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第四話:一人目(逸る心)と驚愕、黒いライダー

 


 *****  当子side  ****/



 面会日程:十二月十日

 面会可能時間:午前十一時から午後五時


 今日は、晴れ、降水確率十パーセントだし。

 週間天気予報は、先週から何度も見て来た。 テレビとネットで違ったりとか、思ってたよりもころころと変わるのには慣れっこだけど、確認する頻度とメディアが確実に増えた。

 今日は、どれも晴れ予想だったけど、本当に晴れて良かった。



 昨日の夜は、中々眠れなかったのは言うまでも無いのですが、今朝早起きしたのも言うまでもないですね。

 でも、全く眠くない。緊張しすぎ……不安な気持ちの方が大きいからかもしれない、大きすぎる金額が頭に浮かぶたびに後悔に似た感情もよぎらなくもない。

 でも、会いたい。いや、会いたいんじゃなくて、一緒に生きていきたいの。

 だから、今日という日を実現した事、それほどの偉業に対して、初めて自分を誉めます。

 ああ、意識が覚醒して治まらない。

 というわけで、家に居ても落ち着かないので、勢い付けるつもりで早めに家を出ました。

 だから、予定より一時間も早い午前十時くらいに着いて、面会室の前の椅子に掛けて、その時を待っているのが現在。 ここは営業所では無くて病院みたいです。

 もう十一時かな、と、スマホの時計を睨みながら、既に一時間近く緊張マックスが続いている。

「お入りください」と担当者さんが扉を開けて誘導してくれた。

 え? まだ、五分前くらいですよ、あれ、心の準備が……早く来ていた意味って……。

 あたふたと部屋に入ると、まず涙が溢れて来た。

「当子」

 わたしの名前を呼んだ目の前に居る男性は、紛れも無く、わたしの会いたかった人物だ。

 何日ぶりなのだろう、そんなことを考えながらも体は勝手に動く。

「和希……」

 名前を呼んで抱き付いていた。 科学万歳。

「当子、どうした?」

「やっと目覚めたのよ」

 そう、そういう設定だ。

「ああ、そうらしいが、なんとも、よくわからなくてな」

「良かった」

「ああ、よかった。 そして、ごめんな。 たくさん心配かけただろうし、それに……結婚式」

「いいのよ。 今、こうしていられる事がどれだけ……」

 なんか、今実感が沸いて来た。 そう、この人を失ってたんだ、わたし……。

 なんで、あんなに普通にしていられたのだろう。

 こんなにも、こんなにも、幸せな時間を失っていたと言うのに……。

「なんか、照れるな。 人、見てるし」

「ごめんなさい、あまりに嬉しくて」

「いいさ、悪い気分じゃ無いしな」

「ふふ」

 なんかにやける。

「この後、六時間くらい外出していいらしい。 どこか一緒に行ってくれる?」

「もちろん」

 彼は、先日わたしが準備した服を既に着ている。五着分づつ用意したうちの一着だ。

 だから、すぐに出発できる。

「まず、腹が減ったかな」

「了解、行きましょう。おごっちゃうよ」

 六時間しか無いのに、食事での時間は惜しい気がしなくもない。

 でも、一緒に居られるなら関係無い。

 いや、逆にゆっくりと話をするなら食事の方がいいか、その後はお茶。

 気にしなきゃいけないのは、この会社のある場所からの移動時間を考慮する必要があること。

 幸いなことに、新宿駅まで徒歩十分くらいだ。

