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1 目が覚めるとイケメンが目の前にいる朝

 チチチ……


 外から鳥の鳴き声がする。今は何時頃だろうか。重い瞼をゆっくりと開くと、そこにはありえない光景が広がっていた。


 黒い髪の男が静かに寝息を立てている。


(は?え?どゆこと?)


 目の前の男を起こさないように目線だけを動かして周りを見てみる。知らない部屋だ。


(えっ、えっと?ここどこ?なんで私知らない部屋で寝てるの)


 リリィ・ハルベルト。ゆるくウェーブのかかった明るいブロンドのセミロングにオパール色の瞳で小柄だ。成人してすぐ魔法省の総務課に五年ほど勤務していたが、突然魔法省の研究課へ異動を言い渡された。


 昨日は確か、異動初日で自分の歓迎会があって、なんかよくわかんないまま言われるがままに食べ物食べて飲み物飲んで……。


 その先の記憶がない。


(ま、じで?え?)


 そぉ~っと布団の中を覗いてみると、どうやら上は服を着ている。だが、足元はスースーするので下半身は下着だけのようだ。


 ふと隣の男の体に目がいくが、上半身裸だ。


(うぇっ?はっ?なんで?)


 思わず叫びそうになる口を両手で抑えてこらえていると、隣の男がもぞもぞと動き出した。そして、瞼がゆっくり開かれる。


「……あれ、起きてたの。おはよ」

「お、おはよ、ご、ざいま、す」


 男はゆっくりと起き上がって腕を伸ばした。


その男の名前はユリス・キリエル。魔法省研究課第一部門に所属し、リリィより五歳上の直属の先輩にあたる男だ。サラサラの黒髪に琥珀色の瞳で魔法省の中ではなかなかのイケメンだと噂されている。確かに見た目はイケメンそのものだが、常に真顔で何を考えているのかわかりにくい。しかも大の女嫌いで女性職員とはほとんど会話をしない男だと研究課の中でも有名だ。


 なぜ、そんな男が自分の隣で寝ているのだろうか?リリィは混乱しながらも口を開いた。



「あ、あの、すみません、この状況はいったい……?」


 恐る恐る質問すると、男は真顔で首をかしげる。


「あんた飲み過ぎてベロンベロンになってたから連れて帰っただけ」


 その言葉に思わずリリィはうなだれてしまった。


「も、申し訳ございません……。あ、あの、ちなみになぜ私たちはこのような格好を……?」


 目の前の男は女嫌いで有名だし、まさかとは思うがそのまさかだったら本当にまずい。意を決して聞くと、男は表情を変えずなんてことない様子で答えた。


「ああ、あんた家に着く寸前でゲロっちゃったから俺の部屋着に着替えさせただけだよ。本当は風呂にも入れたかったけどさすがにそれはあれかと思って、とりあえず簡易な清掃魔法であんたに着いた臭いと汚れは取っておいたから。あ、おれは寝るときいつも半裸だからこの状態ね」


(うあぁぁぁ!なんてことをしてしまったの私!異動一日目でやらかした!もうだめじゃん!!)


 やらかしてしまったことに頭を抱えつつ、とりあえず一線は越えてなかったらしいことに安堵する。


「あ、あの、重ね重ねご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」


 ペコリとお辞儀をすると、男はじっとこちらを見つめている。その視線の先は、サイズが大きすぎて襟元がずり落ち今にも胸元が見えそうになっていた。


 思わずあわてて胸元を隠すと、男は相変わらず真顔で視線をそらしてため息をついた。


「心配しなくても大丈夫だよ。俺、女に興味ないから全然そういう欲わかないし。昨日も何もなかったから」




◇◆◇



「ほ、本当に申し訳ありませんでした」


 目覚めてからユリスと話をして状況を把握したリリィは、昨夜のうちにユリスが洗濯しておいてくれた魔法省の制服を着てローブを羽織り、玄関先で深々とお辞儀をする。


「同じ寮だし俺がこんなだからよかったけど、あんた気をつけた方がいいよ、色々と」


(全くもってその通りでございます)


