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第一話:復活サービス

 


 とあるオフィス。

 フロアの隅に設置してあるテレビで、復活コーポレーションという会社のCMが流れています。

「人類の夢、それは死なない事では無いでしょうか?

 しかし、人はどうしても死んでしまう。病気、事故、災害、他にも死因は様々です。

 でも、ご安心、復活すればいいのです。ゾンビじゃ無いですよ、生き返るのです。だから、ゾンビとか言っちゃだめですよ~。

 ちなみに、ボケ、いや、痴呆対策として、記憶の復活サービスも開始いたしました。

 どっちも詳細は復活で検索です」

 画面としてはオリジナルの男性3DCGキャラが偉そうにしゃべり、そのバックでいろいろな世界情勢に関する画像が次々表示され、記憶復活のコメント部分では老人の介護っぽい動画が流れます。

 画面下には、小さく「注:復活は御本人が生き返るわけではありません。」との免責表示がちらっと出ます。


 続けて宝くじのCMが流れ出したところでテレビのスイッチが切られました。

 この場所は復活コーポレーションの営業部の一画です。

 普通の会社の事務所という感じです。復活サービスのポスターとかはもちろん貼ってあります。


 さて、復活サービスとは、人間のクローン製作技術と記憶の電子化を組み合わせたサービスです。

 人間のクローンは培養液による年齢成長速度加速とそれに合わせた外部からの電気信号による脳神経系コントロールによって運動能力の調整をすることで最終形態に近いものが製造可能となります。

