ショートショート 夢で泳ぐ〜覇権の夢〜
俺の朝は5時から始まる。
さっと準備してジムに行って、1時間の筋トレとランニング。
一旦また家に帰ってプロテイン飲んで、その後は、出勤前まで英語のニュースを聞いたり、ネットで気になるニュースをチェック。
で、朝は早めに出勤、ラッシュは勘弁だね。
人のいないオフィスは俺だけの城!
就業時間前にメールをチェックして、1日の予定を把握して、コーヒー飲んでさ。
仕事終わって家に帰ったら、ご飯食べてIELTSの勉強して……
あ、ちょっと待って。
俺しゃべりすぎ、ごめん、ごめん。
ちょっとだけ俺の話聞いてよ。
すぐ終わるからさ。
俺ね、山ちゃん。
えっ、ちゃんと名乗れって?
はは……、まぁいいじゃん。
みんなそう呼んでるから、そう呼んでよ。
あ、一つ言っとくね。
これから自己紹介がてら、しゃべるんだけど。
俺、話し下手でさ。
あっちこっち話がいっちゃう時あるんだけど、まぁ許してよ。
一時のお付き合いということで!
で、なんだっけ?
ま、いいや。
思いついたまま言おう。
そう、みんな山ちゃんて呼んでくれてる。
そんでもって、よく爽やか好青年なんてのも言われる。
自分じゃどうだか知らないけど。
でも嬉しいよね。
イケメンって言われるより嬉しいかも。
それって誰からも好感をもたれるってことでしょ。
イケメンって好みが出ちゃうけど、好青年って、誰が見ても好青年以外ないじゃん。
だから、ここだけの話すごく嬉しい。
どうやったらそう言われるかって?
そうだなぁ。
まぁ当たり前だけど、身だしなみは気をつけるよね。
やっぱりそういうとこの印象って大事だからね。
清潔感、これ大事ね。
あ、話変わるけど、俺、最近転職したんだ。
AI関連企業に。
スカウトされて転職したってやつ。
ほら、あるでしょ、ハイクラス転職?
あれね!
働き始めて言うのもなんだけど、数年働いたら起業して、いつかはこの業界で覇権とりたいんだよね。
俺はAI王になる‼︎
あぁ、ねぇねぇ、だからちょっといかないでって。
ごめん、ごめん。
悪ふざけが過ぎたよ。
言った俺が恥ずかしかったよ。
だけど、お願いだからもうちょっと付き合ってよ。
嫌味っぽく聞こえるかもしれないけど、そういうんじゃないから。
俺、いたってフツーだからさ。
ホント、嘘じゃない。
みわなとおんなじ、しがないサラリーマンだからさ!
ただね、一言付け加えるなら、俺は今最高に充実してるんだよね。
夢に向かってまっしぐらって感じ‼︎
毎日が楽しくでしょうがない。
なんでそう思うかって言うと、周りの連中見てるとさぁ、結構くたびれてる奴いるんだよね。
目の下くまなんか作っちゃって、疲れてんなぁって顔してんだよね。
気の毒だなって。
俺はラッキーだなって。
でも、こうも思うわけ。
もっとうまくやれよって、うまく立ち回れよ!って。
もっといい仕事あんだろ!って。
自分の人生なんだから、自分でちゃんと選べよ‼︎って。
ほら、なんて言うの?
人生の設計図、みたいなの。
そういうのあったほうがいいと思うんだよね、あくまで俺個人の意見だけどさ。
でも、どうやら現実はそうでもないらしい。
一度落ちるとなかなか這い上がるの難しいんだって。
そうなんだぁって……
大変なんだなぁって……
ま、正直知ったこっちゃないけど。
他人の人生だし。
そいつ次第だよね。
時代のせいにしちゃいけない。
あくまで、人生は自分でなんとかするもんさ!
あ、仕事の話はもうこれくらいにしようかな。
えっ⁈
なんか、もう聞きたくないって顔してるよ。
わかる、わかる。
話聞くだけって、拷問だよね。
でもホント、あと少しだから。
俺ね、最近彼女できたんだ。
あっ、ねぇ、いい加減にしろってなってる、もう帰るわってなってる!
でも自慢させてよ。
忙しくて彼女つくる暇なかったんだよ。
わびしい生活してたんだよ、俺。
そんな俺にね、彼女できたわけよ。
だからノロケ話聞いて。
でね、かわいい彼女でさ。
でもかわいいだけじゃないんだよ。
バリバリ仕事してて、でもそんな感じ微塵も見せなくて、マジ尊敬できるんだ。
なんだろうね、そういうの。
嫌味がないっていうのかな。
すごくない⁈
だから俺も頑張ろうって思うわけ。
彼女に出会ってからの俺の人生、すごくいい!
そんな彼女とはいつかは結婚もしたいなって思ってるんだよね。
彼女はどう思ってんのか、わかんないけど。
俺は、結婚したい。
結婚したらうまくいくと思うよ、うん、自信ある。
相性もいいし。
あ、俺はね、女性にばかり家事をやらせるなんてこと、これっぽっちも思ってないから。
ご飯作ったりするし、掃除したりするし、今だってよっぽど俺の方がやってんじゃね⁈
それぐらいにはやってるから。
結婚してもそこは変わんないな。
全然嫌いじゃないよ。
むしろ好きでやってんだから。
ということで、俺のプライベートも順調、順調。
はぁーー、すごいしゃべった。
ちょっと喋り過ぎて喉乾いたよ。
コーヒー飲んでいい?
コーヒー落ちつくわ……
って、痛ってぇなぁ……
誰⁈
俺の肩思いっきり叩くの⁈
ちょっ、そんなに強くやんないでよ!
てか、ちょっとマジで痛いんだけど‼︎
「おい、山田!おまえ何やってんだ、ぼーっとしてんじゃねーよ!手が止まってんだろうが!おまえ、派遣の分際でなに仕事サボってんだよ。使えない奴なんていらねえんだよ。そんなんやってたら、次の契約わかんねーからな‼︎なんだよ、その目は。言っとくけどな、俺の言ったこと、ハラスメントとか関係ねぇから。気にしねぇから!おまえは何言われても仕方ねぇ身分なんだよ!ほら、さっさと働けよ‼︎」
あはは……。
ごめん、ごめん。
ちゃんと自己紹介してなかったね。
俺の名前は山田有二、。45才、独身。
彼女はいない。
趣味は妄想。
食品製造メーカーで派遣社員として、お弁当やサンドイッチを作る製造業務に従事している。
俺、思うんだよね……。
こんな俺でも、いつかはなんとかなるんじゃねって……。
いつかは報われるんじゃねって……。
俺、思うんだよね……。
夢の中で泳ぐ時
俺はサイコーに自由で幸せだって……。