十二の巻 跡地
夕日も沈み、道路に電灯が灯され始めた頃に自宅へと到着した。
「すいません。すっかりと寝てしまって」
「全然私も東京に来たばっかりの頃、何度も電車を乗り過ごした事があるから分かるわ」
「知らない土地は楽しいけど、大変ですね」
「えぇ、その楽しいがずっと続くと、新しい場所にも慣れていくわよ」
「そうですね!」
そして二人は気を楽にしてテレビを見ながら寛いでいた。
凛花はもちろん初めて見るので、テレビの内容そっちのけで不思議そうに画面を見つめていた。
「こんな薄い板から音や人間が聞こえたら、見えたりするのって不思議ですよね」
「慣れるまで時間がかかると思うけど、慣れるとこの生活にどハマりするわよ」
「そうですかね?」
そして朝姫はあの子竜が気になった。
「そういえばあの子は?」
「あなたと同じでもうぐっすりよ」
子竜を見るとバッグの中で丸くなってスースー言いながら熟睡していた。
「まるで猫みたいにぐっすり寝るわね」
「こんな可愛らしく寝てても、将来は大きな竜に成長するんだから、驚きですよね」
子竜を見て、朝姫はとある事を考えた。
「この子の名前を決めてなかったわね」
「名前……ですか。牙太郎とかどうでしょうか?」
「きばたろうね……結構可愛らしいかもね」
更に時間が経ち、朝姫は凛花に風呂に入る事を進め、タオルと着替えの服を渡した。
「風呂に入ってもいいわよ、って言ってもシャワーとか分かる?」
「分かりません!向こうでは温泉が沸いていましたので、こうゆうのはあまり」
「ちょっと羨ましい。でも、まだまだ教える事いっぱいありそうね。後で教えるから更に行ってて」
新しい生活に慣れようとする凛花の姿が何処となく、上京したての自分を重ねるように見る朝姫。
何処に住んでいても、文化が違っても慣れようと頑張る姿は現界の人間と変わらないのが、ちょっとだけ嬉しかった。
*
次の日──
教授の研究室に訪れた朝姫。
そこに──
「おはようございます!!」
「凛花ちゃん!?何故大学にいるのだね?」
教授の元に朝姫、そして凛花が来ていた。
大学生っぽいカジュアルな服装で意外と周りと溶け込んでいた。
「私の助手として校内の見学を許可してもらったんですよ」
「そうゆう事か」
「まぁ、彼女を私の部屋にずっと閉じ込めて置くのもダメだと思って、校内なら広々として図書室もあって現界の人達とも触れ合えるからいいかなと思って」
「その方が彼女的には良い経験になるかもしれんな」
「はい」
そして重いバックのジッパーを少し開けた。
教授が何だろうと見ると、中には子竜こと牙太郎の姿があった。
「この竜を連れてきたのか!?」
「家に一匹で置いておくと危険って言われて、持ち運んでいるんですよ。暴れないから大丈夫ですって!」
「そ、そうか?」
朝姫は凛花の周りを見渡して、聞いた。
「貴方の兄さんは何処にいるの?」
「ただでさえ、そこまで喋る性格じゃないから、私も何処にいて何をしているのかははっきりとは分からないんです」
「まぁ、あの人は危険な事しなさそうだから、大丈夫よね」
「多分、刻印による事件が起きた場所にでも行ってると思いますよ」
「ふーん」
凛花が研究室内を夢中で探索していると教授が耳元でつぶやいた。
「彼女はどうだったんだい?生活環境の慣れとかは」
「本当に現代を知らない日本人?がいるとは思いませんでしたね」
「観察するには良い材料かもしれんな」
「彼女は研究材料じゃあないですよ。一人の人間なんですから」
教授の言葉に反論すると、凛花は本が大量に積み上げられた整頓されてない机に指差した。
「ここは?」
「ここが私のデスク……っと言ってもアパートと同じで汚らしいけどね」
「兄さんも書物庫で調べ物する時はいつもこんな感じですから慣れっこですよ」
「はは、ご気遣いありがとうね」
そそくさと机の上を片付けて本来の話題に変えた。
「そうそう凛花ちゃん見てもらいたいものがあるのよ」