 そして、死亡時に脳から抽出していた記憶データを造ったクローン脳に書き込むことで死亡前の状態の人間ができあがります。

 もっとも、現在許可されている対象者は死亡者に限られ、成人で在る事や国外へは出られない事、などの幾つかの制約も法律として儲けられている。

 法律は、倫理的な面から造られたものだが、これまでは生者の脳からの記憶データ抽出がほぼ不可能な為、さほど意味を持っていなかった。

 さらに、これらの技術は世界的に研究されているが、日本が国家プロジェクトとして進めた事もあり、復活コーポレーションのみが先んじて実現していた。

 何より、復活コーポレーションには、脳科学の世界的権威黒木博士が協力した事が大きかったと言われている。

 ……ということです。



 ------------------------



 営業部での会話、

「うちのあの新CM、めっちゃ評判悪いですね」

 若手の社員がぼやく。

「今回のやつも、人をおちょくった様なふざけたCMだからな。

 予算もケチりまくったんだろうね」

 年配の男が言葉とは裏腹に少しだけ嬉しそうに言う。 名前は山田だ。

「あれ、狙い通りなんですか?」

 若手の社員が聞く。

「そうだろうな。

 いいか、他国も同様の技術を持っていると主張している。

 しかし、復活サービスだけじゃなく、記憶の補完まで始めたのは日本だけだ。

 実は、後者の方が難しいんだよ、CMだとおまけみたいな扱いだけどな」

「その辺はCMの概要から伺えませんよね。

 そもそも、CMをそんな意味で流すんですか?」

「ああ、うちには出来ると自慢している。 解るやつらにな。 つまり我々の知らない政治的意図を持ってるらしい。

 なぜなら、他国は本当は完成して無いのさ、生体脳からの抽出も書き込みも。 強引にできても穴だらけ」

「ああ、主張だけしてるんですね」

「ちなみに、我が社は、生体脳への書き込み技術はとっくに完成できていたが、そのためのデータを造るのが苦手だった。

 抽出したまんま書き込むならできるが、それじゃいろいろ問題が出てくるんだ。

 ところが、ここ数年、我が社の持っていなかったAI技術があっさり出て来た。

 おかげさまで、記憶の生成技術がいっきに進んだんだよ。

 実際、生成AIが逸り始めた頃、反AIを叫ぶ者がどれほど居ようと日本はウェルカムだったろ?」

「ああ、あの時、慌ててGPUの提供を押さえだしたみたいでしたけど、もしかして」

「さぁな、しかし、時すでに遅し、データ造るだけなら以降は過去の遺産で十分なのさ。

 暗号資産、デジタル通貨ってやつ、我が国も独自に研究を進めているが、そっちを放置して回すらしいからな」

「技術をよこせって言われないんですか?」

「圧はすごいだろうな、そして技術はいずれ出すはず。 今は時間稼ぎ中といったところか。

 俺なら、核が抑止力とか言いながら脅しに使うやつらが居るうちは世間に広めたくない」

「そうなんですか?」

「そこは、少し考えてみれば解るよ」

「それにしても、山田さんは詳しいですね。

 その辺の事情は、俺達にはあんまし関係無い気がしますけど」

「博士に聞いたのさ。

 なんてな、ある意味都市伝説だよ。

 だから確かに俺達には関係無い……あんなCM充てにならんから、お前は営業をてきとうに頑張れ」

「都市伝説かぁ、核なんて比較に出して言われたから、ちょっと心配になってましたよ」

「お前、いがいと素直だな」

「山田さんは、ひねくれてそうですね」

「こいつめ」



 ------------------------



 A国、大統領執務室、

「くそっ」

 大統領は電話を切ってから怒りの表情で口走る。

「どうされました?」

 すぐに補佐官が心配そうに聞く。

「そのうち優先して回してやるから、他の国から守ってくれだと」

「強気ですねぇ」

 補佐官は内容を把握しているような口ぶりで聞く。

「まぁいい。 確かに他国には絶対渡せん。 同盟国にもな。

 できるだけ有能なやつらを向かわせろ、想定敵国は全世界だ」

「はっ」

「だが、何故、証明した?

 世界が変わるんだぞ、いや、世界を変えるつもりか……。

 そして、なんのタイミングだ……もう、必要数居るのか……」

「”居る”ですか?」

「やはり対策会議をすぐに行う、今夜の予定は全てキャンセルしろ。

 ただし、出席者は一年以内に日本への渡航歴の無い者だけだ」

 この重要事項について調査報告が無かった以上、疑って当然なのだろう。

「はっ、どちらもすぐに手配いたします」

「先月日本に行ったわたしはいいのか?、という顔だな?」

「いえ……」

「その場合、あきらめるしかないな。

 今、わたしは、わたしがわたしか知る方法が知りたいよ。

 あっ、

 ……待て、有能なやつは行かせるな、そこそこのやつにしておけ。

 C国エージェント壊滅の噂があったな、まさかな……。

 おそらく、他国もうかつには動けんだろう……。

 では、先ほどの依頼は、ブラフか……。

 あの国の連中は誰も信用できんしな。

 まぁいい、手配を急げ」

「は……い……」

 補佐官は、この数分の会話で今回の件の恐ろしさが考えていた以上であることを察し実感した事だろう。


 ―他国の政権も同様だったが、結果的に動いたのは数国のみ

 ―代わりに、おおがかりな組織の改変があちこちの国で見られた

 ―既に世界は混乱に向かって居た



 ------------------------



 日本国、官邸、

 首相は、A国大統領へのホットラインをかけている。

「こっちの者では心もとなく……

 はい。 はい。 はい。 おお、ありがとうございます。

 さすが閣下でございます。

 それでは、よろしくお願いいたします。

 失礼させていただきます」

 首相は、頭を何度も下げながら最後は電話をゆっくりと丁寧に置く。

 すぐにデスクの前の部下に向き直る。

「例の件、進捗は?」

「はい、復活コーポレーション社の上場は阻止しました」

 答えた男は佐々木補佐官だ。

「社長の交代は?」

「不正案件の捏造に失敗しましたので、もう少し時間がかかりそうです」

「失敗した?……解った。 その件はわしの方で手を打つ。

 記憶の補完は認可もされていないはずだろう?」

「はい。

 ですが、まずは希望者の記憶抽出を始めないと意味が無いとのことで、サービス自体は将来の利用を見込んだものだそうです。

 認可されなければ、それこそ意味が無いのでしょうが」

「そうか。

 仕方が無い、お前は、技術漏洩対策の方に注力しろ。

 いろいろ攻めてくるぞ」

「承りました」

「あいつ、これから世界と戦う事になるというのに何を考えている。

 あれほどの男が……佐々木、もう一つ」

 首相は独り言の様につぶやいてから気付いたように補佐官に声をかける。

「どうぞ」

「復活コーポレーション社社長の身辺警護を手配、これが最優先だ」

「はっ」

 補佐官が返答をすると同時に電話が鳴る。ワンコールで補佐官が出る。

「どうした?

