第七話:四人目(暗転)
***** 当子side ****/
面会日程:十二月十四日~十二月十五日
面会可能時間:午前十時から翌午後十時
今日も、ちゃんと一時間前に到着。
予定は、やっぱりファストフードから水族館のコースです。
ただ、ファストフードと豪華な夕食の内容は変えますよ。
そして、宿泊……。
今日は、先に聞いて見た。
「あの日の約束覚えてる?」
「あの日って、あの日か……」
「うん、たぶん、その日」
笑顔で答えた。
「なら、覚えてるよ。
でも……
なんで、それを聞いたの?」
「え? あ、ええと……」
「もしかして……OKってこと?」
「あ、いや、そういう事でも無かったんだけど……」
「けど?」
ああもう、昨日もしたし……いいか。
「まぁ、そういう事です」
そう答えてから抱きついた。
「もう、抑えられないよ?」
「もう、まだ、何か言わせるの?」
「わかった」
そして、事が進んで行く……。
だけど、いきなり彼が怒りの声を上げた。
「お前、約束破ってたのか?」
「え?」
あ、昨日の彼は今日の彼では無い、当然だ。
「俺が意識が無かった間に……いや、もっと前からか……」
「ちょっと待って、違うの……」
なんて説明すれば、ああ、混乱する。
「相手は誰だ? 俺の知らないやつだよな?」
「だから、違うって……」
「その体で言い訳が効くわけないだろう。
それで、あんなに積極的に、とんだ淫乱女だったんだ」
声が、怒鳴る様に大きくなっていく……もうやめて。
「お願い、そんなこと言わないで……」
彼の鬼の様な形相に、これ以上は、もう言葉が出て来なくなった。
「まぁ、いい、もう我慢する必要無いんだから。 覚悟しろ」
そう言って、強引にベッドに引き込まれた。
次の日の朝、
寝られた時間が遅かったからか、起きたらもう十時過ぎだった。
彼は寝ていた。
研究所に電話をする。今日は急に予定が入ったから、午前中までにしてもらった。
迎えにも来てくれるそうだ。
すぐに準備を済ませてから彼を起こす。
不機嫌かと思ったけど、そうでも無かった。
「昨日は、ごめん」
「いいのよ。 わたしが悪かったの。 時が来たら本当の事を話すわ。 でも、信じて欲しかった」
「ああ、待ってるよ」
本当に申し訳なさそうにする彼は、きっといつもの彼なのだろう。
その後、近くの駅まで一緒に行き、待ち合わせていた山田さんと落ち合った。
山田さんの車に乗り込む彼には、手を振るのがやっとだった。
せめて、笑顔を作ってあげるくらいできなかったのかと自分を責めた。
怖い……。
あんな一面があったなんて。
だとしたら、結婚なんて……。
彼とは高校の卒業の時に告白されて、付き合い始めた。
大学は別、彼には、やりたい事がありその方面に進んだのだ。
わたしを大事に思ってるからって決めてくれたと思ってたのに……
……そうじゃ無かった?
最初から、信用されて無かったのかな?
