八の巻 龍皇の存在
夜の里を歩く朝姫と凛花。
こうやって外を歩くと、普通の日本と同じようだった。
虫達の鳴き声が聞こえ、心地よい風が吹いている。
風を浴びて、虫の声を聞き、キャンプしている事を思い出していた。
「貴方は、こっちの世界の事を何処まで知っているの?」
「兄さんは何度か現界に来ているけど、あまり話さないのよ。高校生って言葉とか教えてもらったけど、それ以外はあまりね」
「なら、スマホとかも知らないの?」
「すまほ?何それ?」
スマホの存在も知らない凛花にスマホを見せて、電源を付けた。
黒く薄い正方形の形をした物が、突然光出した画面に凛花は飛び上がって驚いた。
「うわっ!何か光が!」
「驚かなくてもいいわよ。スマホって物なんだけど。なんて言えば良いんだろうなぁ」
スマホもとい携帯は今や当たり前に存在する物なのだが、それをどう説明すれば良いのか初めて考えた。
考えていると凛花はスマホへと顔を近づけた。
「兄さんが言っていた、光る辞書ってヤツ?」
「光る辞書……か。そんな感じかな。辞書を更にすごくした物かな?」
「でも、キラキラし過ぎて見ずらいよ」
「あんまり見つめない方が身のためだよ。少し暗くするから待ってね」
視力が良いであろう若者に自分のように視力を落として欲しくないように明るさを調整していると、凛花が聞いてきた。
「実際に街ってどんなの?」
「ん?こっちの世界には来た事ないの?」
「うん。規則というかしきたりと言うか。炎の刻印が地上に現れた時は兄さん一人が向かった見たいだけど、全く口を開かないのよね。どんなものがあるか、めちゃ気になっているのに」
「お兄さんの気持ちは何か分かるかも……」
こんな気持ちのいい場所と比べれば、都会はいい場所に見えるかも知らないが、どこか幻滅するかも知らないと思った朝姫。
「都会ってみんな光る辞書持ってるの?」
「まぁ、今の若者なら殆どあるかも。あったあった、この動画だ。貴方達が言っていた刻印って奴に近いもの」
朝姫は刻印と思わしき映像を凛花へと見せた。
「パソコンならもっと大画面で見れるけど、今はこれで我慢してね」
朝姫が見せた映像には山の中で戦う二人の少年の姿を写している別の少年達がはしゃいでいる映像であった。
戦っている二人の少年の腕は発光しており、それが凛花や豪太郎と同じであると朝姫は伝えた。
「これが刻印って奴?……凛花ちゃん?」
返事がない凛花を見ると、凛花は黙り込んで目を尖らせてその動画の刻印戦士二人を見つめていた。
その姿に驚いた朝姫だが、同じく黙ってその動画を見た。
途中で動画が止まると、凛花の目はすぐに元に戻った。
「止まった?」
「ここまでしか映像はないのよ」
「今の二人はどうなったの?」
「これ以降は私でも分からないの。ごめんね」
朝姫が申し訳なさそうに言うが、凛花は固まったままで言った。
「今のを見て分かった。あの二つの衝撃は炎の刻印と闇の刻印……」
「やっぱり、これがあなた達が言う刻印ってものなの?」
「うん。これが本当なら二つの刻印が本当に現界に存在していたという──」
その時、木の上の枝が微かにガサッと揺れて、凛花は目の色を変えて朝姫の前に立って上を向いた。
「誰!」
「え?なになに!?」
何が起きたか分からず、あたふたする朝姫だが、凛花は手の甲を光らせて刻印を発動する準備をした。
「待て、俺だ凛花」
「この声、兄さん?」
木の上から降りて来たのは水に濡れた上半身裸の豪太郎であり、分かりやすいように両手をあげて無抵抗をしました。
凛花は豪太郎と分かり、気を緩めて力を抜いた。
「兄さん、女の子同士の会話盗み聞きしてたの?」
「……それがどうした。俺は修行の帰りにお前らの話し声が聞こえたから、よからぬ話やも知らぬと思ってな」
「よからぬ事をしてるのは兄さんの方でしょ……」
「そうなのか?」
何食わぬ顔で言う豪太郎に凛花は自分の顔に手を当てた。
「鈍感な兄さんなんだから」
「とにかく、夜も遅い。もう戻れ。俺は先に帰る」
「はいはい」
そう言って二人に背を向けた豪太郎。
歩きながら、朝姫へと言う。
「女」
「は、はい!」
「あまり変なものを妹に見せるなよ」
「す、すいません……」
朝姫が恐縮しながら深々と謝罪すると、豪太郎は何も言わずにジャンプして寺へと戻って行った。
それに対して凛花は軽い怒りをぶつけた。
「女じゃなくて、朝姫さんよ!全く!!」
「いいのよ別に。私も、あんまり見せちゃ行けないものを見せたんだし」