 なんだと?

 首相!」

 補佐官は、すぐに首相に向く。

「何があった?」

「復活コーポレーションの社長が殺害されました」



 ------------------------

 *****  当子side  ****/



 一月ほど前


 復活コーポレーション社総合研究所兼製造工場、

 東京ドーム二つ分くらいの広さの敷地に東京ドーム一つ分くらいの三階建てのビルが立っている。入り口には車止めもあってホテルを思わせるが、外壁に窓らしきものがほとんど無いことから普通の建物でないことが想像できる。 敷地内には、他に倉庫や駐車場、設備棟の様な建物もある。

 三階建ての建物の地下一階が製造プラントとなっており、そこには人が入れるほどの透明なシリンダーがたくさん並んでいる。数百はあるだろう。

 そのシリンダーの中には人間、おそらく人間が一人ずつ入っている、入っていないと思われるものには小さい人間形状未満のものや底に何かが沈殿している。

 さらに中の人間には同じように複数のコード類か繋がっている。

 それらの人間をよく見てみると、皆同じ顔同じ体形だ、数体は微妙に残念な崩れ方をしているものもある。

 その通路をシリンダーの中を眺めながらゆっくりと歩く人物が居た。営業部の山田だ。

 作業をしている白衣の人物に近づいたところで話しかける。

「主任は居ないのか?」

「ここのは、あと三日ほどです。 ちなみに今回の歩留まりは七十九パーセントです」

 研究者の一人が応じる。

 主任どころか他に人が居ないのは見れば解るので、山田の目的を先読みして答えたのだ。

「低いな、それでもぎりぎり黒字ラインではあるのか」

 山田もすぐに理解した様で、よくある数字なのだろう。

「そうですね、百体では素材パラメータの振りが大きくなりますのでどうしても偏差値も下がってしまいます。

 まぁ、五百体くらいあれば九十七パーセントは保証できるんですけどね」

「それは上に一度却下されたらしいしのぉ」

「百体だと原体固有の特殊要因によっては七十パーセントを切る場合も出てきます。

 実際、良品ができなくてクレーム案件にもなった事あるでしょ?」

「あった。 年齢がそこそこ行ってる個体だったから、値引きでなんとか納得してもらったよ」

「実際、年齢が高いほどそこまでの成長プロセスが長い分誤差が蓄積しますからね」

「百体で行けるってのは、検証されてたんだろ?」

「そうですよ。 失敗の際の損失も考慮してです。 ただ、机上の空論とまでは言いませんが、サンプルをそんなに多く造れるわけないでしょ?

