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第六話:三人目(過ち)

 


 *****  当子side  ****/



 面会日程:十二月十二日~十二月十三日

 面会可能時間:午前十一時から翌午前十一時


 今日も一時間前に来ちゃった。

 だって、今日遅く来ちゃうと、前の二人より扱いが悪いというか、気持ち的になんか失礼な様な、まぁ、あんまし意味は無いのだろうけど。

 予定は、昨日と同じく、ファストフードから水族館のコースにします。

 昨日、好評だったからと、あえて別な行動に変える必要が無いと思ったから。

 ただ、ファストフードは、別な種類のお店にして、豪華な夕食もホテル内の別なお店に変えるつもり。

 ほんとは、同じにしてもよかったけど、流石に、同じカップルが連日はちょっとあれだよね。


 そして、やはり結婚式の話になった。そこまでは、ほぼ同じ展開。


 違うのはここから、今日は一泊OKなので、あまち深く考えずにそのまま宿泊にした。

 話したい事が、たくさんあるのです。

 でも、なぜか、思い出話や、つい質問的な話になってしまって、少し疲れた気がした。

 だから、明日の午前中はあるから、早く寝て早起きするのもいいかもしれないと思いました。

「今日は、早めに寝ましょうか? 明日もあるし」

 提案。

「ああ、そうだね」

 即了承。

「じゃ、先にシャワーしてくるね」

「どうぞ」

「行ってきます」

 そう言ってシャワーを浴びるためにバスルームへ入った。

 しばらくして、シャワー室を出ると、彼はベッドに座っていて、

「ええと、今日は、いいのかな?」

 と、いきなり聞かれた。

「え?」

「今日の流れではそうなのかなって」

 もしかして……。

「結婚するまで、そういう事はしないって……」

「あれ、そうなのか、ごめん、俺シャワー行ってくるよ」

 もしかして約束を覚えて無い? というか消えてる?

「あ、ちょっと待って。 突然聞いちゃうけど、わたしに告白したときの事覚えてる?」

「ああ、えっと、覚えて………」

「もしかして、思い出せない?」

「ああ、なんでだろう、もやっとは何かあるんだけど……」

「昏睡になるくらいだから、やっぱり少し影響が出たのかもしれないね」

「悔しいなぁ。 どんなだったの?」

「今度教えてあげるね」

 そう言って抱き付いていた。

「いいのか?」と聞かれてキスで答えた。


 必死に思い出そうとする顔が、とても健気だったからだろうか、それとも、この三日間でわたしも……。

 結婚するまでは、絶対にしないと決めていた。

 付き合い始めた日に二人で決めた事、

 提案してくれたのは彼だった。

 泊りでの旅行は何度も行った。

 だけど、決して、違えることは無かった。 たぶん、男の人には辛かったんじゃないかな。

 あの日の記憶、約束した記憶がすっぽり無いんだ。

 それを責めることはできない。

 それにさ、わたし自身、結婚も決まってるんだし、構わないよね……とも考えていた。

 あ、ワイン飲んじゃったからかもとか、言い訳はいくつも浮かんできた。

 そんな感じに、既に頭がオーバーフローしていて、考えたくない案件は消えて無くなっていたのだろう。

 つまりは、そのまま流されて、朝を迎えてしまった。

 そして、早起きどころか、九時過ぎまで寝てしまった。

 しかも、彼は先に起きていて、ずっとわたしの顔を眺めていたらしい。 ずるい。

 朝食はルームサービスで済ませて、急いで準備した。

 彼が戻らないといけない時間は十一時なので、

 チェックアウトは十一時までだけど、ぎりぎりまで粘ってから研究所に向かった。

 研究所へ着くのは、ちょっとだけ遅れた。ぎりぎりまで粘った結果ではなく、えせ牛歩戦術だ。 まぁ、最初に少しくらい遅れても良いって言われてるので、担当者さんには怒られ無かった。


「今日は、楽しかったね。 また来るからね」

 昨日と同じ台詞を言って、わたしは面会室を出た。


 今日は、記録を書く事にした。

 昨日までの事も思い出せるだけ書いておこう。

 なんで、初日からそうしなかったのだろう。

 担当者さんがアドバイスしてくれてれば……気付かなかったのかな。わたしが聞き洩らしたのかもだけど。


 一人目の印象としては、顔がちょっと良かったくらいかな。後は彼のまま。

 二人目は、普通に彼だった。違うところが思いつかないくらい、だけど、一日目の彼の顔をみちゃったからか、なにか物足りなさを感じちゃった。 うわ、何書いてるの、わたし。

 三人目、やさしかったけど、大事な日の記憶が欠けていた。そして、……。


 やっぱり意味無いかな、メモなんて……わたし、日記とかも付けたことなかったし……何よりも、なんか偉そうに評価してるみたいで、すごく罪悪感を感じる。



 ------------------------



 十二月十三日

 早瀬は昼食を会社の近くのコーヒーショップで取っていた。

 なんとなく眺めていたスマホに、ふいに電話が入る。 非表示の相手だ。

 それでも、今だけは、タイミング的になんとなく気になるのだろう、早瀬はその電話にすぐに出た。

「え?