/**** 当子side *****
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十二月十四日十九時十五分
早瀬は、先日タカヤに送ってもらった駅前の場所に立っていた。
電車に乗るふりをしてすぐに降りて反対方向の電車に乗るというべたな方法で警護を巻いた。 警護の者たちが予想外の行動にあっさりと引っかかったのも仕方ないだろう。
そして、待ち合わせ場所に来た。十八時四十分くらいから待っている。
「もちょっと早く来て待つべきだったかな……いや、先には来ないかな。
そもそも、来るわけ無いか……ちょっと寒いけど八時くらいまでなら待とうかな、あ」
ロータリーにバイクが見えた。 邪魔にならないところを選んで止めたのか少し離れている。 でも、見覚えのあるシルエットだった。
そちらへ急ぎ足で向かう。
相手もヘルメットを取ってバイクのミラーにかけるとこちらへ歩き出した。
「来ていただけたんですね」
声の届く距離で止まり一言。
「あなたが護衛を巻いて一人で居るとの情報があったからです。
警察にも知らせてありますので時機に来てくれるでしょう」
近づきながら答える。
「あの、またバイクに乗せてください」
単刀直入だ。
「だめです」
即答。
「でも、あれって」
指さすバイクには後部シート横にヘルメットが一つ固定されていた。
「あれは、あの時の様な緊急時に必要があれば使うためです。
僕としてもノーヘルはよくないとわかっていますので」
「ん~、でも実は自前の持ってきました」
大きめのトートバッグからハーフヘルメットを取り出す。
「だめですよ」
「あの、ちょっとこっちへ来て」
そう言って手を引いて駅の方に戻る。
「僕も困りますから」
「ここ、動か無いで」
目の前にはロッカーがあった。
そこにトートバックを押し込む。ヘルメットも戻している。
「どういうつもりですか?」
「じゃぁ、あらためて行きましょう。
ヘルメットは準備してくれたのを貸してくださいね」
「警察に何か言われたのですか?」
「警察のスパイみたいなのですか? そんな訳ないじゃ無いですか、わたしがあなたともう少しお話がしたいのです」
話しながら、また手を引いてバイクに戻る。
ふいにタカヤのスマホが鳴る。
「どうしました?」
(「警護が離れたことに気付かれた様だ、そこは危ない。
警護の到着までそこを離れているといい。
あと、本職の方で一つ予定が入りそうだ。
それまでは、時間をつぶしておいてくれ」)
「え?
なぜ、スマホに?
しかし……、
……了解です。
では、少しだけですよ」
タカヤはスマホを切ると早瀬に答えながらヘルメットをバイクから外し、そのまま手渡した。
すぐに後席用のステップも出す。
「やったっ。
あ、いや、ありがとうございます。 でも嬉しいっ」
早瀬は、お礼を言うとヘルメットをかぶる。
「乗ってください」
タカヤはバイクに先にまたがり手を差し伸べる。
「はいっ」
早瀬は、嬉しそうに答えながらその手を取って、ステップに足をかけてひらりと後席にまたがった。ズボン着用の成果である。
埠頭にある公園。湾岸の工場の見えるこの場所は夜景としても綺麗だ。
二人は、バイクを降りてその景色を眺めて居る。
「あの、迷惑をかけてごめんなさい」
早瀬が話を切り出した。
「僕は、人間ではありません。
だから、意味もなく近づくのはやめた方がいい」
「えっと?
確かにいろいろと人間離れしてるのはわかりますけど、どういう意味か教えていただけないでしょうか?」
「復活者はご存じですよね?」
「はい」
「僕は復活者ですが、あなたの知る復活者では無いんです。 法的に言う違法復活者というくくりからもさらに外れます。
何が違うかは機密事項ですので教えられませんが、それで納得してください」
「復活者って人間だと法律でも認められてると思いますけど、その違う部分が人間で無い部分なのですね」
「ええ、その通りです」
「さっき、意味もなくって言ってましたけど、わたしには意味があるんです」
「命を危険にさらしてもですか?」
「はい。
ただ、あなたに会いたいから。
あなたの事全く知らないし、話した時間もちょっとだけだから、好きなのかは自分でもよくわからないけど、たぶんこれが恋だという自信があります。
だから、逢いたい」
「お気持ち、ありがとうございます。 その様に言われることは心から嬉しい。
では、もう一つだけお教えします。
僕の命はあと数日かもしれません。 この能力の代償らしいです。 復活も能力も全て自ら望んだものでは無いですが」
タカヤはたんたんと話す。
「そんな……」
「では、戻りましょうか」
「わたし、なんて返したらいいかわからなくて、ああ、それは置いておきますね。
普通、命が短いって知ったら、やりたいことだけやったりするんじゃ?」
「僕は作られた存在ですから、その目的を果たします。 それがやりたい事だと思います」
「そこはわたしには理解できないから、それも置いておきますね。
……じゃぁ、彼女いますか?」
「え?
復活してから、言葉を交わした女性はあなただけですので……」
「酷い言い方かもしれないけど、あなたが死ぬまでわたしを彼女にしてください」
「何を言ってるんですか?