 ですが、これまで数十の案件をこなして、実データが充実してきた今なら……」

「それが五百体か……」

「僕にプレゼンさせていただけないですかね?」

「営業の俺に言われてもなぁ。

 特殊な市場だから価格交渉もほとんど無いの知ってるだろ?」

「やっぱり、なんで営業が~ってなるんですかね。

 まぁ、とりあえず主任に粘り強く相談してみますけど、山田さんからも主任に言ってみてくださいね」

「俺は、あんまし利益は出さない方がいいと思うぞ」

「主任もそう言うんですよね~。

 なんかやる気無いって言うか、考案者の一人だからって胡坐かいてるみたいに言う研究員も居るくらいですよ。

 でも、僕は、研究費を増やして欲しいんです」

「お前が真面目というのはよくわかったよ」

「あ、原体に最も近いものは昨日ライティングに回してありますので納期は問題無いと思いますよ。

 愚痴に付き合ってくれてありがとうございました。

 山田さんは、それを確認したかっただけなんですよね?」

 さっきのあと三日とは予備の個体の保管期限だったのだ。そして、ライティングとは記憶の書き込みだ。

「まぁな、ここに来る営業の仕事はそのくらいだ。 来なくてもわかるけどな」

「他にもあるじゃないですか。

 この前来た若い営業さん、勉強になるってがん見しまくってましたから」

「お前なぁ、そういうの思ってても言っちゃいかんだろ。

 それに俺は、この中のものは、たぶん人として見ていない」

「まぁ、僕はもっとそうですけどね」

「そういうの辛くないのか?」

「いろいろあきらめて、世の為人の為と思う様にしてますから」

「お前、適材適所だ」

「皮肉でもありがとうございます」

「じゃ、俺は帰るよ。

 主任が戻ったら、メッセージを確認するか連絡よこせと伝えてくれ」

「お任せを。 あ、お疲れ様でした」



 ------------------------



 現在、当子の部屋。

「ふわぁ~」

 目覚めたばかりのわたしは、まだ寝足りないのであくびをする。

 わたしの名前は当子、あたりこでは無くて”とうこ”と読みます。二十四歳のOLです。

 この名前のせいで、顔は当たりなのに、おつむは外れだとよく言われてました。顔が当たりとか言われて舞い上がった事はあります。

 いや、実際、顔もそこまで当たりでは無いと思いますけどね。

 今日は、わたしの人生にとって最も重要で大事な日、そして、わたしの子供の頃からの夢の叶う日……になるはずだった日。



 一月前、当子の会社。

「終わったよ~」

 当子に友人早瀬が声をかけてきた。

「わたしも、ちょうどキリが良いからここまでにしとく。 じゃ、行こっか」

 当子は、パソコンの電源を落としてからデスクの上を片付ける。

 席を立ち上がりながら、傍らにやってきた早瀬に答える。

「行きましょ行きましょ、初々しい愛の巣へ」

 早瀬はかなり嬉しそうに当子の腕を引っ張って行く。

「いや、そんな雰囲気全くないから」

「なんでやねん」

 当子と早瀬は会社を出て歩き始める。 外は当然夜だ。

「どの辺だっけ?」

「電車で二十分くらい、歩いて十分くらいだよ」

「微妙に近いか」

「いや、近いよぉ」

「徒歩十分が微妙でしょ?」

「歩くの好きだし、本当に好きだし」

 今夜、二人に当子の婚約者を加えて、当子の結婚式の話をするために彼の家に行くのだ。

 途中、コンビニに寄って買い出しをする。予定は徹夜らしい。

「はい、はい、好きだね~」

 早瀬が適当に聞き流しながらコンビニに入る。

 店内で既に買い物をしていた彼が手を上げて合図する。

 当子ではなく早瀬が先に見つけて手を上げて合図する。

 気付いて慌てて当子も手を上げて振る。

「早かったね。 で、今、こんな感じ。

 あ、ご飯は別に作るよ」

 近づいてきた彼は、これで十分だよね?って感じで買い物籠の中を二人に見せる。

「お菓子が足りない」

 当子が不満を言う。

「お酒が足りない、ぜんぜん」

 早瀬が不満を言う。

「マジか~。 オーケー、じゃ二人とも足りないと思うもの持ってきて入れてくれ」

 彼は、俺じゃもうわかんねぇって感じで買い物籠の中を指さしながら愚痴る。

 当然の様にいろいろ物色してきて入れる二人。

 これがメインの予定だったかもしれないくらい入れる。

 終わったところで会計する彼。 二人はそのまま先に店外へと出ていた。

 彼の並んだ順番は四番目くらいで、今一番目の人が終わって出て来た。

 当子と早瀬は、入口の左右に別れて立っていて、一番目の人が出て行くのをなんとなく見送った。

 しばらくして彼が店を出て来た。

 その時、駐車場で急発進する車の音が聞こえたかと思うと、音の方から車が当子に向かって来る。 一番目の人が運転する車だ。

 当子と早瀬が悲鳴を上げる。 だが、二人とも動かない。突然のことで体が動かないのだろう。

「あぶないっ」

 彼が咄嗟に当子を突き飛ばす。 同時に車のさらなるアクセル音と重なるように激しい破壊音。

