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第三話:契約

 


 *****  当子side  ****/



 わたしは、自分の部屋に戻ると、真っ先に友人早瀬に電話をかけた。

 決めたことを報告しようと思ったのです。 それと、やっぱり心が落ち着かないので話を聞いてほしかった。

「マジか……」

 早瀬の唖然とした感じの驚きの反応は、まぁそうだよね。 そして、返事より先にガシャ~んって音が聞こえたような。

「うん。  ん? ちなみに、どっちにマジか?」

 もしかして、ガシャ~んにマジか?かも?

「もちろん彼を復活させる方だけど、宝くじ一等も十分以上にマジかだよ。

 で、わたしにはよくわからないけど、当子が決めたなら、全力で協力と応援する」

「ありがとう。

 そして、大丈夫、わたしも実はよくわかってないと思う」

「たぶん、彼本人しかわからないよね。

 近しい人も複雑だろうけど、本人次第で変わると思う。

 その他のまわりは、ある意味元にもどるわけだし、今の世界じゃさほど混乱も無いでしょ」

「うん。

 ところで、さっき、ガシャンって音がしたけど、大丈夫? 何か割れたんじゃ」

「ああ、ワイングラス落としたんよ。びっくりさせるから。

 でも、割れて無いし被害もちょっとだから安心して。

 あと、中身は水だよ」

 被害としては、当然水がこぼれたんだろうなぁ。大事なものにはかかってないと信じよう。

「そっか、でも、申し訳なし。

 それじゃ、これから実家さんに電話するので切るね」

「そか、じゃぁ、頑張って。 またね」

「はい、また~」

 わたしは、ふぅ~~と長いため息をついてから、さらに深呼吸をして彼の実家に電話をかけた。

「あの、大木と申します…………」



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 復活コーポレーション社本社ビル最上階、役員室。

 五十代くらいだろう男性二人が話をしている。

「社長交代についてですが、一旦、副社長でもある、黒木博士に代行いただきます。

 警察の捜査が落ち着いたら、役員会であらためて動議することになるかと思います」

 若干若い方がかしこまった感じで説明する。

「わしは構わんが、当面、新規受注は停止、研究所も様子見になるだろうから、仕事はCMをどうするかくらいだろう?」

 もう一人、黒木博士が怪訝そうに応じる。

「そうですね」

「なら、広報でやればいい」

「はい、その通りです。 ご推察の通り、はっきり言って対外向けの処置ですので」

「回りくどいのぉ」

「すいません」

「しかし、これで次期社長には政府の犬を堂々とねじ込んで来るな。

 まったくこの会社を調べるより、そっちを疑って欲しいわい」

「あまりそういうことを口にされない方がよろしいかと」

「わしも身の振り方を考えておこうかの」

「それは、皆が困るかと、博士頼りの会社ですから」

「わしはあいつに誘われて来た人間だぞ」

「はい、それでも、前向きにお考え下さい」

「どっちが前なのか……」

 黒木博士は、窓の外に目を向けて誰にともなくつぶやいた。



 ------------------------



 A国、大統領執務室

 大統領は、補佐官から復活コーポレーション社社長殺害の報告を受けていた。

「どういうことだ?