 二人ではあんまり来て無い街だけど、その分いろいろ調べて来た。

「では、ふんぱつして、ちょっと高級目のホテルのレストランにしよう」

 値引きしてもらった二億円があるんだし。

 行き先が決まったので、彼を引きずる様に手を引いて歩き出す。

「いってらっしゃいませ」と担当者さんが送り出してくれた。

 わたしは、適当に手を振って応じたけど、彼は、丁寧に会釈していた。

「いいやつ」

 良い人だなぁと、思った事が口から出てしまった。

「そう?」

「ええ、お世話になってるしね。 わたしも明日は会釈しよう」

「明日?」

「あ、迎えに来る時か、次に面会に来た時かな」

「手を振るしぐさも可愛かったから、いいんじゃないの」

「へへ」

 にやける。

 あれ、でも、なんかちょっとだけ顔がかっこ良くなってない? もともと、それなりにかっこよかったけど。

 いい感じだから、気にしなくてもいいか。

 そして、にやける。


 でも、六時間なんてあっと言う間だ。

 食事とお茶と公園での散歩くらいしかできなかった。

「じゃあ、また来るね」

 そう言って、わたしは部屋を出た。

 そして、にやける。今日の事を思い出して。

「明日が早く来ないかな」

 そうつぶやいて、少し速足で駅に向かい、途中でタクシーを拾っていた。

 今急いでも明日が早く来るわけでも無い……いや、早く寝ればいいじゃん。



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 夜未明、復活コーポレーション社研究所内、研究室前の通路。

 照明は落ち、誘導灯の灯りのみの薄暗い通路で、一人と五人が対峙していた。

「お前たちは何者だ?」

 一人の方、黒木タカヤが、目の前に居る黒ずくめの五人に対して厳しい口調で問いかけた。

 タカヤは、黒いヘルメットは同じだが、ライダースーツは今回も少しだけ大きく見える。

 黒ずくめの五人は武装しており、全員が拳銃を構えている。

「なんだ、こいつは」

 中央の者が焦りぎみにつぶやく。 少し前、拳銃を撃ったが弾丸を弾かれたのだ。

「警備員が一人もいないのも不思議だったが……」

 右の者が、それに同意するようにつぶやく。

「日本語、日本人なのか?」

 タカヤは少し驚いた様に聞き返す。

「どうやらこのサイズの銃では役に立たない様だ。 同時に仕掛ける。 プランFっ」

 中央のリーダーらしき者がタカヤの問いは無視して指示を出す。 同時に中の三人が飛び掛かる。

 各々の手にはナイフらしき光が見えた。

 左右に残った二人がタイミングを測った様に拳銃を撃つ。

 タカヤは右手を振ったのか、拳銃の弾をはじいた様に見えた。 跳弾がモルタルの壁に埋まる。

 三人は、そのまま次々とナイフを繰り出すが、拳銃の弾さえはじく者にその動きはどう見えるのか、瞬く間もなく三人とも手首を押さえて引き下がる。各々のナイフは床に転がっている。

 一旦下がり四人は呼吸を合わせてから銃を撃つ、残り一人が缶ジュースの様な何かを転がした。

 タカヤは、銃を受けつつ距離を取るべく下がる。

 既に五人は背を向けて走りだしていた。缶から煙が吹き出し、すぐに閃光も広がった。

 そして、五人は近くの窓を破って飛び出した。

 タカヤは、それを追いかけようとして止まった。

「追うな、ですか?

 ……。

 やつらは何者でしょうか?

 ……。

 そういうことですか。

 ……。

 なんでそんなものを……

 いいのでしょうか?