 リリィはただただ頭を垂れる。まさか異動初日、しかも自分の歓迎会で記憶をなくすほど飲みすぎたあげく先輩の前でゲロを吐き、そのまま介抱されてしまうとは。頭が猛烈に痛いのはきっと二日酔いだからなだけではないだろう。


 ガチャリ、とドアを開けふと部屋番号を見てリリィは両目を見開く。そのリリィの様子に、ユリスは首をかしげた。


「どうかした?」

「あ、いえ、あの、部屋が……まさかの隣でした」


 こんなことがあるのだろうか。すぐ隣が自分の家だと知ってぽかんとするリリィに、ユリスは少しだけ口の端を上げて言った。


「へぇ、それじゃ今日は出勤するのに朝の支度慌てる必要なくてよかったじゃん」






 魔法省。そこは国のありとあらゆる魔法に関する知識と技術が集結された場所。国家認定された一流の魔法使いたちが働く場所でもある。


「おっはよー!昨日大丈夫だった?リリィちゃんてば気づいたら姿がなくて、ユリスさんもいなかったからもしかしてもしかするとかな~って思ったんだけど」


 朝から元気にきゃっきゃとはしゃいでいるのは、同僚のベリアだ。ツインテールにしている薄紫の髪が楽しそうに揺れる。小柄かつ可愛らしい顔で守ってあげたくなるような見た目だが、性格はずいぶんと活発的だ。


「あ~いや~」


 リリィが言葉を濁すとベリアはなになになに?と楽しそうに詰め寄ってくる。


「お、リリィちゃんおはよ。昨日大丈夫だったか?ユリスにお持ち帰りされてただろ」


 背後から声がして振り向くと、先輩のエイルがいた。紺色の短髪にエメラルドグリーンの瞳で背が高くスラリとしている。


「え~やっぱりお持ち帰りされてたの?やだやだ~早く教えてよ~」

「いや、でもユリスのことだからどうせ何もなかっただろ。ユリスだから大丈夫かと思って任せておいたけど」


 ベリアが大はしゃぎするとエイルが半笑いで言う。


「あ~ユリスさん女に興味ないですもんねぇ、てゆーか女嫌いで有名だし。見た目がいいから女性が放っておかないけど、他部署の子がいくら誘惑しても完全スルーですもん。私と話をするときもうん、とかへぇ、とか一言二言だけだし。女性と近い距離で話してる所なんて見たことないかも」


(本当に女性に興味ない人なんだ?ってことは男性に興味があるとか?いやそうとも限らないか)


 異動してきたばかりでみんなの性格がよくわからないリリィは、ベリアとエイルの話を聞きながらふむふむと考えていた。


「なんか俺の悪口が聞こえたような気がしたんだが」


 声のする方を向くとユリスがあくびをしながらやってきた。


「おう、お前昨日はちゃんとリリィちゃんを送り届けたみたいだな」


 エイルがそう言うとユリスが真顔でリリィを見る。


(ユリスさんていつも表情がないんだ)


 昨日もずっと真顔だったので怒らせていたのかと心配になっていたが、そうではないようでホッとする。


「ああ、俺の部屋に連れて行って一緒に寝たけど」


 ユリスの言葉に一瞬その場が静寂に包まれる。


「はぁー???」

「え、え?待って、どゆこと?ユリスさんそれってどういう意味で」


 驚くエイルとベリアに、ユリスは真顔で答える。


「どういう意味って、言葉そのままの意味だけど」


 そう言ってほんのちょっとだけ口の端を上げながらリリィを見つめ言った。


「ね?」







お読みいただきありがとうございます。二人の恋の行方を楽しんでいただけましたら、感想やブックマーク、いいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると嬉しいです。

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