 いや、誰の? どこの国の仕業だ?」

「日本警察の捜査状況も入手しておりますが、ほとんど進展していない様です。

 ただ、殺害方法があまりにも単純なのが気になります」

「なのに、捜査は進捗しないと。

 殺されたのは、本物なのか?」

「それについては間違いない、ということです」

「もし生きてるのが居たとして、そちらが偽物でも同じだがな」

「そうですね」

「で、派遣したチームは動けそうか?」

「もうすぐ羽田空港に到着する頃だと思います」


 同じころ、A国以外の国でも、上層部による審議が行われた。

 ほとんどの国では、このどさくさに紛れて復活コーポレーション社への出資や協業の申し出、輸出入関連の会合への誘いなどなどを進める決議が多くされた。



 ------------------------



 夜間未明。

 都内某所の地下、とある犯罪組織の拠点。

 それなりの年齢の男性が十人、二十代後半だろう女性が三人たむろしている。

 そこへ、堂々と扉を開け放って入ってきた者が居た。

 黒バイクの男、黒木タカヤだ。今は、ヘルメットで素顔は見えない。ただ、ライダースーツは少しだけ大きく見える。

「何者だ?」

 一人のやくざ風の男が問う。タカヤは、ここに居るものの仲間ではないのだ。

「なんだその恰好は、カッコつけてんのか?」

 他の者がそうどなりながらタカヤに近づこうとした。

「待て、怪しい。 撃て、殺せ」

 もっとも偉そうにしていた五十代くらいの男が大声で指示した。

 その場の男たちが一斉に拳銃を取り出す。 まず、近くの者が発砲した。

 その結果に、全員が硬直した。

 銃口の向きからすれば胸に穴が開いていただろう。

 だが結果は、モルタルの壁に埋まっていた。

 もう一発。

 結果は同じだった。

「何が起こった?」

「今、銃弾を拳ではじかなかったか?」

「化け物か……」

 男たちの困惑と驚愕の台詞が続く。

「なんなんだ……。

 か、金ならいくらでもだす。 女も好きなのを連れていけ」

 発砲を指示した五十代くらいの男は、タカヤの異常さに何かを察した様に提案する。

「お前たちには、生きる資格は無い」

 タカヤの表情はヘルメットで見えないがたんたんとした口調で告げた。

 その時、両手の甲から直径二三ミリの一本の針が突き出た。内部で巻かれているのか長さは十センチほどはある。

「なに因縁ふっかけてるんだよ」

「お前たちが私利私欲によって悪事を働く様に、俺も私利私欲によってお前たちを罰する」

 その言葉を言い終えると、銃声が響く中、男たちは次々と倒されていった。

 どうやらライダースーツは銃弾を通さないどころかダメージも無いようだ。 本来、はじく必要も無かったのだろう。

 倒れた者たちの胸には血の跡があり、どんどん大きくなっていった。 針で刺されたのだ。

 途中からは阿鼻叫喚となり逃げまどう者もいたが容赦なく刺されていった。

 全員の息の根を止めるとそのまま扉の外に出て止めてあったバイクを発進させた。



 ------------------------

 *****  当子side  ****/



 わたしは、彼の実家に来ています。

 ここには、これまでに何度も来たことがあります。

 ただ、それだけに想い出も多くて、途中の道々でもいろいろ思い出してしまった。

 つい、立ち止まってしまいそうになります、でも、今は感傷に浸ってるときじゃない。

 そう言い聞かせて、なんとかたどり着きました。

 そして一通りの説明をしました。

 相手は、ご両親とお姉さん。

 皆、泣いてしまうタイミングもあり、自分でも何を言ったかあまり覚えてないです。

「わかりました。

 当子さんにお任せします」

 お母さまが特に躊躇もなく答えてくれた。

 お父さんとお姉さんもうなづいてくれている。

「ありがとうございます。

 勝手に決めちゃって本当にすいませんでした」

「いえ、こちらこそ、

 それほどに思っていただいていたことに感謝します。

 確かに本人では無いかも知れないけれど、息子の意思を、愛を継ぐ者は他人よりも自分の分身であればどれほど安心でしょうか」

「そういっていただけると心強いです」

 あ、また涙が出て来ちゃった。

「わたくしたちにできることがあれば、遠慮なく言ってくださいね。

 そうね、この場合、結婚式には呼んでくださいねというのかもしれないけど、ぜひ家族として、わたしの子供として手伝わせてください。

 あと、もし確認できるのでしたら……ごめんなさいこれは止めておきましょう」

「本人の意思ですよね?

 確かに、復活した事を伝える以上、それを望まないかもしれません。

 その場合、見合った責任を取れるか分からないけど、わたしの生涯を使う覚悟です」

「あなたにお任せすると言ったのは責任を押し付けるとかでは無いの、だからどの様な結果になってもあなた一人に背負わせる気はありません。

 ただ、その覚悟を聞けて本当に嬉しい、そしてあなたが信じたあの子ならきっと大丈夫です」

「はい」

 涙はもう溢れていた。



 ------------------------



 ご家族に承諾いただいた勢いもあって、その足で契約に来ました。そう、復活コーポレーションの営業所にいます。本社ビルの一階です。

 ちなみに、すぐに早瀬に報告したら付いてきてくれるというので、それもお願いしました。

 そうです、正式に契約をしに来たのです。

 でも、せっかく付いてきてくれた友人は部屋の外で待ってもらってます。 一応機密保持契約みたいなのも結ぶそうなので、念のためとか言われました。

 ほんと、せっかくついてきてもらったのに申し訳無し。でも、なんか落ち着けたよありがとう。


「この度は、我が社のサービスをご利用いただきましてありがとうございます」

 これから、注意事項をご説明させていただきます」

「はい」

「まず、お気にされていると思いますので、彼の意思についてお話させていただきます」

「え?