僕の命が短いのは真実ですよ? 説明不足ですかね」
「ほんと無茶な話しですけど、誰だって事故で突然いなくなる事もあります。
ダメな理由がそれだけなら問題無いということです」
「それだけじゃないです。
危険に巻き込まれるかもしれない」
「さっき、それは大丈夫っていいましたよ?」
「それは、そうでしたけど……」
タカヤは少し頭を抱える様に答える。めずらしく動揺しているのかもしれない。
「彼女も時間も無いのなら、付き合ってみればいいじゃないですか」
「そんな屁理屈……わかりました。
ですが、僕は夜勤の本職がありまして、それ以外の時間もあまり自由にはなりません」
「本職って、聞いても?」
「僕は、復活コーポレーション社の特殊保安要員です。
夜は研究所に駐在します。 それに必要があればその場所に行きます。
あなたの元へ来たのは、関係者としてご迷惑をおかけしているので保護対象だからです」
「それって秘密なんです?」
「ええ、僕の敵は、国を問わず産業スパイやテロリストですから」
「ごめんなさい、何を聞いても、あなたのことがどんどん好きになるのが分かる。
普通なら、同情して泣いちゃうのかな?」
「ありがとう。 今は、そういう言葉はがありがたいです。
でも、困ったな……。
では、僕に何かあっても泣かないと約束してください」
「それが最後の条件なら、もちろん約束します」
「ですが、今日はもう戻ってもらえますか?」
「はい、あと連絡先教えてくれたら従います」
「そのつもりです。
また警護を巻かれても困りますので、用があるときは連絡していただこうかと考えていました」
「やったぁ」
「それから僕の素性は警察に聞いてください。
たぶんもう調べがついてるでしょうから」
「直接は教えていただけないんです?」
「僕自信は、認めていませんので」
「じゃ、知らなくてもいいです」
「ではタカヤとだけ名乗っておきます」
「早瀬由美です。 由美って呼び捨てにしてくださいね」
「機会があればそうさせていただきます。
では、戻りましょう。
乗ってください、早瀬さん」
「今、名前呼ぶとこでしょ、早速の機会じゃん」
「ごめんなさい、慣れないもので」
「いいわよ、そんなの」
ツンツンと答えながら差し出された手を取って後部座席に座りすぐに抱きつく。
駅につき二人はバイクを降りる。
友人は、ヘルメットをとると目からは涙が溢れていた。
「死んじゃいや……」
泣きながら抱きつく。
「あの……泣かないって……」
「あなたに何も無いから良いじゃないですか」
「ああ……そうでしたね」
タカヤは、彼女の背に腕を回そうとして止めた。
抱きしめ様としたが、パワーアシスト付きの腕と銃弾さえ跳ね返す強化スーツでは加減がわからないのだ。
そしてくすっと笑っていたが、顔を胸にうずめた早瀬には見えなかった。
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復活コーポレーション社総合研究所兼製造工場。
東京ドーム二つ分くらいの広さの敷地に東京ドーム一つ分くらいの三階建てのビルが立っている。
企業の施設だけあって、広い敷地はフェンスで覆われている。敷地に入るには警備員の居る通用門を通る必要もある。
だが、門は今は夜間なので閉まっている。 警備室受付用の部屋も電気が消えている。だが、奥のモニター管理室内には当直が居るだろう。
門の前は十メートル幅の道路があり、反対側には民家や小さな商店などが立ち並ぶ。そして、その門から少し離れた場所にはコインパーキングがある。
そこに止まる車の一台に大場と立花が乗っていた。
「あの姉ちゃん、面白いな」
早瀬のことだろう。
「そうですね、まさか警護を巻くとは想像もしていませんでした」
「次に話を聞くのが楽しみだ。
しかし、あの黒い男は、いったいどういうやつなんだろうな」
「世間ではヒーロー扱いをされだしてますよ」
「世間に知られていない件を含めても、ある意味そうかもしれんが、我々視点では殺人鬼だ」