 ……あ、はい、わかりました」

 一瞬驚きの表情を浮かべて、電話を受けながら辺りをちらちらと見回していた。

 少し離れた席に大場と立花が居た。 彼らも昼食を取っている。 電話をかけているのは当然別な人間だ。

 顔の見える側の立花が一瞬だけ視線を合わせて戻した。

「ちょっとイケメンだ」

 電話は切れたのか、思わず呟いていた。

 その時、相席してきた者が居た。 店内がそれなりに混むランチタイムに四人掛けの席に一人で座っていたので特に不思議な話では無い。

「警護を付けてもらえたんだね」

 そう話しかけた声に早瀬は顔を上げた。視線の先に居たのは黒木タカヤだ。サングラスをかけているが、誰かと特定するのにはあまり意味は無い。

「あ……はやっ」

 思わず驚く声が先に出た。電話は既に切れているが、相手はタカヤだったのだ。

 お化粧を直す時間が欲しかったなどとは、既に言える段階でも無い。

「聞きたいことがあって来ました」

「あ、はい……」

 スマホを耳の傍に持ったまま答える。

「あなたがなぜ狙われたか分かりますか?」

 タカヤがゆっくりとした優しい口調で問いかけた。

「あ、ええと……警察の方が言ってました」

「はい」

「復活コーポレーションって会社の社長の……あ、愛人に、間違われたとか……」

 愛人という言葉が気になったのか少しためらう様に答えた。

「では、あなたは、あの会社の関係者でしょうか?」

「いえ、友人に付き添って一度行ったことがあるだけです」

「なるほど。

 ありがとうございました」

 タカヤはそう言って席を立つ。

「あの」

 早瀬は咄嗟に呼び止める。

「はい」

 タカヤは、動きを止めて応じた。

「あ、ええと、あなたも警察の方達が探しています」

 つい呼び止めてしまい、まさかの反応に少し焦って出た言葉だった。

「そうでしょうね。

 でも、ご心配は不要です。

 彼らは、こういう場所で僕に手は出さないでしょう」

「そうなんだ」

「では、貴重なお昼の時間、お邪魔して申し訳ありませんでした」

「ええと、こちらこそ本当にありがとうございました。

 先日のお礼がしたいのですけど、お時間いただけませんか?」

「お礼なども不要です。

 僕が勝手にやってることですので」

「えと、明日、夜の七時に先日送って頂いた場所に来てください」

 早瀬は、無視して強引に続けた。

「ごめんなさい。 これ以上僕に関わってはいけない」

 タカヤは、先ほどと違い冷たくそう言って足早に店を出て行った。

 早瀬は、今度は呼び止めることはできなかった。

 タカヤの言葉の強さも感じたが、少し状況の整理が追い付かなかったのと、可能性は不明だがとりあえず次につなげるられたのだ。


 タカヤが店を出るとすぐに大場がテーブルに来て問いかける。 立花はタカヤを追って既に店を出ていた。

 面が割れることを避けるため彼女に近づくことはしなかった二人だったが、緊急事態としてあわせて動いたのだ。

「何を話しましたか?」

 大場が聞く。

「わたしがなんで狙われたか教えてって」

 早瀬は、普通に答えた。 答えても、タカヤにとって不利では無いと判断したのだ。

「他には?」

「この前のお礼をさせてって言ってみたんだけど、あっさり振られちゃいました」

 言った内容の詳細までは教えないのだ。

「それだけですか?」

「そうですねぇ。話し方が丁寧というかよそよそしいというか、くらいですかね」

「なるほど、ありがとうございました。

 なお、この場を誰かに見られたかは不明ですが、引き続き離れての護衛となります」

 大場は早口気味に簡単に説明した。

「はい、お願いします」

 早瀬は、社交辞令の笑みを足して答えた。

 大場は、特に気にもせずにすぐに立花の後を追った。 この場には、既にバックアップが到着していた。



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 夕方、当子は早瀬に呼び出された。

 場所は、二人でウインドウショッピングでよく行く大型デパート。

 既に、お気に入りの婦人服ブランドのショップで物色している最中だ。

「久しぶりよね、一緒にお買い物なんて」

 当子は上機嫌な雰囲気である。

「いろいろ大変な時にごめんね。

 ちょっとパンツが足らなくなったのよ、あとブルゾン系が必要なの」

 早瀬は、いつになく真剣な表情で答えた。

「ふむ。

 わたしの方は、いちおう順調だと思うから大変じゃないけど、まぁ、ある意味緊張しっぱなしだったから息抜きになるよ。

 でも、早瀬ちゃん、スカートの方が好きじゃなかった?

