七の巻 龍族の歴史
朝姫は事の経緯を話した。
「オーロラが日本各地でか」
「は、はい。その後山全体に大きな地震のような揺れが発生して、気づいたら霧に包まれてここに」
全てを話し、朝姫は長老に問う。
「ここは何処なんです?」
「ならば、現界の事を話してくれた礼だ。龍族の事も教えてやろう」
一息つくと長老は語り始めた。
「龍族は昔、この世界。つまりは別の次元よりこの世界の、この地球にやって来た」
「別の次元?」
涛長老が話し出すと、純也が立ち上がり話に割り込んできた。
「長老!外界の者に龍界の事を──」
「別によいのだ。闇と炎の刻印が現界に現れ、複数の刻印までもが現れた。人々に知れ渡った今、もはや隠し通す意味もなかろう」
「ですが……」
「お主の祖先が人間に殺された事はよく分かっている。人間が我々龍族を恐れた事も。だが刻印の再来より、何かよからぬ事が起きるやもしれん。その為には、現界とまた手を取り合う事が必要になる場合もある。情報交換という奴じゃ。分かってくれるか」
長老の言葉に純也は何か言いたげな表情だが、引き下がって頭を深々と下げた。
「……分かりました。話を腰を折ってしまい申し訳ありませんでした」
「あぁ、構わんよ」
「龍が住む世界。我々は龍界と呼んでいる」
「龍界……」
「ドラゴンのみが生息する世界。そこから二体の龍がこの地へと足を踏み入れた。一体は我々の祖先である竜剣士"戦仙龍様。そしてもう一体は邪悪な龍である呪龍が戦いの最中にこちら側の世界に来た」
長老はそう言って従者に一つの巻物を取ってくるように指示し、大きな巻物を二人の前に広げた。
「これは……」
それは絵巻であり、そこには翼の生えた白銀の鎧を身に纏った龍の顔をした戦士が、黒いオーラが包み込まれている霧のような存在に刀で攻撃を仕掛けている絵。
周りには大勢の市民達が逃げ惑いながら、その戦いを見ている構図だった。
この絵に二人は驚き、言葉が出来なかった。
「戦仙龍様はギリギリの中で勝利し、呪龍を龍界に押し戻した。だが、一度開いた龍界と現界との扉は閉じる事は出来ず、責任を取るためにこの地に止まる事にした。そこで民達はこの地を守った戦仙龍様を神のように崇めて、共に共存する事を約束し、玄牢扉を作って龍界から龍が来るのを食い止め、この結界を貼った。その内に人間の女性との間に、人間であり龍の血脈が合わさった我々龍族が生まれた。何百年の時を経てその数を増やしていったんじゃ」
「でも、何でこんな所細々と?」
長老は苦い顔をして巻物を従者に戻すように指示して、巻物を巻き戻すと新たに別の巻物が広げられた。
その絵巻には鎧を着た大勢の軍に白銀の肌をした龍族らしき人々が槍で端へと追いやられている絵であった。その真ん中には両手を広げて武器を地面に置いている戦仙龍の姿もあった。
「戦仙龍様がこの地に来て数百年が経った。龍は歳の概念が違う。それに龍族も人間の数倍は生きる事が出来る。そして絵の通り、我々龍族は朝廷より討伐命令が下された」
「何故?」
「結界の外へと出ていく者も増えて、結界外にも龍族が増えていった。時が経つにつれて人間は龍族を危険視し始めた。人間よりも力も空間認知能力、聴覚や嗅覚。あらゆる面で勝っている龍族を今後の戦乱において牙を向いた場合、確実に人間が不利になる、と。龍族の話が耳にした朝廷は軍を出して、各地にある龍族を見つけてはこの白銀の鱗がある身体を見て殺して行った」
長老は腕を捲ると肌の一部が白銀の鱗であった。
「我々はそんな意志はないと戦仙龍様は結界を出て朝廷軍達の前で示したが、戦仙龍様は朝廷軍に刺されてその命を落とした」
その話を聞き、部屋の外で聞いている純也は言葉にこそ出さないが拳に怒りが宿り、その場から去っていった。