「殺人については容疑者でしかないですから、そこまで言わない方が良いと思いますよ。
ん?!! あ、あの?」
「どうした?」
「あれって、なんですかね?」
門より少し離れた場所でフェンスの前の植込みの木を引き抜く影があった。
三メートルを超える体長と人では無いとわかる体のバランスと容積、そして全身が長い体毛で覆われている様に見える。街頭の明かりでわかるシルエットだけでもまさに異形の怪物だ。
「ちなみに、お前はなんだと思う?」
「UMAなんでしょうか、ただ知ってる言葉を探しましたが怪獣が近いですかね? 形的にはゴリラでしょうか」
「場所が場所だけに中から出てきたなら、ゴリラかクマが巨大化した実験動物って想像もできるが、あきらかに外部から来た。文字通り化け物かもしれん」
「こちら立花、そちらからも見えていますか?」
(「はい、なんですか、あれ? 指示を願います」)
「こういう場合、捕まえないとなんですかね?」
立花は大場に思った事を素直に確認する。
「相手がどう動くかだが、市民に影響が出る前に動きたい。
見た目で判断して悪いが、足でも撃って動かなくするぞ、それからやつはゴリと呼称する」
「今、警備室に連絡して安全を優先してもらいました」
警備室でもモニターと警報でほぼ同じタイミングで気付いていた。
「こっちも本部に画像送って応援要請しといた。 周辺の監視モニターからもう少し情報を見つけて欲しいが待ってもいられん」
「フェンスを壊しました。 なんて力だ」
「まずい、行くぞ。
では、全員、ゴリが気付くか十メートル手前まで接近、誰かが気付かれたら他の班が足を撃つ、Go」
大場の指示に待機班からも応じる合図を受けて二人も車を静かに出る。
「あの手の動き、なんとなく重機みたいじゃないですか?」
立花が最小限の声で聞く。
「なるほどロボットか。
作戦中止、全員その場で待機」
大場も小声で指示を出す。
「どうするんです?」
「俺はあほだな、確かにロボットと想定するべきだった。であれば、あいつは目的地へ向かうしかしない。
このまま中に入ってもらう、フェンスの先は駐車場だ」
従業員用の駐車場は広く、この時間に止まっているのは社用車が端の方に数台だけだ。
「なるほど、入ったら撃ちますか?」
「いや、警告してからでいい。中に人間が居るかもしれん。
単独とは思えない以上、こっちに気付いてる可能性も高いがな。遠隔操作なら尚更だ。
それ以前に銃が効かない可能性の方が高くなっちまった」
「ええと、ショベルカーを相手にするイメージですかね」
「電装系が保護されて無くて運良くそこに当たればなんとかか。
意外と素早く動くし、さらに腕が二本って、まともにやったら勝てる気がしねぇ」
「入りましたね」
ゴリは今、途中まで破壊したフェンスを足場にしながら乗り越えて復活コーポレーション研究所の敷地内に侵入した。
「行くぞ、同じ場所から突入する。 すぐに右に移動して俺から二メートル間隔で銃を構えろ」
フェンスに走る二人に別な二人が合流して、ゴリの様子を伺いながらフェンスを超えた。
ゴリが二十メートルほど離れた。
「止まれ、そして地面に手を付け、従わなければ撃つ」
ゴリは止まった。そして振り返る。
その姿、ゴリラの様な体形ではあるが、全身は鱗の様なもので覆われていた。 目が赤く見えた。 センサー系の光だろう。
「全員撃て」
ゴリが立花に向かって歩き始めたのを見てすぐに指示を出す。
「僕か」
ゴリのターゲットが自分に向いたと確信した立花は下がる。
立花は下がりつつ、他の全員も銃を撃ち続けた。
ゴリが速度を上げて詰めよりながら腕を持ちあげる。振り下ろすためと想像できた。
腕が上がりきったタイミングで、その大きな体は右に揺れた。その頭の横には飛び蹴りをしたであろう人影があった。
「BR1っ」
大場が驚くように口にした。想定外の登場もそうだが、その行動にも驚いたのだ。