 ……。

 ええ。

 ……。

 わかりました」

 タカヤは、そのまま五人を見送ると、独り言の様にしゃべりながら研究室へと入っていった。



 ------------------------



 警視庁の大場と立花は北海道襟裳岬に居た。

「ここに奴のヘルメットが置いてあったと……そしてそれだけ」

 海に近い岩場、人気が無いその場所で大場が呟く。

「ここまで来てだと、わざとらしいとしか思えないですね」

 立花が海を見つめながら答える。

「ああ。

 北海道まで来たのに、収穫無しとはな……」

「現時点では、大きな手掛かり無しって報告があったのに、強引に来ただけじゃないですか」

「見ておきたかったのさ、ルートを」

「このままじゃ、北海道観光しただけみたいじゃ無いですか」

「いや、少し見えたよ」

「ほう、じゃ教えてくださいよ」

「戻って確認することがある」

「僕は、この件は北海道警に任せて良いと思いますよ。

 たぶん、別件を追えば繋がるでしょうし」

「だから、戻って確認するんだよ」

「そうでしたか。

 じゃ、そう言えばいいのに」

「何時言っても同じだろ」

「何言ってるんだか。

 じゃ、戻りましょう」

「新千歳まで遠いなぁ」

「運転は僕がしますから。

 今からなら今日中に戻れます。

 札幌でラーメン食べたいとかはだめですよ」

「わかってるよ。 ちょっと思っただけじゃねぇか」

「思ったんだ」

 立花はクスりと口元だけで笑った。

 そして、二人の刑事は襟裳岬を後にした。



 ------------------------



 翌日、首都近郊にある某豪邸。

 そのトレーニングルーム。

 黒木タカヤはトレーニングをしていた。

 傍らに置かれたスマホに着信があった。

 田村がすぐに取って来て手渡す。 少し表情が暗い。 電話の相手がそういう人物なのだろう。

「どうぞ」

 タカヤは、スマホを受け取るとすぐに出てからスピーカーモードにしてテーブルに置く。

「どうしました?」

「やぁ、お疲れさん」

 スマホからの声はヘルメットでも聞こえていたものだ。

「何かありましたか?」

「昨日の件、気にしてるかと思ってな」

「なんと言い訳しても、やったのは強盗ですからね」

「物は盗って無いだろ?」

「それでも命は奪いたくないですよ」

「そうだな。

 毎度こういう言い方しかできなくて申し訳ないが……

 怪獣とか怪人が現れて悪さをしたら、誰が対処するか?、その方法は?

 軍や警察は出てくるかもしれん。

 そいつらの無差別な破壊や殺人が始まるのをわかっていたら?

 だが、誰が判断する? 悠長に待っていたら被害は時間と共に拡大する。

 俺たちは法律の外の戦いをしている。それができるからだ。

 だが、絶対に悪と言える者しか相手にしない。

 それで罪なき人々の犠牲を少しでも減らせるんだ。

 まぁ、法的には俺たちも悪の側に位置しているのだろうが、そんなの構わないだろ?」

「ええ、分かっています。

 俺の命が尽きるまでは、少しでも悪を排除する。 その覚悟は揺るいでないです」

「そうか。

 で、これも間が悪くてすまないが、本職の方の話だ」

「どうぞ」

「研究所で関係者リストが盗まれただろ?」

「ええ、でもなんでそんなもの、個人情報としても最低限のレベルで調べようはいくらでもある」

「でだ、それがいろんなとこに出回ったかもしれん。

 あの時は放置で良いかと思ったんだがな、会社と関係あるって属性がまずかった。 とんだ失態だ」

「それで、何をすればいいんです?」

「ああ、回収については、既に意味が無い。 だから、それはいい。

 だが、リストにあった人物が狙われるという情報を見つけた」

「狙う? もしかして社長殺しの犯人でしょうか?」

「今のところ繋がる情報は無い。 だが、可能性は高い。

 その人物を守るのと、できれば犯人を確保して欲しい」

「了解です。 詳細を教えてください」

「ここまで言ってなんだが、実は関係者ってわけでも無いんだ…………」



 ------------------------



 早瀬は、会社から帰宅のため駅に向かっていた。

 その背後に近づく男が居た。

 一方通行の車道で横に二メートルほどの幅の歩道があり、時間的に行きかう人もそれなりに多い。

 ただ、近づく男は明らかに酷い酔っ払いの様に挙動が怪しかった。



 少し前、黒バイクの男は早瀬が帰宅している様子を側道から見ていた。

 --黒バイク男のヘルメット内の会話

「彼女ですか?」

 黒バイクの男が質問を口にする。

(「そうだね。 何かありそうなら君の判断に任せるよ」)