 何か外回りの仕事でもするの?

 あ、もしかしてズボン好きな彼氏ができた?」

 当子は想像した結果を嬉しそうにつっこむ。

「近いような遠いような感じだけど、毎日ズボンで待機していたいのよ」

 早瀬は、的中な指摘にはあまり反応せずに普通に答える。

「ほう、でも、待機って……」

 当子は、返しが難しい答えが帰って来て困惑する。ツッコみどころは満載なのだ、まさかの都合のいい女状態の可能性もある。

「靴もヒールじゃ無い方がいいかなぁ」

「たいへんだ」

「もう少しなんとかなったら話してあげるからね」

「仕方ないなぁ、待つとしますか」

「キュロットもありかなぁ、厚めのストッキングとかレギンスなら行けるか」

「早瀬ちゃん、スタイルいいからズボンがカッコよくて似合うと思うけどなぁ」

「カワイイ方がいいときは?」

「ああ、ええと、ズボン系でよね?

 夏なら、おへそ出すとかもできるけど……。

 上に着るもの、マフラーの結び方とか、後は髪型を変えるとか?」

 当子は、物色する手を止めて考えながら思いついた順に答えた。

「髪型かぁ、切りたいとこだけど、相手の好みがロングだと取り返しが付かない。 前髪だけちょっと切るか」

 髪型は、ヘルメット着用を想定したいが、悩みどころなのだろう。

「なんでもするって感じやね」

「そうね、なんでもありというか、何者?みたいな相手だし」

「いったいどんな人よ」

「人、だよ」

「どういう意味よ」

「だから、もう少しなんとかなったらね」

「はいはい、楽しみに待ってますよっと」




 ------------------------



 タカヤは、早瀬と喫茶店で別れた後、バイクを走らせていた。帰還中だ。

 その時にヘルメット内に無線が入る。

(「数分前に近くで民家の火事が発生している。

 ネットの実況では、中に人が残ってるらしい」)

「向かいます」

(「消防が集まって来てるから、邪魔にならない様に目印の位置にバイクを止めて向かえ。

 隣の陸屋根からバルコニーに降りられる。

 残されているのは一人だ、予備のヘルメットも持っていけ。

 それから、初めて使うと思うから言っておくが、ヘルメットからの酸素供給は五分間だ」)

 説明の言葉と合わせて、ヘルメットのスクリーンにナビ画面と案内が表示される。

「了解」

 一分後、火事が発生している隣の家の裏手、ジャンプして二階に手をかけるとそのままベランダによじ登る。同じ要領で屋根まであっという間に到着した。

 陸屋根を走り、その勢いのま隣の家の方に飛びバルコニーに着地、割れていたサッシから漏れている炎をものともせずに突入した。

 すぐに室内を捜索する。二階では発見できず、一階へ移動、洗面所で倒れている老人を発見。

 意識も確認せずに予備のヘルメットをかぶせ、抱きかかえると素早く外へ向かう。

 予備のヘルメットを見て、ふいに彼女の顔が浮かんだ。友人を最初に乗せた日以降、予備のヘルメットを携行しているのだ。

 玄関ではなくリビングの方の大窓から飛び出した。 放水も開始され始めており、そこから突入予定だったのか目の前にいた消防士の間を抜けて、派遣されていた救急車まで走り、説明不要で理解されたのかすぐに載せてもらえた。 ヘルメットを回収し有無を言わさずにその場を後にした。 全て無線による指示だ。

(「五分は余裕だったな」)

「余裕を感じる余裕は有りませんでしたけど」

(「助けられてよかった。 そして余裕ってのはなんか違ったなすまん」)

「はい」

 無線で会話をしつつ駆けていく先でオートで近づいてきていたバイクと合流、すぐに発進、交差点をいくつか曲がると人気のないガード下の通りに出た。

 そのまま少しだけ進むと、配送業者のトラックが止まっていた。

 運転手の休憩を装っていたのか、配送業務が発生するとは思えないその場所で、トラックのコンテナ部の扉は開き昇降機が降りている。

 タカヤは、昇降機にバイクを乗せる様に停車する。すぐさま昇降機が上昇しコンテナの中に収納された。 これは専用に改造されたトラックだ。

「いつも、お手数おかけします」

 タカヤは、ヘルメットを取ると言葉を発した。どこかにマイクがあるのだろう。

 既にコンテナ部の扉は閉じており、すぐにトラックは動き出した。




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