五の巻 龍族の村へ
「この上に!?」
「セイちゃんは優しい子だから、大丈夫だよ」
「名前まで……」
そうこうしている間、教授はずっとセイちゃんこと龍の写真を撮り続けている。
「教授!」と朝姫が注意すると、渋々撮影をやめ、凛花に誘われるがまま、教授は龍の背中にそろりと乗った。
「お、おぉ」
ぎこちない感じの顔で、朝姫に目で早く乗れと訴える。
「好かれているような、朝姫さん」
硬い皮膚は亀の甲羅のようだ。でも皮膚はほんのりと温かく、心臓の音も感じる。改めて生きている生命体なのだと二人は感じた。
「あ、あたたかい……」
「当たり前よ、生きてるんだもん」
「いや、そうゆうことじゃ──」
「二人共しっかり捕まってて! 振り落とされないようにね!」
凛花が手綱を引っ張ると、龍は翼を羽ばたかせてゆっくりと宙に浮き始めた。
「台扇寺まで一気に行くわよ!」
手綱を上に上げると、龍は勢いよく真上に飛び上がり、木と木の狭い間をギリギリで抜けて進む。
二人はジェットコースターの時のように身体がギュッと固まり、必死になって龍の皮膚にしがみついていた。
「キャぁぁぁ!!」
森を抜けて上空へと飛び出た。
「今から村へと行くよ」
「ここら辺村あるの?」
「言ったでしょ。ここは貴方達がいた世界とは違う世界って」
「よく分かんない……」
話は通じるが、世界が違うという部分が謎である。
本当に異世界に来たのではないかと疑問に思う朝姫であるが、状況把握を優先する為に質問をする。
「この龍って、まだまだいるの?」
「えぇ!この子はまだ子供だから、もっと大人の龍なら10mはゆうに超えるわよ!」
「えぇ!?」
やはり自分があの時に見たのは、その龍なのかと疑問に思い、凛花に問う。
「ねぇ、凛花ちゃんだっけ?10年ほど前に、私の世界に龍が出て行った事ってある?」
「10年前?10年前だと私まだ幼かったから、分かんないね。兄さんなら知っているかも」
「お兄さん?」
「さっきの強面な顔の!」
あの剛太郎と名乗っていた男。
あの男なら何か知っているのか?と朝姫は考えていると──
「二人共!あれ見てよ!」
「あ!」
凛花が横を指すと、そこには小さな野鳥とその鳥と同じサイズの首長い竜が共に飛んでいた。
別に竜が鳥を襲う訳でもなく、並走して飛んでいた。
「凄い、鳥と龍が共存している……」
「そう?特別不思議なことでも無いけどね。共存出来るのって普通じゃない?」
「そ、そうなの?」
「って言っても、ここの竜が優しい性格の竜が多いってのもあるけどね」
朝姫自身も驚いていたが、教授はもっと興味を示していた。
「教授!?」
その鳥と龍を見ながら必死にメモをとり、写真を何枚も撮っていた。
「落ちますよ教授!!」
「これは研究者として命を賭しても撮る!!」
「珍しいからって、そこまでやらなくても!」
落ちそうなりながらも撮り続ける教授を強引に抑える朝姫。
そんな光景に凛花は二人を見て笑った。
「こんなのが珍しいなんて変わってるね、現界の人達は」
「現界?私達が住む世界の事?」
「そうよ!兄さんは以前、刻印の調査に現界へと出て行った事があってね」
刻印の言葉に反応して朝姫は凛花に問う。
「刻印って?」
「あら、知らないの刻印?大昔の世界から伝わると能力一つよ。その刻印が現界に発見されたから兄さんが確かめに行ったの」
「どうゆう事……私の世界に?」
「刻印が現界に現れると、何か良からぬ事が起きるって言い伝えがあるのよ」
不思議な話だ。朝姫は色んなオカルト本や神話、伝承などの歴史を調べてきた。そこの分野の知識には自信があった。
だけど、刻印という能力のなんて聞いたこない。
それに現実世界にも存在している?そんな話あったか?と考えていると、凛花が何か反応したのか、下を見始めた。
「兄さんがこの下にいるから、村に入る前に合流するわよ!!」
「え?」
「一気に降りるよ!捕まってて!!」
「ちょっ!待って!」
凛花が竜を叩くと、竜は咆哮を上げて一気に下降した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
いきなり降下した為、教授はカメラを離しそうになるが必死に抱きしめて落とさないように務めた。
朝姫も振り落とされないように声を上げながらも、竜に抱きついた。
ジェットコースターの急降下のような感覚になり、地面に近づき、ぶつかる!と感じたがゆっくりと速度を落としていき、地面スレスレで羽を優しく羽ばたかせて静かに着地した。
「ふぅ、生きてた……」
「寿命縮んだと思った……」
二人が呆気に取られた顔になっていると、森の奥から豪太郎が現れた。
「兄さん早かったね。他に侵入者は?」
「こいつら以外いなかった。幸にもな」
少々疲れている表情の豪太郎。
凛花は竜の頬に頬擦りをして降り、朝姫らも慎重に降りた。
「ふぅ、着いた。ジェットコースターに乗った気分」
「気分いいって事?」
「違うよ。身体がヒュン!って魂が出そうになったの」
「そんなの慣れよ」
そう言いながら、すっきりした顔の凛花であった。
げっそりと疲れ果てた顔になる朝姫だが、持っていたバッグがガサガサと動き始めた。
「な、何!?」と慌ててバッグを投げると、中からさっき朝姫に興味を示していた小さな竜が入っていた。
「いつのまに!?」
「この子に好かれちゃったみたいね。この子は友好的な性格なのかもね」
「え?ど、どうすれば?」
小さな竜は朝姫の足をスリスリと頬を擦り、猫のように喉を鳴らしていた。
「優しくすればいいと思うよ。成長したら、強くて可愛いドラゴンになるから」
「オー、ご遠慮します……」
「一度撫でてみてよ。この性格なら噛みはしないから」
「……う、うん」
朝姫はそっと手を差し伸ばすと竜は頭を下げて撫でられるのを待った。
頭に触れて軽く撫でると、竜は嬉しかったのか朝姫の手をぺろっと舐めた。
猫の舌のようにザラっとした感触。
「よ、喜んでるの?」
「喜んでるよ。完全に懐かれたね」
「あ、あははは……」
竜と戯れていると、豪太郎は何か背負って二人の前に投げ置いた。
「そんな格好じゃ、村に入ったら即座に部外者だとバレてしまう。お前らを襲ったりはしないだろうが、混乱は避けたい」
「って事でこれを着てね」
それは黒い布のような服と白いズボンだった。
「村の服よ。これなら、あまりバレないから」
「これも被れ」
それは菅笠のような帽子だが、それは龍の鱗を全体に広げられて作られていた。
「龍の鱗ってやつ?綺麗……」
「そうだ。龍の鱗は軽く、断熱性が高い」
龍の鱗はガラス細工のようにキラキラと美しく、光に反射する。
見たこともない物に目を引かれていると、教授はまたも写真を撮っていた。
「教授……」
「これも貴重な物だ。資料として撮っとかないと」
「ですけど、これは──」
「これは人類史を変える出来事だ。調査せな行かんだろ!」
と力強く言う教授。
朝姫も驚いてばかりだが、ここの調査もしたい気持ちがあった。でも、調査を進めればここを荒らす事になるやもしれん。
そんな葛藤を抱きながらも、今はこの目で龍族を確かめに行く事にし、二人は服を着替えて村へと向かった。