 ヘルメットに内蔵されているスピーカから返事は聞こえた。

「承知。

 ん? 急に男が歩速を上げた。

 まずいか。

 いや……これは……行きます」

 その時、黒い高級セダンが通り過ぎて早瀬の横で止まり、後席のドアが開き、出て来た男の手が早瀬に伸びた。

 それを見て緊急事態と判断しバイクを発進させたのだ。



 黒いセダンの車内。

 中には、早瀬を捉えた男、運転席、助手席、後席にもう一人、合わせて四人のスーツの外国人男が居た。

「乱暴にしてすいません。

 あの人物に心当たりはありますか?」

 早瀬を捉えた男は、早瀬の口を塞いだまま後方の窓へその視線を誘導する。 言葉は、日本語だ。

 運転手以外も一緒にそちらを見た。

「なんだ?」

 早瀬を捉えた男が疑問の顔をした。

 同時に早瀬の口を自由にした。

「降ろしてください。

 あなた達は何ですか? 誘拐犯?」

 早瀬は、男の手を払いのけながら、あまり刺激しないような口調で聞く。

「あの、落ち着いてください。

 我々はあなたを助けたのです。

 安全なところで解放いたしますので、しばらく我慢ください」

「助けた?

 もしかしてあの黒いバイクから?」

「いえ、そうではなく。

 あなたの背後から近づいていた殺人鬼からです」

「殺人鬼?」

「おい、追ってくるぞ。

 やつの仲間か?」

「かもしれんな。

 どこか対処可能な場所を探してくれ」

「倉庫街がある。

 そこへ向かう」

 助手席でナビを操作していた者がすぐに答えた。 追手に気付いた時に想定していたのだろう。

「ちょっと待って、降ろして」

 友人は、懇願する。

「ですから、やつの狙いはあなたなのです」

「意味わかんないわよ」

 意味が分からない事から既に怒りに変わっていた。

「あのバイクをなんとかしたら、ご説明して解放しますから。

 今は、大人しくしていてください」

「じゃ、警察に電話させてよ。

 殺人鬼に追われてますって」

「それは今は困ります。

 我々が後で知らせておきますので」

「馬鹿なの?」

 車は側道に入ってしばらく走った。そして突然。

「車載コンピュータが乗っ取られた」

 運転をしている男がおびえる様に知らせる。

「自動運転車じゃ無いんだぞ?」

「知るか、ハンドルをきるくらいしかできない」

 運転手は、焦りを隠せなかった。

「おい」

 助手席の男が右側を指さす。

 黒バイクが並走していた。

「ぶつけろ」

 早瀬を捉えた男が強引な指示を出す。

「あ」

 運転手がすぐに指示に従い右にハンドルをきったとき、既に横に黒バイクは居なかった。

「後ろだ……乗ってるやつがいない?」

 その言葉を待っていた様に、車の屋根から何かが飛び出した。金属がひしゃげるような音と共に。

 飛び出したそれは腕だ。 黒いグローブを付けている。拳に黒光りの金属が見えたかどうか。

 黒い腕は、そのままハンドルを握ると、車の速度が落ち始めた。

「びくともしない」

 運転手はその腕をはがそうともがいていた。

 そしてその手が少しハンドルを左にきり、車は止まった。

 腕がハンドルを放し天井から抜けたと思うと、その主は後部座席を開けて座っていた男を引きずりだし、その勢いのまま投げ飛ばす。

 続いて早瀬に手を差し伸べた。そして一言。

「君を助けに来た」

 早瀬は、一瞬躊躇するがすぐにそれに従うようにその手を取り車の外に出た。 反対側の男が引き戻そうと伸ばした手はあっさり黒いグローブにはじかれる。

 前席の二人は、ドアを開けようともがいている。 黒バイクの男が開けた右側後部以外はドアロックが外れないのだ。 いや、右側後部だけは勝手に外れていたのだ。

「待て、動くな」

 前席からなんとか出られた男が拳銃を構えてどなる。小型のサイレンサー付きだ。

 車の三十メートルほど後方に停車しているバイクに向かおうとしていた友人と黒バイクの男は止まって振り向く。バイクまであと十メートルも無いだろう。

「君はバイクの陰に隠れていてください」

 早瀬にそう告げてから両手を上げて一旦横に移動してから拳銃を構える男に向かってゆっくりと歩を進めだす。

「動くな」

 二度目の警告がされた。

「止まらなければ撃つ」

 三度目の警告。

 既に他の三人も拳銃を構えている。

(「その者達は悪人じゃなさそうだ。 おそらく他国のエージェントだ」)

