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「執着?ちがうよ、これは愛だよ」
純粋そのものというような瞳で真っすぐにリリィを見つめるレイン。そのあまりにもきらきらとした眼差しにむしろ恐ろしさすら感じてしまう。
「愛……?愛だなんて、そんな……」
絶句するリリィをレインは不思議そうな顔で眺める。
「どうしてリリィちゃんには伝わらないのかな?こんなにも君のこと愛しているのに。出会って一緒に過ごしたあのころから、僕の気持ちはひとつも変わっていないんだよ」
◇◆◇
レインがリリィのいる施設にやってきたのはレインが十二歳のころだ。幼いころからレインの顔立ちは美しく、まるで女の子のように可憐だった。
「なんだよお前、女みたいな顔して!」
「身ぎれいな恰好しやがって、いけすかない奴だな!」
「さてはお前、男のふりした女だな?おい、脱げよ!ちゃんと男かどうか確認してやる!」
「やだよ!やめてよ!」
その可憐な見た目のせいで施設の悪ガキたちから執拗な嫌がらせを受けていた、その時。
「あんたたち!何してるのよ!」
レインの前に悠然と立ちはだかるリリィ。
「げっ、リリィ姉ちゃんだ」
「あんたたち、来たばかりの子をいじめるなんて最低!もしこれからもこの子のこといじめるようなら私が許さないんだから!」
ふんす、と鼻息を荒くしてリリィが仁王立ちすると、レインをいじめていた悪ガキたちは一斉に散り散りになっていった。
「大丈夫?ごめんね、怖かったでしょ?」
少ししゃがみながらリリィは手を差し出して微笑む。その笑顔に、レインの胸は高鳴った。目の前の女の子はさっきまであんなに勇ましかったのに、今はこんなにも優しくて暖かい。
その後もレインはことあるごとにリリィに助けられ、すっかりリリィに懐いたレインはいつもリリィの後をくっついて回っていた。
「リリィちゃんは施設の中でも年上だからみんなのお姉さんみたいなものだけど、レイン君とは本当に仲がいいのねぇ」
施設にいる大人たちはリリィとレインを見かけるといつもそう言って朗らかに笑う。その言葉と笑顔が大好きで嬉しくて、レインはリリィさえいれば世界は美しくどんな時でも輝いているのだと思った。
◇◆◇
「リリィちゃんが施設を出ていったとき、僕は本当に悲しかった。どうして僕だけ残らなければいけないんだろう、どうしてリリィちゃんは僕を置いていってしまうんだろうって」
「それは、私があなたより年上で先に施設を出る年齢になったから……」
「そんなのはわかってるよ。わかってるけど納得はできなかった。だって僕はリリィちゃんといつも一緒にいるべき人間なんだから。僕たちは離れ離れになるべきじゃなかったんだよ。だって、そのせいでこの町は魔物に襲われて施設は無くなったし、僕はずっと悲しくて寂しくてしかたなかったんだから」
そう言ってレインは少しずつ少しずつリリィに近寄ってくる。リリィは思わず後ずさりするが、結局は背中が壁にぶつかってしまう。そんなリリィをレインは物悲しい瞳で見つめ、そっとリリィの頬に手を添えようとする。だが、恐ろしさのあまりリリィは顔を背け、レインはさらに傷ついた顔でリリィを見た。
「離れ離れになっていた間に、リリィちゃんは変わってしまったんだね?あんなに僕のことを守って大切に思ってくれていたのに、今はまるで僕のこと嫌いみたいだ」
目を伏せて悲しげな声で静かにそういうレインを見て、リリィは思わず違う、と言いそうになる。だが、言えなかった。違う、とは言い切れないのだ。
「嫌い、なわけではないのよ。ただ、怖いの。突然現れて私のことをさらったり、大切な人のことを傷つけようとしたり、今のあなたは私の知っているレイン君じゃない。変わったのは私だけじゃないわ、レイン君だってそうよ」
リリィがそう言うと、レインは目を見開いてから心底悲しそうな表情になった。
「……僕は何も変わってない。ずっとずっとリリィちゃんがいなくなってから僕の時は止まったままだ。君のことが大好きで大切で、どんな時でも一緒にいたい。片時も離れたくない。僕はもう、リリィちゃんを失いたくないんだ」




