(1)
こちらもお気に入りの作品です^_^
お読みください!
窓の外で風がゴウゴウと唸りをあげる。
生まれた頃からこの街に住んでいるが、このけたたましい夜風だけはどうも慣れない。
忌まわしい風だ。
今夜はベランダにそら豆を干しているというのに。
僕は嫌な予感に、眠い目を擦りながらベッドを抜け出した。
案の定、そら豆は風に吹き飛ばされていた。
空調の室外機の上に置いてあったはずのざるすらない。
きっとそら豆はそのざるごと、ひとつ残らず風に吹き飛ばされてしまったのだ。
僕はがっくりと肩を落とした。
◇
――月の光を一週間欠かさず浴びせると、そら豆は血液に姿を変える。
とある古文書の中にこの言葉を見つけたとき、僕は思わず小躍りした。
僕は日頃から、貧血がひどい我が妹のために、インターネットから古文書までさまざまな資料を当たっていた。
そこで、このそら豆から血液を製造する方法を知ったのだ。
血液を作るとなると、そのほとんどは、猿の頭蓋骨だのとかげのしっぽだの、現代日本では入手困難な材料が必要な魔術ばかりだ。
その上、三日三晩鍋でグツグツ煮込むだとか、現代を生きる高校生の僕には到底現実的でない――なんといっても今年は大学受験を控えている。高校に塾にと忙しいのだ。三日も鍋の前になどいられるものか。――製法だ。
僕は、妹のために血液をつくることを半ば諦めかけていた。
いっそ、僕の血液を輸血でわけてやったほうが早いのではないかとすら真剣に検討するほどだった。
だから、このそら豆を月光に浴びせる製法を発見したとき、どれほど嬉しかったか知れない。
特に今は春だった。
そう、ちょうどそら豆の旬なのだ。
スーパーマーケットにいけば、青々とした新鮮そのものの熊本産そら豆が、手頃な価格で手に入る。
しかもそれを月光に当てるだけだ。
特別な場所にいかなくても、何日間も見張り続けなくても構わない。
ただ、ベランダに出しっぱなしにしておけばいいだけなのだ。
しかし、この「一週間」というのがくせ者だった。
完璧な晴れが一週間続く、というのが実は難しい。
もし雨が降らずとも、雲が月を隠す時間が長ければ月光はベランダに届かないし、新月の夜が挟まってもダメだ。
だから、そら豆をベランダに確信を持って出せるチャンスなかなかなく、今回が二度目の挑戦だった。
この四日間、空は順調に晴れ続けていたし、今度こそと息巻いていたが、まさか風にやられてしまうとは。
続きます〜