 当子を庇った彼の体は、店舗の壁と車に挟まれていて、まったく動かない。血だまりが地面に広がり始めた。


 彼は救急車で運ばれ救急処置室に入っている。

 救急処置室前の廊下にある椅子に座って待つ二人と彼の家族達。

 医者が出てきて結果を告げる

 絶望にくず折れる当子と早瀬、駆け付けていた家族も絶望に涙する。

 頭はかすり傷程度だったのに、ほぼ即死だったそうだ。



 現在の当子の部屋

「ああ、会社行かないと……」

 当子はそう言ってベッドを降りると、洗面所で顔を洗いダイニングへ向かう。


 ダイニングにあるテレビでは復活コーポレーションのCMが流れ始めた。

「いただきま~す」

 当子は朝食を食べながら思う……

 わたしは、いつもの様に朝ご飯を食べる。

 うちは、朝食はご飯派だから、ごはん、お味噌汁、焼き魚、海苔など、普通の日本の食卓って感じです。

 でも、わたしは、朝食にはパンとコーヒーとサラダとか、そういうのにずっと憧れ続けています。

 でも、これはお母さんには言った事がありません。自分も忙しいのに、毎朝欠かさずに作ってくれる事に頭が上がらないから。それに、十分美味しい。

 でも、わたしが結婚したら、パンの朝食にするって心の中で決めています。

 でも、もうすぐそうなるはずだった、その小さな決心は、

 一カ月前に、期限のわからない先送りとなりました。

 一カ月前、結婚の約束をしていた彼が……事故で亡くなりました。

 一カ月後の今日が結婚式の日なのです。

 彼を見送ってから、性格なのか悲劇のヒロインにもなれない私は、日常を普通に過ごしています。

 今日も、これから会社へ行ってきます。 ずいぶん前に出した休暇届けは、全て取り下げにしました。


 今、通勤電車に揺られてます。

 そしてまた考える……

 ふと、朝ご飯を食べてるときにテレビで流れていたCMの事を思い出した。

 今、乗ってる電車の扉の上の方に貼ってある広告、それが目に入ったからなのだけど。

 技術の進歩はすごくて、死者を蘇らせる事ができるとか、最近よく見るCMです。

 実際は、死んだ人が生き返る訳じゃないんですけどね。

 記憶を電子化して保管できて、必要があれば脳に書き出せる。

 そして、人のクローンを作ることもできる。

 その二つを組み合わせて、できるのだそうです。

 この記憶の電子化というのは意外と安くて、病院ですぐに作ってくれたり、葬儀のオプションとかで選べたりもするらしいです。

 そして、高いのはクローンらしいです、よく知らないけど。

 だから、死んだ人を生き返らせるのは、あまりやってる人いないみたい。

 わたしだって、できれば彼を生き返らせたいですよ。そんな大金があれば。

 だから、こんな技術さえ無ければ、悔しい思いを追加されなくても良かったのにと思う。科学の馬鹿野郎~。というか普通にCMやってんじゃねぇ~。

 それでも、彼の記憶だけは電子化して大事に持ってるの。 わたしにどうこうできるわけでは無いけど…………。


 さて、会社にもうすぐ到着、お、友人ちゃんだ。

 わたしの働く会社が入ったビルの玄関口に、入ろうとしてる友人に走って追いつく、そのまま挨拶して一緒にビルに入る。


 その日の帰り道、

 駅の改札を出た時に宝くじの売り場が目に入った。

 その時、なんとなく思い出した。

 彼に言われて初めて買った宝くじ……ありゃ、どうしたっけ。

 お前の名前で買わないのは、持ち腐れとか言われた気もする。

 でも、買った価値はあった。新婚後の夢、マイホームとか車とか旅行とかいろいろ皮算用して二人で喜んでたっけ。 楽しかったな~。

 あ、思い出した。 思い出箱の中だ……。

 帰ったら、確認して見ようかな。 でも、あの箱開けれるかな……わたし。

 そんなことを考えていたのは全く無意味で、お風呂に入って出たら、すぐに寝むくなってしまった。

 今日は、周りの人達があまりにも気を使ってくれるので、逆にものすごく気を使ったからか疲れてたみたい。

 明日やろう……。



 翌日、今日は金曜日。

 金曜日の朝ご飯の焼き魚は鮭だ。

 お母さんの趣味か、普段はアジが多いのだけど、金曜日は鮭固定だ、海軍カレーみたいなものかと勝手に思っている。

 いつもの様に会社へ行き、昨日に近いくらい気を使われ、それにも少し慣れたのか昨日ほど疲れずに帰って来た。


 寝る前に目覚ましをセットしていて、なんか思い出した。そうだ、宝くじ。

 見てみようかな……スマホですぐに結果わかるし。

 ベッドに入ろうとしていた体を翻し、クローゼットを開け、上の方の棚に乗せてある箱を取り出す。

 思い出箱、どこかにそう書いてある訳じゃないけど、そう呼んで普段は見えない場所に置いていた。

 彼からのプレゼント、一緒に行った場所のチケットの半券、印刷した写真、なんとなく拾った貝殻、彼の記憶の電子データの入ったメモリカード……そういうものにはあまり焦点を結ばない様にしながら、けっこう下にあった宝くじを引っ張り出した。

