その男は庶民だった。
夢をみた。
夢をみた。
夢をみた。
夢を、みた、だけ。
だからまた、眠ればイイんだ。
ほら、いつもの真っ白でふっかふかの布団に埋もれて、ちょっとふっかふか過ぎて、ちょっと腰と手足が沈みやすくて、ちょっと痛いくらい冷たい………、
うん。
知ってた。
人の入らない積もりに積もった雪の上やんね…。
スキー場のリフトの上から見たことある。
柱の周りとかこんな感じだよね、縦に入ったら姿見えなくなるアウトなやつでさ、そんな感じが広く広く広がった平原?雪原?って言うのかな。
もう酸ヶ湯温泉じゃない?
テレビでよく見る、雪壁の上って感じ。
そんな上に横たわってる。
むしろ下半身埋まってる。
凍傷確定の危機。
いやもう生命の危機だ。
何で?
誰もいないし、道でもなさそうだし、何で?
何とか抜けた左腕をかざすと、まさかの素手。
ちゃんと長袖で、焦げ茶色のコートっぽいの着てるけど、七分丈みたいにまくれてる。
袖口にミント色の細いラインが三本はちょっとオシャレかも、とかどーでも良くて。
コレ、俺の腕じゃない。
こんな白人種みたいな色白じゃないし、こんなにちゃんとした筋肉ついてないし、こんなに傷のない腕じゃないんだ。
背中も痛いのか冷たいのかわからない。
もがいたせいか、もう胸元まで埋まってる。
雪は降ってなくて、風もないけど、絵に描いたような分厚い曇天であんまり時間帯がわからない。
朝なのか昼なのか、ちゃんと景色が見えるから夜じゃないと思うけど、こんな状態じゃ、動物すらいねーよな。
足先はもう、感覚もないや。
よくわかんないうちに、死ぬのかな。
それはそれで別にイイけど。
こんなろくでもない人間のクズな人生、いつでもイイけど。
なんかまぶた重くなってきたかも。
遠くに、黄色い点が見えてる気がする。
近くなったら、レッツゴー来世かな?
来世ってあるのかわかんないけど、こんな人生だったら地獄の閻魔様に怒られて鬼にシバかれて、来世どころじゃないかな。
ま、いいや。
本当に、もういいや。