8.謎の老婆
街中にある一番高いビルの上──
先程の白のマントをかぶっている男が当たりを何かを探るように見渡していた。
「奴の気配が瞬時に消えた……」
男は下を見下ろした。
そこには救急車にて運ばれる鷹斗の姿があった。それに付近にはパトカーがサイレンを鳴らしながら犯人を捜索しているようだった。空にもヘリが無数に飛び交っており、街中は大騒ぎとなっていた。
「それにしても、奴らは何故刻印を持っているんだ。あの時に……」
男は色々と考え、その内ビルから飛び降りて姿を消した。
*
あいつ、真紀ってやつに連れられて救急車で遠くへ逃げていく。体力も尽きて今なら倒せる。逃がすか──
俺はあの時突然心臓の鼓動がおかしくなり攻撃が出来なかった。とにかく今は路地裏で腰をかけて落ち着かせるのが大事だ。
「くっ……頭が」
また頭が痛くなり膝をついた。力を使おうとすると、頭が割れるような頭が襲って攻撃を拒絶した。
「あいつ……何者なんだ」
鷹斗を殺しかけた時に俺を蹴り飛ばしてきた奴──あの蹴りに感じたのは俺と近い力だ。普通の人間じゃねぇ。今も顔がヒリヒリする。
だが、これ以上力が発動出来ない。意識が朦朧として来た、やばい。このままでは、体力がなくなりさっきの奴がもし追ってきたら……
身体を無理矢理起こして、おぼつかない足取りでその場を立ち去ろうとした。すると、俺の真後ろに人が立っていた。
そこにいたのは謎の小さな本を大事そうに抱えている中年のババアであった。
「何だババア……俺に用か」
「や、やっと会えました!!」
ババアは俺の前に駆け足で来ると土下座を唐突に始めた。
「貴方様は新たなる世界の救世主です!」
「……何言ってるんだこのババア」
ババアが土下座した際に落とした本を見ると、どうやら怪しそうな宗教にドンハマりしている奴だと分かった。
ババアは俺の前でずっと土下座を続けながら言う。
「私は確信しました。先程貴方が街を操って人類を試していた。創造と破壊、再生。それを出来るのは新人類!!つまり救世主がこの世界に君臨したのです! その力は世界を浄化出来る清らかな力!」
新人類、救世主、まさに怪しい宗教っぽい事をずっと言い続けるババアに腹が立って来た。ただでさえ、力を使いすぎてイラついている。このババア、殺してやる。
「俺は宗教なんかに興味ねぇんだよ。失せろ」
俺は残った力を込めて、ババアを空中に浮かせてビルの外へと追いやった。このまま離して落とすのもいいが、ババアの表情を楽しもうとしたら予想とは真逆であった。
ババアは手を突き出して俺に語りかけた。
「もし良ければ、貴方様に力を送り込ませてもよろしいですか?」
「命乞いか?」
「私こう見えて人の手を握りしめて自分の体力と引き換えに、その体力を相手に送り込むことが出来ます」
予想以上に冷静に言い正直驚いた。
はっきり言って信じがたい事を言っているが、俺自身体力がない状況であり、警戒しながらババアと屋上の地面に下ろした。
「下手な真似をしたら、殺す」
「好きにどうぞ。では手を拝借します」
俺は惠美子と名乗るババアの手を握ぎると、ババアは目を瞑り、力を送り込む様に握りしめて来た。
「なっ!?」
ババアに力を送り込まれた途端、身体がゾクゾクと震え上がると共に身体が暖かくなり、痛みがなくなり力が湧き上がるような感覚が襲いかかった。
体力が本当に回復してしまった。何が起きたのか、自分でも訳が分からなかった。
「痛みが消えた……体力も」
「こ、これで信じてもらえるでしょうか?」
ババアは疲れ果てていた。言っていた通り、大幅に体力を使ったのかその場に膝をついて荒く息をしていた。
「ババア、何をした? まさかお前、俺と同じような能力を?」
「貴方に近い能力ですよ。魔術の類ですよ」
「魔術……だと」
「あくまで私の力を送り込み、体力と力を貴方に加えさせたのです。だから、貴方様を信じる信者の力を送り込めば、力がどんどん膨れ上がる」
「信者達?」
更にババアは言い続けた。
「私なら、貴方様を信じる信者達を大勢連れてくる事が可能です。私の言う事なら、何でも信じる者達です。必ず、お役に立つと思います」
「なら、貴様を信じよう。少しでも多く明日にでも連れてくるんだ。俺の力を更に高めて、今度こそ邪魔者の奴らを殺す」
「はい、神の領域に到達出来るように」
「神の領域か……悪くないな。
「神は全てを真理を知り、あらゆる生命を生み出す全能の存在。今一番近き存在が貴方なのですから」
神。その言葉は今の俺の心に問いただした。
神になれば、俺は何になるんだ? 神になれば、全知全能になるのか? 全ての真理を知りつくことが出来るのか? 宇宙とは、人とは、生命とは、この身体に刻まれている闇とは……
答えは神になれば、分かるのだろうか。
分からない中、俺は無意識に笑っていた。
「面白い話だな……」




