九の巻 現界との共存
里を抜けてここに来た時にいた場所へと戻ってきた。
ここに来た時とは違って晴れており、青空が広がっている。
「ここに来たのはいいが、どうすればいいんだね?」
教授が尋ねると豪太郎は何も言わずに、周辺を見渡すと目を瞑り出した。
行動の意味が理解できない朝姫は凛花にコソッと聞いた。
「何してるの?」
「付近の生物をここから離れさせるんですよ。ここの生物を現界に行かさない為に。現界とは生きる世界が違う生物が現界に行くと、生息地域の大幅な変化に突然変異する事があるみたいで」
朝姫は無意識にノートをとってその情報を書き写していた。
「いまから長老達の力で門を開くんです。でも、相当な力を使うみたいで、高頻度では開けないだ」
「そ、そうなんだ。どゆこと?」
そして豪太郎が目をキリッと開くと、周りの空気が一気に冷え込み、肌でも感じるほどの鳥肌が立った。
数秒後、付近の草むらがガサガサと大きく音を立てて、一斉に周りの生物が何処かへと移動し始めて、空も多くの竜が飛び交った。
「す、すごい」
周りは一気に静まり返り、生物の気配は微塵も感じなくなった。
「ここからどうするの?」
「長老達が今から扉を開ける。待つんだ」
豪太郎の言葉にどうゆう事?と思う朝姫。
その頃、寺にいる長老は森の方から飛んでくる竜達を見て、その場にいる全員が手を合わせて、日本語とは違う言語で何かを唱え始めた。
そこにいる全員の身体からオーラが発生し、徐々にオーラは大きく広がっていき、その地の全域が揺れ始めて外にいる村人は慌てて家へと逃げ帰った。
「はっ!!」
長老が力強く声を上げると、溜まったオーラが上空へと光線上に飛んでいき、朝姫らがいる方向へと向かった。
そして豪太郎が上空を見つめていると、光線上のオーラが飛んできて、四人の真上で爆発音のような音を発して眩い光を放たれた。
「きゃっ!」
「うわっ!!」
光に包まれ、朝姫と教授は叫んで咄嗟にしゃがみ込んだ。
耳がキーンと鳴り、驚いて伏せていると凛花が身体を揺すって起こしてくれた。
「もう大丈夫ですから、起きても良いですよ」
「だ、大丈夫?」
二人がゆっくりと顔を上げると、先程まで青空が広がっていた空が薄暗く、霧に包まれており、ここに来た時と同じ空気感に変わっていた。
「さっきまで晴れてたのに……」
「何という非現実的な……」
二人が唖然としていると、豪太郎は一人歩み始めた。
「兄さん待ってよ!」
凛花は二人を支えて立たせ、共に豪太郎の後を追う。
豪太郎の後を追って数分後──煙が徐々に薄くなっていき、朝姫はいち早く空気の臭いの違いに気づいた。
「この草木の香り、まさかキャンプ場?」
朝姫は豪太郎を追い抜いて走って行き、草木を掻き分けるとそこは昨日居たキャンプ場だった。
キャンプ場の古びた看板も立っており、間違いなく日本に戻ってきた。
「やっぱり戻ってきたのね!元の場所に!!」
朝姫は地面に寝転がり、アリやバッタを見て心を落ち着かせた。
「本当に戻ってきたんだな!」
教頭も追うように現れて空を見て飛行機が空高くに飛んいるのを目にして安心して地べたに腰を下ろした。
そこに豪太郎らも遅れて来た。
「兄さんあれって竜なの?真っ直ぐととんでいるけど」
「あれは飛行機だ。鉄の塊だ」
凛花は興味津々で飛行機を見ためていた。
初めて見る飛行機はとても不思議な物だった。鉄の塊がどうやって空を浮かんでいるのか、全く予想出来なかった。
「そんなのどうやって浮かばせてるんだろう」
「さぁな。それが現界の不思議なところだ。いつのまにかここまで技術が進歩している」
「書物で見たのとは大違い……」
凛花は空を見上げながら現界の空気を堪能した。
「里と同じようにここの空気もとても良いね。土の匂いがハッキリと草木の中に混ざって気持ちよく寝れそう」
凛花も朝姫のように地面に寝転がり、土や草木の匂いを堪能し、豪太郎も満更でもない顔になって凛花や朝姫の様子を見ていた。
だが、その時、今出てきた草むらがガサッと揺れて、咄嗟に豪太郎は何かの気配を感じた。
「誰だ!」
豪太郎が睨みを効かせ、凛花も飛び起きえ朝姫らの前に立って庇うように構えた。
そして草むらから出てきたのは──小さな竜だった。
「この子!?来ちゃったの!?」
「昨日の竜なの?」
現れた竜は朝姫らが竜の里にワープした時、朝姫に懐いた竜だった。
竜も元にいた場所とは違うと感じているのか辺りを不思議そうに見渡した。
朝姫の姿を見つけると声高く鳴きながら朝姫の膝下に走り、頭をすりすりと擦り付けた。
「この子人間慣れしちゃったみたいね。兄さんの気の散布は自分を敵視してる龍達を追い払うんだけど、この子は私達を味方認定しちゃったから、逃げずに逆に着いてきちゃったのかも……」
「でも、この子ここに来ちゃったってあまり良くないわよね?」
「えぇ、戻さないと行けないけど……」
朝姫も凛花も豪太郎へと目を向けて、答えを求めた。
豪太郎も顔を伏せて悩んだ。
里に戻るのには最低でも1週間は掛かる。
色々と1人で考え込んでいると、朝姫が手を挙げた。
「私のアパートで飼おうかしら……なんちゃって」
朝姫の進言に豪太郎は冷や汗を掻きながら答えた。
「……それで行くしかない。お前の家で預かってくれないか。肉食ではないから、お前を襲う事はないから安心しろ。それにお前に懐いているようだから、逃げる事も無いだろう」
「まぁ、そちらが良ければ良いけど、貴方が預かるのは無理なの?」
「俺は廃墟で過ごしている。だから、コイツを放っておくと何処かへ行ってしまう」
「そりゃ仕方ないわね廃墟じゃね……って廃墟に?」
朝姫の声に豪太郎は驚いた。
凛花も豪太郎の発言に声を上げた。
「兄さん!現界に来て廃墟で生活してるの!?いやよ私!」
「仕方がないだろ。我々は住む場所がないんだ」
「だからって、そんな場所寝泊まりなんて最悪よ!」
凛花が駄々こねていると、また朝姫が静かに手を上げた。
「よければ私のアパートで住む?二人とも。ちょっと狭いけど」
「良いんですか!?」
凛花の目の色が変わり、朝姫へと嬉しそうに抱きついた。
「本当にイイんですか?」
「えぇ、賑やかな方が楽しいし、このドラゴンちゃんを見張るのも私一人じゃ限界があるし……」
「やったー!!」
喜んでいる凛花だが、逆に豪太郎は首を横に振った。
「俺は遠慮する。そこまで迷惑かけるつもりはない。妹だけでも頼む」
「いやでも礼の一つくらい──」
豪太郎は話を遮って、そのまま飛び上がって街がある方角へと飛んでいき、あっという間に姿を消した。
「行っちゃった……」
「まぁ、元からあんな性格ですから……」