「多分兄さんも私が現界を憧れている事を分かってはいる。でも、不器用だからあんな感じでしか言えないんだろうと思うんだ。優しいけど、強面の顔だからみんな引いちゃうんだよね」
凛花の言い方からすると、優しいんだろうけど、豪太郎はそれをうまく言葉で伝えるのが不得意なのだろうと朝姫は感じた。
「兄さんが持つ竜の刻印はかなり精神を使うんだ。竜の刻印はその名の通り、巨大な龍に変身する能力。強力な能力だけど、その巨大な身体を動かすには想像を超えるほどの精神が必要なの。だから、集中が途切れてしまうと自我を失ってしまうんだ」
「そうなるとどうなるの?」
「私の飛竜の刻印や長老らが出向いて気絶させなきゃいけないんだ」
「凛花ちゃんはその力を制御できるの?」
「私は出来るよ。って言うのもアレだけど、兄さんの刻印がかなり癖が強いと言うか」
刻印の事は全く理解できない朝姫は科学者としての癖なのかいつの間にかメモを取りながらさらに質問をした。
「刻印ってどんな感覚で操っているの?」
「慣れているから分かりづらいけど、直感と言えばいいのかな?身体に力を入れるような感じというか」
「人体とはまた違う感じなのかしらね?」
「私もいつのまにか普通に刻印を使うようになったから、分からんないかな。だからこそ、制御が難しい龍の刻印を持つ兄さんは毎日この時間は森の奥の滝で精神を統一する修行をしてるんです。特には最近は」
「やはり刻印の出現で?」
「うん。誰よりも危機感を感じて、もしもの時に暴走したら意味がないって」
だから豪太郎は先ほども何かしらの修行を夜遅くにしていた。
己の刻印を使いこなす為に。
朝姫はノートを書き終えると一度頭を下げてお礼をした。
「ありがとうね。こんな部外者の私に色々と教えてくれて」
「いいんですよ!むしろ、私に憧れを見せてくれて感謝します!」
「もしも現界?に来たら私が色々と案内してあげるから来てね」
「はい!ありがとうございます!!」
*
次の日──
朝姫と教授は寺の扉の長老や豪太郎、凛花やその他の戦士達と共に前まで送られて来た。
「本当にありがとうございます。色々と教えてもらい、1日止めていただき。それにご飯までご馳走になっちゃって」
「朝は大丈夫と言ってたけど、本当に大丈夫?」
「えぇ、そこまでお世話になるのも失礼だしね」
朝姫や教授は笑って言っているが、昨日の夜に出されたご飯は古き良き日本の飯と言えるご飯や薄い味噌汁のような汁物、漬物などの前菜。
そしてメインの謎の肉を辛く味付けした焼いた料理。豚肉とも牛肉とも言えない、どちらかと言うと羊のような肉感がしたが、もしから竜の肉なのではと思ったが、聞くのが怖かったので聞かなかった。
そんな二人の前に長老が前に出て、深々と頭を下げた。
「あまりおもてなしが出来なくて申し訳ない。我々としても今の現界の事を知れた事はとても感謝する」
「いえいえこちらこそ、大事なお話を聞けて良かったです」
「安全な場所までは豪太郎と凛花の二人が送りますので」
長老が説明すると人混みの中より、豪太郎と凛花が前に出て二人に一礼をする。
そして門番が銅鑼を力強く棒で叩き、耳に響くほどの大きな音が鳴ると門が開いた。
二人と豪太郎らが門から出ようとした時。
「凛花。お主も外に行くか?」
「はい?今、何と仰いましたか?」
その言葉に思わず足を止めた凛花。
「現界に行くかと言ったんじゃ」
「いいんですか!?」
「あぁ、お前も現界を覗くと良い」
「やったぁぁぁ!!」
凛花は念願の現界に行けるという事で喜びのあまり飛び跳ねた。
長老は釘を刺すように忠告する。
「ただし、遊びに行くのではなく、現界に慣れる意味での言わば訓練だと言うことを忘れるな」
「わ、分かりました!」
頭を深々と下げた凛花。
緊張した面持ちながらも、やはり現界へと行けるのが嬉しいのか笑みが溢れていた。
「ところで兄さんは?」
凛花の問いに、豪太郎は少し黙り込むと一歩足を前に出した。
「長老、俺も現界に行ってもよろしいですか」
「あぁ、お主の気持ちは分かっておる。居ても立っても居られないのだろう」
「すぐには何か起こる事はないかもしれませんが、それに妹を一人で現界に送るのも問題かと」
「まぁ、好きにするがいい」
「ありがとうございます」
豪太郎が深々と頭を下げて、3人に顔で指示して門の外へと歩き出した。
その後ろで凛花は不服そうな顔で頰を膨らませた。
そして教授はそっと後ろを向くと、長老ら戦士達の後ろに隠れるようにいる純也が口角を上げて不気味に見つめていた。




