人員全てが呼応するように、それぞれに声を上げていた。


 タカヤは、秘密工場の内部へ侵入していた。

 当然この場所も指揮する者は把握しているのだ。

 入口から廊下を駆け抜けて来たが、特に誰もおらず、妨害も無く進み、広い部屋に入った。

 部屋の中には、黒い目出し帽をかぶった者達が待っていた。 それぞれが、拳銃や小銃を構えている。

「あなた達、自らの意思を持ってここに居るなら始末させてもらう。 だが、強制されているのなら、武器を捨て抵抗しなければこちらも手出しはしない」

 いきなり撃たなかった者達だ、交渉可能と考えたのだ。

「侵入者め、何者かは知らないが、ここを知る者には死んでもらう」

 しかし、誰一人として武器を捨てず、全員が敵対の意思を示していた。

「仕方が無いか……力ずくで通らせてもらう」

(「スーツは強化してある。 小銃程度ならしばらくくらってても大丈夫だ。 いちおう知らせとく」)

 ヘルメット内の通信だ。

「感謝します」

 タカヤは小声で答えると、素早く中央の敵に向かった。

 そして、タカヤの動いた瞬間から銃撃は始まった。

 中央の敵から順に打撃で倒していく、すぐに同士討ちをしないためか敵もナイフ等の近接武器に変更していた。

 しかし、実際その動きはただの素人集団、数と銃頼みだった様で、次々と倒されていった。

 タカヤは、敵全員がまともに動けなくなったタイミングで部屋の奥の扉を抜けた。



 ------------------------



 部屋には、黒木博士が立っていた。

「ここまで来たか」

「あなたが首謀者なのですか?」

「ここに居る者は、ほぼ全員が黒木博士のクローンだ。

 オリジナルに反逆し世界征服をしようと考えている」

「どうして……」

「ここにリストがある。

 このリストには、世界各国の要人やエージェントが多数含まれている。

 もちろん記憶を改ざんした者達だ。

 この意味がわかるだろう?

 わしの手足として動いてくれる。

 そう、誰が裏切るか予想もできない世界は、へたな動きができ無いのだ。

 そして世界は、もうすぐわしの物となる」

「そんな事はさせません。

 だが、計画を中止して、そのリストを渡してくれるなら、僕はこれ以上手出しはしないと約束しましょう」

「お前が何者で何様か知らんが、止められるなら止めてみろ」

 後方の壁が自動的に開き通路が現れた。 黒木博士はそこへと消えた。

「待て」

 タカヤは、追いかけようとするが、入れ替わるように出てきた敵兵に囲まれる。 扉は自動で閉まる。

 敵兵は、全員が共通のデザインのフルフェイスの仮面と装束をまとっている。前の部屋からもよろよろと動ける者が部屋に入ってきていた。

「この人たちも倒さないといけないのか……」

 タカヤは、辛そうに呟いた。

 それでも、五分後、

 敵兵の数は多かったが、時間を要しただけで苦戦はしなかった。

 もちろん殺したわけではない。 動けない様にしたのだ。

 そして、閉まっていた壁の扉を蹴り破って入る。 その先は通路になっているが、明かりもなく先は良く見えなかった。

 すぐに、タカヤのヘルメットの横が小さく開くと、そこにライトが点灯し通路を照らした。

「行くしかない」

 タカヤは、そのまま駆けだした。



 奥は、施設になっており、様々な機械が並んでいる。

 そこを通り抜けると、一段高い場所にガラス張りの部屋が見えた。

 だが、その中に居るのは黒木博士では無く、甲殻類の殻を鎧の様にまとった人間、いや、顔や手の見えている一部では爬虫類を思わせるとても人間とは表現できない者だった。

 タカヤが部屋に入ると、それが言葉を口にした。

「この姿は、研究の成果だよ。万が一ここが攻撃されても、全く問題ないようにな。

 ああ、そうか誰かわからんか。 わたしは黒木のクローンだ。

 研究の成果の一つである生体鎧を装着したのだ。 見た目が醜悪だろうが、それだけでも威圧できる。

 やろうとしていることは悪だからの、こういうのがあってるじゃろ?」

「御じい様、もう止めましょう。

 僕はタカヤです」

 タカヤはヘルメットをとり素顔をさらしてから説得した。

「だからどうした?

 クローンである我々には血縁など関係ないぞ」

「では、どうして、こんな事をされるのです?」

「わしのオリジナルがやらかした罪の清算と本来の目的の完遂だ」

「人の復活のことですか?」

「そうじゃ、そんなもの人間としては要らんじゃろ?