「多くの龍族はこの地に戻って来た。その時にこの巻き物にはその時に、玄牢扉の前で祈りを捧げた二人が刻印の力が宿ったと言われているんじゃ。それが我が二人の孫の刻印の力。豪太郎の"竜の刻印"と凛花の"飛竜の刻印"」
「彼らが……」
巻物を閉じると長老は
「十分伝わったかい。我々龍族の歴史を」
「は……はい。貴重なお話しをしていただき、ありがとうございます。でも、何故私達にこのような大事な話を」
「先ほども申した通り、再び刻印が地上に現れた時、ここもいずれに危険になるやもしれん。ならば、今のうちに人間と打てる手を打つべきだと思ったまでじゃ」
「そんなにも刻印という存在は危険なのですか?」
「うむ。歴史より炎と闇の刻印が現れし時、世界に災いが起こると伝えられている。その為に、我々はその時の為に備えてもいるんじゃ」
朝姫が知っている歴史に刻印の言葉はない。
その刻印がそんなにも危険なのものだろうかと、少々疑問に思っている。
「荷が重いかもしれんが、二人には我々と人間との架け橋になってもらいたい」
朝姫は荷が重いの言葉通り、大役過ぎて自分で務まるのかと不安視するが、教授は自分の胸を叩き、声を上げた。
「私で良ければ……可能な限りお手伝いさせていただきます」
「それは心強い。その言葉、感謝する」
教授は頭を下げて感謝を述べた。
その様子に朝姫は引き気味であった。
「この寺で今日は休むと良い。明日には結界が開くはずだ」
「は、はい」
豪太郎に連れられ、部屋から出ようとすると長老は再び二人に向かって言う。
「この世界を守る為の行動をするんだ」
「……」
*
二人は別々の寝室に連れてかれたが、朝姫は教授の元へと行き、問いただした。
「あんな話を安請け合いして大丈夫なんですか!?」
「まぁまぁ、君だってここの事は気になっているだろ?ここに出入りが出来るとするなら、君の研究だってもっと進むだろう」
「それはそうですけど……でも、こんな大役を」
朝姫の言葉に教授は自分の考えを伝えた。
「ここは無限の可能性がある事をよく分かった。それに彼らが言う刻印と言う力。とても興味が湧いてきたんだよ。その為にも、我々が彼らの架け橋になってここの事を世界に示すんだよ」
「教授……」
「私も久しぶりに研究者として胸が昂ったんだよ。それに今後の世界の為にもね」
教授の熱弁に何も言えない朝姫。教授の考えが分からないまま部屋に戻り、床についた。
だが、朝姫の中ではここにいる人達は人間と同じように畑を耕し、里を守る為に戦士を育て、長老などの位など、自分達人間と同じ社会構造をしている事に興味を持っていた。
長い年月人間との接触をしてこなかった未知なる人種。それと普通の日本人同様会話が成立している。
だが、気になるのは刻印の存在──
「あの〜朝姫さん、起きてます?」
障子の向こうから聞こえて来た凛花の声。
「凛花ちゃん?」
「ちょっと良いですか?」
「どうしたの?」
凛花が部屋に入ると、小さな声で朝姫に言った。
「ちょっと散歩に行きません?村の中を散歩しましょう。色々聞きたいし」
「……良いわよ。なかなか寝付けなかったから」
「やった!」
大声を出して咄嗟に口を手で押さえた。
朝姫はここに来て初めて笑った。
「ふふ」
「ささ、いきましょう」
「えぇ」
*
同じ頃、教授の寝ている部屋──
すっかり寝ている教授。
その部屋に何者かが侵入し、教授に馬乗りになって口を塞いで小刀を首元に近づけた。
「ん!ん〜!!」
「口を開いたら殺すぞ。人間」
それは純也であり、教授が両手を上げて無抵抗だとアピールすると、ナイフと手を離した。
教授が喋ろうとすると純也が先に口を開いた。
「貴様から感じるその探究心。俺が叶えてやろうか」
「な、何だい……」