 ヘルメット内蔵スピーカーからの音声だ。

「了解」

 黒バイクの男は小声で答え、歩みを止めた。そして言う。

「この人に何かする気が無いのなら、引き下がってもらえないでしょうか?」

「そちらこそ怪しい奴。 車を動かなくしたのはそちらの仕業なのだろ?」

「もう、動きます」

「答えになっていないな。 そして、君の正体をぜひ知りたい、ゆえに捕縛させていただく」

「話が通じないか、怪しく見えるのは確かに否定しがたいですが」

 黒バイクの男は歩みを再開した。

 音を押さえた銃声がした。

 足元のアスファルトが弾ける。

 歩みは止まらない。

 銃口は男の右足に向いた。腿のあたりだ。

 だが、既にその一人の前に近づき腕を取って投げていた。投げられた者が地面に転がる。

 別な一人が続けざまに撃つ。 威嚇というより、当たっても良いから、とにかく撃つという行動だ。

 男の胸の前で何かが弾けた。 右手の位置が一瞬で移動していた。

「はじいた?」

 撃った男が驚愕の表情で呟く。

「あなた方の正体は知らないが、致命傷を避けない攻撃は看過しがたい」

 そう言い放つと、四人を次々と倒し、みぞおちに掌底を充てて呼吸をし難くしていった。

 途中撃たれた銃弾は全てかわすかはじいた。

「きさま……にんげん……か……」

 倒れる男の一人が苦しみながら言葉にした。

「あなた達が去らないのでしたら、こちらが去ります」

 黒バイクの男は、そう告げると落ちている銃を拾って、車のタイヤを撃ち抜いた。

 そして、バイクに近づく。

「送ります」

 自分のヘルメットを取って早瀬に渡しながら声をかけた。

「あ、あの、はい……お願いします」

 早瀬はヘルメットをかぶりながら答えた。 実際、何が起こったのかも状況も理解できていなかったが、「君を助けに来た」という言葉の印象から本人は拒否する気はなかった。

 そして、バイクは発進した。 横たわってうめく四人を置き去りに。



 黒バイクの男は、最も近い駅のロータリーにバイクを止めた。

「ありがとうございました」

 早瀬はバイクから降りるとお礼を告げてからヘルメットを返す。

「今日の事は……」

 黒バイクの男が、言い難そうに切り出した。 起こった内容から想像できるのは、口留めだろうか。

「はい、誰にも言いません」

 早瀬は察してすぐに答える。

「ありがとう。

 だけど、そうじゃなくて。

 警察に僕のことも含めて全部話していいですから、しばらく警護してもらった方がいい。

 彼らはたぶん危険じゃないと思います。 それよりも、その前に君を背後から襲おうと後をつけている人物が居て、そいつがとても危険だと感じます」

 彼らとは、誘拐した四人の事だ。 そして、後者は人目のある場所で強行する異常な人物であったのも間違いない。

「え?

 あの人達もそれっぽい事言ってましたけど……そんな。 なんで?」

 早瀬は戸惑いと不安の表情をみせた。

「だから、警察に事情を話すといい。

 あちこちの監視カメラで確認もたやすいだろうから信じてくれるはずですから。

 君の知らない事情も警察が調べてくれるかもしれないですし……」

 黒バイクの男は、少しだけ明るい顔で話を続けた。

「わかり……ました」

 早瀬もできる限りの笑顔を作って答えた。

「では、すぐに警察に行くんですよ」

 そういうとヘルメットかぶり、すぐにバイクを発進させた。

「あ、本当にありがとうございました~」

 早瀬は、走り去る背に向けて手を大きく振りながら少し大きめの声でお礼を言った。

 聞こえてはいないだろうバイクはそのまま走り去った。

 早瀬は、バイクが見えなくなっても少しだけそちらを見つめていた。

 今しがた起こった命の危険は、なぜかあまり気になっていないのが不思議だった。




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