 そして、そもそもの目的が核の代わりの抑止力を持つことじゃった。

 だが、やつは、目的を無視してA国と手を組んだ」

「え?」

「その及ぼす力に怖気づいたのと、個人が人として、していいことでは無いと考え始めたからだ。

 そして、A国に言われるがまま世界が欲しがる大量の人のパーツを作るための大義名分にしたのだ。

 だから、わしが世界を征服して、本来の目的、世界のバランスの取り方を作り変える」

「あなたの独裁ですか?」

「ある意味そうかもな。各国の首脳部は全部わしじゃからの」

「今の僕に言えるのは、いや復活者の僕には本来言う資格は無いと思います。

 でも、どちらも間違ってる事だけは分かります」

「じゃぁ、どうする?」

「逃げるようで申し訳無いですが、議論に値しないと思います。

 一人の人間で決めてはいけない、特に強い力を持つ者は」

「そう、一部の者の利益を優先する全体最適の議論では答えが出ないのじゃ。

 さて、明日になれば、わしの手足達に行動開始の指示が出る様にプログラムしてある。

 さぁ、どうする?

 止めるには、ここを破壊するしかないぞ。

 じゃが、その為には、わしを倒すしかないのだ」

「説得に応じないのなら、そうします。

 だが、あなた達だけを行かせない。僕も共に散りましょう。

 ……後は頼みます」

 タカヤは、ヘルメットをかぶった後に小声で言うと、素早く動いていた。 覚悟ができたのだ。

 黒木博士もそれに応じた。

 双方、物理的な防御力が高いためか、打撃系の攻撃しか無いためか、攻撃は当たるがダメージはほとんど与えられ無い戦いが続いた。

「先ほど、各国にある政府の要所にわしが入った者を向かわせた。

 どう扱うかはやつら次第じゃが、既に手遅れと知るだろう」

 ふいに、黒木博士が状況を付け加えた。

「それが本当なら、日本ごと消滅させられるのでは?」

「”わし”がどこの国の誰になっているかもわからないのにか?

 どこかの国の最高権力者になってる可能性さえあるのだからな。

 それに、さきほどのプログラムが動かなくても、そこまでされれば、”わしら”であれば勝手に世界を破壊してくれる」

「もう一度だけお願いします。

 止めてください」

「無理じゃよ」

 会話しながらの打撃戦が続く中、タカヤに無線が入った。

(「いいか、黙って聞け。

 ベルトの背中側に火薬パックとバッテリーパックがついている。

 火薬パックは右腕、バッテリーパックは右ブーツに、それぞれ差し込み用のガイドがあるからそれに挿せ。

 パンチが当たると同時に前方に向けて爆発する。 拳を握ってろよ、指が巻き込まれたら、一緒に吹っ飛ぶから気を付けろ。できれば”バーストパンチ”とか言うといいぞ。

 そしてできた隙に、みぞおち辺りにケリを入れろ。強力な電気ショックが発生する。できれば”サンダーキック”とか言うといいぞ。

 おっと、大事なことを言い忘れるとこだった。

 彼女が駅で待ってる。

 じゃ、行け」)

 タカヤは、一旦距離を取ってから素早く指示の様にセットし、すぐさま距離を詰めて、頭部にパンチを放つ。小さな爆風が拳の上を通過する。

 その威力は、強化された人間のパンチ力より上な様で、相手をのけぞらせるのに十分だった。

 続けざまに、体勢を崩した相手のみぞおちにケリを放つ。 靴底と相手の接点から激しい放電の色が見え、すぐに焼けるような匂いをともなった煙があがった。

 苦痛の声を上げた黒木博士は、痙攣した様に激しく体を揺らした後、ゆっくりと倒れた。

「御じい様」

 タカヤは、倒れている黒木博士に近寄って抱き起こした。

「わしはもうすぐ自爆する、この施設も連動して自爆する。

 それでも、誰も逃げる者はおらん。

 そして……貴様も逃がさん」

 黒木博士の手が、タカヤの腕を掴む。

 だが、力が入らないのか、その手はすぐにパタリと床に落ちた。

「御じい様、すいません。

 一緒に滅ぶつもりで来ました。

 でも、戻る理由ができてしまいました」

「ふん。

 じゃから、家族では無いと言っておるじゃろう。

 もうすぐ爆発する。

 じゃが、気が変わった、去るなら急ぐがいい」

(「早く、脱出しろ」)

「リストが見当たりません」

(「そんなものはいい、いそげ」)

「他の人達は? 彼らにも自我はあるのですよね?」

(「そこにいる者は、そうしたい黒木博士だけだよ。 かまってる余裕は無い」)

「は……い。

 御じい様……さらばです」

 黒木博士は意識を失っているのか、返事は無かった。

 変わり果てた姿の祖父を見て、タカヤは思った。これで満足だったのかと……。



 黒木博士の息が切れると秘密工場は大爆発を起こした。

 地上へも影響し周囲の山々が山崩れを起こしサッカーコートまでも覆うように堆積した。

 そして、地中深くの秘密工場の痕跡を掘り起こすのは不可能に近い状態となった。




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