「何ですか?」
「これよこれ」
朝姫は研究室の奥から虫籠を出して凛花に見せた。
それは山で見つけた大きな異形なてんとう虫のゴンちゃんであった。
「これって?」
「あの山で私が龍の里に入った場所付近で見つけたてんとう虫なの。この生物が何か分かる?」
凛花がその虫を観察した。
「私の里にも昆虫は生息していますが、このような虫は見た事がないですね」
「やはり、あの境目での影響下で生まれた異形昆虫って感じかしら?」
だが、その虫を見て教授はとある事に気づいた。
「前よりデカくなってないかね?」
「た、確かに。一回りくらい大きくなったような……」
教授の言う通り、数日前より一回り大きくなっているような気がした。
それに触手部分も少し肥大化し、赤い先端のような突起物まで生えている。
朝姫がもうちょっとよく見ようと目を近づけた瞬間、突然ゴンちゃんが舌を伸ばし、虫籠を突き破ってきた。
「危ない!」
凛花が咄嗟に動き、舌が肩を掠りながらも朝姫を押し倒して直撃を回避した。
「大丈夫凛花ちゃん!」
「擦り傷だから、大丈夫です。それよりも!」
ゴンちゃんは突き破った窓から逃走して、遠くへと飛び去って行った。
「ゴンちゃん……」
「凶暴になる前に逃がしてよかったかもしれませんね。逃げたけど、大丈夫ですかね」
「人間とは襲わないと思うから大丈夫かもだけど、心配っちゃあ心配ね」
「なら、私が探しに行きますよ?」
「えっ?」
そう言って凛花はバッグを投げ捨てて鍵のかかった窓を強引に開けて、ゴンちゃんが飛んで行った方向を凝視して、窓から飛び降りた。
「行って来ます!」
「ここ三階よ!!」
凛花は両足を地面に付けて普通に着地し、ゴンちゃん行った方向へと走って行った。
朝姫らは呆然と見ていたが、これは追わないとダメだと感じて、走り出した。
「教授!研究室は頼みました!!」
「わ、分かった!」
「牙ちゃんもお願いします!」
「き、牙ちゃん!?」
「そのドラゴンです!」
*
同じ時刻、豪太郎は六道山の公園にいた。
そこは数ヶ月前に闇の刻印と炎の刻印がぶつかり合い、激しいバトルが繰り広げられていた。
その傷跡は未だに残っており、封鎖は解かれておらず、抉られた地面や壊れたヘリ、焦げた木など全てがその当時のまま残されている。
自衛隊とスーツを着た若い高官が定期的に出入りを繰り返し、中には白衣を着た人物らまで出入りを繰り返して何かを採取していた。
「以前の戦いで奴は勝利した。だが、世間は刻印の事を認知し始めている。ここ数ヶ月で一体何が起こっている?」
手に持っている雑誌の見出しには
"高校生グループがまた大暴れ?"
"六道山の謎を追え!"
"謎の覆面男女に犯罪グループが一斉検挙?"
"また爆破テロ発生か?"
などと気になるニュースが多くあるが、やはり高校生グループが大暴れ?の事が気がかりになっている。
「あの女の映像とやらが本当ならば、刻印はこの世界に多く現れるだろう。昔のような戦争が起きなければよいが……だが、あの炎の刻印の少年は、危険を顧みずに戦った」
あの時、少年は自分の信念を貫いて、街を守るために一人でも戦う事を決意した。
俺自身、勝てる可能性は低い。そう思ったが、彼の目は違った。
勝てないんじゃない。勝たないとダメなんだと諦めないバカな顔をしていた。
だからこそ、信じた。炎の刻印は光を灯す存在。暗闇に包まれたら、この次元の終わりとなる。
奴ならやる。小さな炎が大きく世界を灯すと。
あの戦いを遠くから見て、奴の勝利を見届けた。
「……」
最悪の場合は刻印を使って戦おうと思っていた。だが、それは使うことは無かったと言うよりも、使う意思がなかった。
俺自身が刻印を使うのを恐れている。理性が効かなくなる事でこれ以上の被害を増やしてしまうのではないかと恐怖しているんだ。
「ちっ、厄介な事をやってくれる」
「あんたもここに見に来たのかい?」
背後