 あの時は、抽選とか考えもせずにこの箱に入れたけど、五十枚もあると、そのまま引き換え期間を過ぎたら少なくとも五枚の当たりが無駄に……。

 ああ、感傷的な心境のつもりだったけど、無駄とかいう単語が出て来たのは、良い傾向なのかもしれないなぁ。涙も心配したほど出ないし。

 前を向くきっかけが無駄という単語なのは、なんかかっこ悪いけど。


 まぁ、いいや、結果を見よう。

 さっそくスマホで、結果を検索して見た。

 一枚づつコードを読み込む方法もあるけど、せっかくだから番号を一枚づつ見比べて見る。

 五十枚連番だから、大きいのはすぐにわかってしまうから、小さいのから見た。

 二等までに当たったのは五枚、そうですもちろん全部末等です。

 そして、最後のお楽しみ、確実に無いと分かってても夢だけは見てしまいます。

 あれ、やっぱり涙出てるかな、番号を見間違ってるかな、目をこすってから見直す。……当たってるんじゃ。

 組も……あってる。 当たってる? なんで? かね曜日だしねって、関係ないし、うう、混乱する。

 ああ、そうだ、夢ってやつね、さっき、あのまま寝たのか……いやいや、起きてるし。

 当選金額って、連番だし、前後もあるよね、怖いなぁ、あ……に、に、二十憶…………知ってたけど……ね……

 起きてるつもりのわたしは、そのまま気を失ったらしい。


 ジリリリリ……目覚まし時計の音が聞こえる。

 朝だ。 あ、しまった、こんなとこで寝てたのか。今の季節、風邪を引いててもおかしくないぞ~。

 お? なんか手に握ってあるものに気付いた。

 あ、そっか、昨日……って、そんな悠長な場合じゃ無い。 もっかい確認しよう。 今度は、コード読み取りでやってやる。

 あ、あ、あ、あ、あぁ、あた、あたぁ、当たって……る。

 ……、あ、危ない危ない、意識を持っていかれるとこだった。

 でも、次の瞬間、「よっしゃー」とガッツポーズをしていた。

 あ、お金って本当に怖い、一瞬、それしか見えなくなった。意識を完全に支配されてた。


 これは、彼との未来のための一等なのに……。


 ……よし、決めた。



 /****  当子side  *****

 ------------------------



 復活コーポレーション社長暗殺現場。

 警視庁の警官達が現場検証を始めていた。

 パトカーなどの車両が十台ほど到着している。

 そこに一台の覆面パトカーが到着した。

 二人の男が降りて現場に駆け寄る。五十代の大場と三十代の立花、二人とも男性だ。

「復活コーポレーションの社長だって?」

 大場が作業中の鑑識員に聞く。

「はい、腹部を刺された様です。

 持っていたかは不明ですが財布が見当たりませんので物取りの可能性はありますが……」

「こんな人気のないところに一人で居たのか」

 辺りを見回しながら呟く。

「近くの防犯カメラに怪しいバイクが映っていたそうですので、解析して先ほど東北方面に向かったとの連絡は来ています。

 バイクはこれです」

 見せられたバイクの写真は大き目のオフロードバイクであった。もちろん、犯人のものでは無くカタログ写真だ。

「追跡もできなかったと……山に入ったか……。

 ふむ、有名会社の社長を人気のない場所でバイクの男が刺すなんて、単純な事件であるわけ無いな」

 立花の方に振る。

「参りましたね。

 よりによって復活コーポレーションの社長とは」

「害者はオリジナルか?」

 大場は、今度は鑑識員に聞く。

「いちおう、復活者の印はありませんでした」

「ふむ、いちおうな……。

 世界中の暗殺対象でもおかしくない人間だしな。

 そして、本物だろうが偽物だろうが殺す意味が無いと来た。代わりがすぐに作れるだろうし、常に待機してるかもしれん」

 大場は立花に手で合図するとその場を離れながら妙な言い回しをした。

「そうですが、言い方は気を付けましょう」

 立花は付き従いながら注意した。

「だが、殺された」

「考察は、もう少し情報がそろってからにしましょう」