 あ、はい、気になってました。

 でも……」

「そんなことできるのか?と思いますよね」

「はい」

「これは保険の様なものの一つです。

 人格データはございますので、それをシミュレータに掛けまして意思を確認します。

 事故死の情報も持っていますので、本心に近いはずです」

「なる……ほど……」

「今回、詳しくは伏せますが回答はイエスでした」

「そう……ですか」

 その後、法的な話などを説明された。

 気になったのは、依頼者本人がなんらかの理由で居なくなった場合だ。

 病気も怪我も欠損も虫歯さえ無く、遺伝性の病気さえも無い完全な健康体であること。

 つまり、長生きできるはずなのだ。

 本人も法的にはそれなりの社会的地位や立場を得ているかもしれないが、年金などには制限がかかるらしい。

 なので、依頼者とともにその命が終わらせられるかもしれないこと。まだ決まっていないらしいのですが、人数が増える前には決まるだろうとのこと。

 いろいろな事例をあげられましたが、わたしは若いのであまり気にしなくていいとも言われました。

 そして、確認された彼の意思にはそれを含むと言うことでした。

「さて、今回はモニターということで、特に追加のご説明と注意事項がございます」

 営業担当者山田さんは、ここまでとは違いとても嬉しそうにわたしに告げた。

「はい」

「まず、五人にお会いしていただきますが、基本的には同じ方です。

 その中から選ぶわけですから、順番で印象としての優劣が付いてしまうかもしれません。

 ですので、接触時間の長さを順番により変えさせていただきます」

「はい」

「一番目から順に、六時間、半日、一日、一日半、二日となります」

「はい」

「全て別の日に設定いたしますので、実質九日かかります。

 できれば、土日を二回含めて九日間連続の日程をお勧めいたします。

 都合が合わなければ、間を空けてもかまいませんが、その分、当然納期が先送りになります」

「はい」

 最初に説明されたやつだ、週休二日制に五日の休暇をもらうつもりで計算済みだ。

「一緒に過ごされる場所は特に指定いたしません。ご自由に行きたいところへお連れ下さい。話し合って決めてもよろしいかと思います。 費用は、お客様負担となりますのであしからず。

 所在位置は、恐縮ですがGPSで把握させていただきます。

 あと、宿泊が伴う日ですが、彼は弊社でお預かりさせていただいてもかまいません。 ただし、その間も時間は進行とさせていただきます、時間配分にはその辺りも考慮しておりますので」

「はい」

「それと、時間は決めさせていただきましたが、そんなにきっちりで無くても大丈夫です。 そこまで厳しくする必要もありませんので」

「はい」

「もし、出先からの帰りに困った場合、スタッフもしくはわたくしが車でお迎えに上がることも可能ですので、遠慮なくご連絡下さい」

「はい」

「ああ、記憶について重要な説明を忘れるところでした。申し訳ございません。

 彼には、死ぬ前日までの記憶しかありません。データには、死ぬ瞬間までの記憶が入っておりますので、念のためその日の分を丸々削除してあります。

 また、こちらで他に意図して削除した部分はございませんが、もし欠けている場合は、ほぼ一日分として抜けていると思ってください。

 お気づきの点があれば、後日ご指摘いただければ、最終的に選択された方については可能な限り復元いたします。

 事故時の記憶は、これは、リリース後の本人の意思次第で復元も可能です」

「は……い」

「記憶は、とても大事だと思います。 いろいろ試されて、多く欠けている方は選択からはずす判断材料となるかと思います」

「なるほど」

「五人へは、外出可能時間について以外は同じ説明しかいたしません。

 原因不明で突然倒れ病院に運ばれましたが、一向に目覚められ無かったため最新設備を持つ弊社で検査を受けていた。そして、今日突然目覚めた。 ご家族は、都合により後日の面会になるため、いつもお見舞いに来ていたあなたに連絡したところすぐに会いに来ていただけると。 その際に、様子を見るために外出してよろしいですが、経過観察と再検査のために決められた時間内に戻って欲しいと」

 虫歯や欠損等ありますと、ほぼ真実を伝えることになりますが、今回はとても健常でいらしたので、このようにさせていただきました」

「なるほど。 あ、いつもお見舞いに来ていた事になるんですね」

 確かにそうしてると思う。

「その方がよろしいですよね?

 特に変更希望な部分があれば、おっしゃっていただければ対応させていただきますよ」

「はい。 あ、大丈夫です」

「では、契約書にいくつか印鑑をお願いします」

 そのあとも、書類の内容を説明されてハンコを押すをくり返し、なんとか契約が終わった。

 あと、ご家族に彼のものであると証明されている皮膚の一部をいただいてきたので、それを渡した。

 なお、帰ってから上司に連絡し長期休暇をいただきました。 理由については、今は仕方なく適当にごまかしました。

 そして、一人目との面会日が十二月十日の土曜日に決まったのです。



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 復活コーポレーション社総合研究所兼製造工場、会議室。

 営業の山田と、社名の入った白衣を着た四十代くらいの男性が会話をしている。

 特に会議ということでは無く、紙カップに入ったコーヒーを片手に雑談中といった雰囲気だ。

「モニターの件、お客が付いたよ」

 山田は嬉しそうでもなく報告する。

「そうですか。 では計画を進めてよろしいですね?」

 白衣の男性が質問で返した。

「もちろん。 わたくしがお願いしたことです。

 ですが、巻き込んでしまい本当にすみません」

「わたしも賛同した者の一人ですから、思いは同じですよ」

「ようやく来たチャンス。

 記憶操作室への入出許可を得る手段としては、何かしら説得力が必要だった……」

「モニターされる方も、損することは無いはずですしね」

「そこは、金銭面でごまかしてるのが申し訳無いと思っている」

「あなたは優しいから」

「命をもてあそぶ我々には優しさとかいう表現はあたら無いさ」

「苦しいですね」




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