BR1とは、黒いバイクにのったライダーを、立花との間ではそう呼称することにしたようだ。
「こいつは何です?」
鮮やかに着地したBR1こと黒木タカヤが警察に問う。
「わからん」
「では逃げた方がいい、僕がなんとかしますから」
「なんとかって」
「銃が効かないし、下がって様子見して策を練りましょう」
立花が提案する。
「じきに応援が来る。 あんたも逃げてくれ」
大場は、下がりながらタカヤに声をかけた。
タカヤはゴリの腕をかわしながらヘルメット内の声に「了解しました」答えた。 銃弾をかわす者にはスローモーションの動きかもしれない。当たればそれなりのダメージはあるだろうが。
そして、ゴリから距離をとって向かい合う。
タカヤの横にすべる様に黒いバイクが現れた。無人走行だ。
バイクのタンクの上には、機械的なグローブの様なものが乗っている。 タカヤは、それに自分の腕を入れて取り外す。二本のケーブルが出ているが、その先はバイクに繋がっているのがわかる。
すぐにケーブルを引きずりながらゴリに向かう。
ゴリが振り回す腕をかわし、懐に入って装着したグローブをあてがう。 瞬間的に火花が走ると、ゴリの動きが止まった。数か所から煙が漏れている。
「あんたは何なんだ?」
ゴリの停止を見て、大場が近づきながらタカヤに質問する。
「来るな、下がって」
タカヤは、そう大場に警告しながら、ゴリと大場の間に移動する。
その時、ゴリが爆発し、爆風でタカヤが吹き飛び、大場の前まで転がった。
大場も少し後方に倒れている。
「あんたっ、大丈夫か?」
大場がタカヤに近寄って声をかける。
それに応えたわけでは無いがタカヤはよろりと立ち上がる。 弾丸も通さないスーツにもかなりのダメージが見えた。数か所から血も流れ出ているのがわかる。
「僕は、大丈夫です。
後は任せます」
タカヤは、そう答えると近づいてきたバイクに乗り研究所の裏の方へ向かった。
「お、おい、待て」
大場が条件反射で制止する。
「一応追ってみます」
立花が大場にそう言いながら一人を連れて走って行った。
残る一人は、通用門横の警備室へと向かって走っている。門から出て、爆発音を聞いて集まってくるかもしれない市民を制するのだ。
「参ったな、許可も無く入った私有地でこの失態」
大場は、頭を搔きながら、散らばった残骸を確認していた。
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復活コーポレーション研究所。 施設の裏口の一つの近くにある廃棄物置き場。
「申し訳ありませんが、お引き取り願えませんか?」
バイクを降りたタカヤが物陰に向けて問いかけた。
問われた物陰が動いた。 黒づくめの者が出てきたのだ。 両手を挙げている。
「貴様は何者なんだ?」
黒づくめの者がタカヤに問う。
「ここの保安員です」
「じゃぁ、あれは何なんだ?」
タカヤの来た方向に視線を向けて聞く。 ゴリの事だろう。
「こちらが聞きたいところですが……
あなた方の陽動にしては妙ですよね」
「なるほどな」
「先日の方々ですよね?
……中に潜入している二人と一緒に待機させてる車でおかえりください。
なお、あなた方の正体は特定しています。
できれば、敵対はしたくありません。
ですので、あと十秒ほどで判断してください。 警報を鳴らして警察を呼びます。 たまたま近くに居ますし」
タカヤは、冷静な物言いで告げた。
「そういう事か、わかった。
聞いてたろ、撤退だ」
黒ずくめは、無線で仲間に指示を出すとその場を離れて行った。
「ありがとうございます」
タカヤは提案を受け入れてくれた事へのお礼を口にしてから裏口を入った。
同時に、バイクは無人のままどこへともなく移動して行った。
数秒後、立花他一名がその場に到着した時には扉は閉まり鍵が掛かっていた。
「遅かったか、どのみち入れてもらえないだろうが……。
助けてもらったお礼だけでも伝えたかったな……」
立花は呟きながら踵を返すと現場に戻っていった。