「そうだな。

 そして、困ったな……」

 そう呟きながらパトカーに戻った。



 その状況を、遠くのビルの影から見つめる黒いバイクにまたがった男が居た。 バイクは、特殊なデザインで市販モデルでは無いのがわかる。単純に改造なのかもしれない。

 男の恰好は、黒いツナギに黒いヘルメット、それぞれにコスプレを思わせる様な妙なメカニック的な部分が付いている。

 その男は、バイクのタンク部分(電動バイクなのでタンクでは無い)に拳を振り降ろしてから、あきらめた様にスマホを取り出して操作する。

 すぐにスマホを戻しバイクを発進させた。



 同時刻。

 とある場所。 パソコンなどが複数並んだ狭い部屋だ。明かりはパソコンのディスプレイの光のみだろうか、薄暗い。

 三十代くらいの男がそれらパソコンのディスプレイに向かっている。椅子に深く腰かけ、手はマウスにあるが、特に作業をしている訳ではない、

 おもむろにスマホが鳴った。 手に取って、相手先を確認してから出る。 相手は鈴木三郎となっていた。

「そうか、残念だ。

 では、すぐにそこを離れなさい。

 確かに時間は不確定ではあったが、お前が最速で向かって間に合わなかったんだ。

 どちらかと言うと、罠かもしれんぞ。急げよ」

 通話を切ってからテレビのスイッチを入れる。 42インチのテレビだが、また少しだけ部屋が明るくなる。

 テレビではワイドショーが放送されていて、ちょうど復活コーポレーション社社長の殺害されたニュースが流れている。

 男は、視線をテレビからパソコンの画面に切り替えた。

 パソコンには、殺人事件のあったあたりを中心にした広域の地図が表示されており、GPSのマークが二つ点滅している。 一つは、殺人事件のあった位置から移動を開始した。もう一つは、上野のあたりを北上している。

「案外余裕だな、そっちの役でもよかったか」

 男は、GPSの表示位置を見てつぶやいた。



 ------------------------



 その日の夜。

 ある山の中、すたれた別荘。

 庭横にある駐車場の端に、中型のバイクが二台止まっている。オフロードとオンロードだ。

 そのうちの一台は防犯カメラに映っていたオンロードバイクに似ている。

 建物から一人の男が出てきた。 ヘルメットをかぶっていて顔はわからない。

 殺人犯とは服が違うが、ここで着替えたのかもしれない。ラフな服装で、バイクでの走りに重きをおいた服装ではない。

「さて、行くか、まぁわしの役目はもう終わった。 後は好きなように追ってこい、大外れだがな」

 そう呟くとオンロードバイクの方に乗り、ゆっくりと走り出す。 建物は少し一般道路から離れており未舗装の砂利道をジャリジャリと音を立ててゆっくりと進んだ。

 舗装道路の手前で一旦とまる。 一台の車が通り過ぎたのを見送って、十秒ほど待ってからゆっくりと走り出す。 あまり車の通りは無いのか次の車は対向車含めて来ていない。

 バイクは、山を上る方に進み、そのままふもとまで下り高速に乗った。 高速の案内標識の看板には、東北方面の地名が並んでいる。



 ------------------------



 同日未明。

 復活コーポレーションの総合研究所に似た施設、規模はこちらの方が圧倒的に巨大だ。

 その広い建屋の中にロフトの様に一段高くなっている場所がある。そこは、ガラス張りの部屋になっており、中に立つ白衣の人物が居た。研究員だろう。

「計画は、思いもよらずに早められた。

 フェイズ2の実行には間に合わなくなってしまったが、理論だけでも間に合わせる。

 さぁ、夢の製作を進めよう」

 その白衣の者が、眼下に向けて大声で発した。

「「「お~」」」

 施設内には大勢の者がおり、その全員が嬉しそうな表情で応じる声をあげたのだ。

 ただ、それら全員は、ほぼ全員同じ容姿であり、その他の違う数名は、なんと掛け声の主と同じ容姿であった。




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