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 翌朝、ユリスとリリィは魔法騎士団本部から東の森林へ出発した。東の森林には魔法騎士団の第一部隊と第二部隊がすでに魔物討伐へ向かっているが、苦戦しているためリリィたちの所属する研究課にも応援要請が来たのだった。


 リリィたちと共に現地へ向かうのは騎士団長と第三・第四部隊だ。リゲルは第三部隊に属しているためリリィたちと同じように現地へ向かうことになる。


 リリィは研究課から持ってきた大量の魔法薬を準備し、団員たちと共にユリスの発動した転移魔法で移動した。


 転移魔法で移動した先は魔物がいる場所より少し離れた所に設けられた騎士団のテントの前だった。

 そこは救護所も兼ねており、回復のための魔法薬が無くなりそうだと言われていた場所だ。リリィはすぐさま持参した魔法薬を救護班へ手渡した。


「助かります!本当にありがとうございました」

「状況はあまりよくないのですか?」


 テントの中も外も怪我人で溢れている。討伐へ向かったニ隊ともほとんどの騎士が怪我を負い、ここまで避難してきたらしい。


「いつもなら難なく対応できるはずなのですが、今回の魔物はおかしいくらいに強いそうで……今は隊長二名と腕の立つ騎士が数名残ってなんとか食い止めている状態です」


 魔物がこの場所まで来てしまえば惨劇になるのは目に見えている。なんとか隊長たちが阻止しているようだが一刻を争う。


「我々も向かおう。現地にいる団員たちが心配だ」

「はっ!」


 騎士団長が言うと、第三・第四部隊の団員たちは威勢よく返事をする。

 リリィとユリスは視線を合わせて頷き、団員たちの後へ続いた。



 避難所を兼ねたテントからしばらく歩いていると、魔物の慟哭や団員の剣の音が響いてくる。その音のする方へ足早に向かうと、大きな大きな狼型の魔物と騎士団員が戦っていた。


 団員から攻撃魔法が繰り広げられるが魔物は傷ひとつついていない。

 炎を纏った剣で切りつけられてもすぐに回復してしまう。


「これは一体どういうことだ……」


 騎士団長が目の前の光景にあ然とする。


「リリィ」

「ユリスさん、やっぱりあの魔力、そうですよね」


 ユリスが言わんとしていることがリリィにはわかった。二人とも魔物から漏れ出る魔力に覚えがある。

 リリィが両親から託された赤い雫と呼ばれた魔石を狙っていたハイルから感じた魔力と同じなのだ。


「まさか、紅い雫と同じ魔石をあの魔物が取り込んでいる……?」

「だとしたらやっかいだな。魔法騎士団で太刀打ちできないわけだ」


 どういう過程で魔物が魔石を取り込んでしまったのかはわからない。ただ、世界中のどこかに魔石はまだ散らばっているとハイルは言っていた。だとしたら魔物が魔石を取り込んでいる可能性は高い。


「騎士団長!あの魔物から通常とは違う魔力を感じます。現在、我々研究課が研究している魔力と同じものです。ここは我々に任せてもらえますか」


 ユリスが騎士団長だけでなくその場にいる団員全員に聞こえるほどの大声で言う。魔石について詳しく言うことはできないが嘘はついていない。


「わかった!全団員に告ぐ!魔法騎士団はこの場からすこし離れた場所で待機!」


 騎士団長の声に団員たちは返事をして次々にリリィたちの後方へ走っていく。リゲルもリリィたちを一瞥して走り去って行く。一瞬、ユリスと目が合うがユリスの瞳は氷のように冷たく、リゲルは思わず心臓が止まるような気がした。



「リリィ、俺の後ろにいて」


 ユリスはそう言ってリリィに防御魔法をかける。


「ユリスさん、大丈夫ですか」

「俺を誰だと思ってるの。特級魔法士だよ」


 ユリスがそう言うとユリスの周りにユリスの魔力が現れる。それは通常の魔法士にはありえないほどの魔力だ。あまりの魔力量に圧倒され、リリィは目を開けていられず目を細めてしまう。


(ユリスさん、やっぱりものすごい人なんだわ……)


 ユリスの魔力に気づいた魔物がユリスへ視線を向け、慟哭をあげる。


 ハイルとの戦いでは、長年の魔石からの魔力供給によるハイルの魔力量が異常だったためユリスたちは防御魔法が途中で壊れかけた。


 だが、この魔物は魔石を取り込んでいると言ってもハイルほどではない。


 ーー勝てる。


 ユリスが両手を真上に翳すとユリスの頭上に大きな光の渦が現れる。そこから閃光が走り、魔物へ直撃した。


 魔物は焼かれたようにジュウジュウと音を出し煙が上がっている。だがそんな状態でも構わず口を開けると口のから炎が吐かれユリスを炎が包む。

 だがユリスは防御魔法で覆われ、そのまま炎を打ち消した。


 次第に魔物の皮膚が回復し始める。ユリスはふわりと宙へ浮き、手を魔物へ翳した。すると魔物へ雷が直撃し、魔物はビリビリと電気を発しながら慟哭をあげる。その慟哭と共にユリスへ氷の刃が向かうが、全てユリスに届くことはなく一斉に砕け散った。


 ユリスが手を一振りすると、地面から鋼の刃が魔物の体を貫く。ユリスの片手が光ると刃は魔物の体を貫いたまま爆発した。何度も何度も繰り返し爆発し、魔物は回復が追いつかないまま粉々になり最後は形もない状態になった。



「あれが、上級魔法士の実力なのか……?」

「何度か研究課の上級魔法士に応援に来てもらったことがあるが、あれほどの戦いは見たことがない」


 少し離れた場所から見ていた騎士団員たちは唖然としながらユリスと魔物の戦いを見ていた。


(なんなんだよ、あの男……あんな魔物とやり合うなんて信じられない。しかもあの魔力量、おかしいだろ。あんな男がリリィのそばにいるのか?あの二人、どう考えても同僚ってだけの雰囲気じゃなかったよな。リリィは一体なんであんな男に……)


 リゲルはユリスとリリィの関係に複雑な感情を持ち始めていた。


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