四の巻 未知との遭遇
朝姫が驚いて腰を抜かすとそのラプトルらしき生物は朝姫の近くに近づいて来た。
朝姫のバッグの臭いを嗅ぎ、足から徐々に顔へと臭いを嗅ぎながら花を近づけて行く。
「や、何?」
「朝姫君!」
教授が声を聞き、朝姫の元に来るが、ラプトルを見た途端にその足を止め、ジェスチャーで声を出さないように指示した。
「朝姫君、あまり声を荒げない方がいいよ。逃げてもダメだ」
「で、でも……」
「友好的に見えても、得体の知れない生物に変に行動を起こすのは危険だよ。目は合わせない方がいい」
朝姫は目を瞑り、早く何処かへと行けと念じ続けた。
ラプトルが朝姫の顔を見つめて、臭いを嗅ぎ続ける。そして少し口を開け、蛇のように細い舌を出した。
その舌で頬を舐め、何かを調べているように見える。
朝姫は耐え続け、数分間ほど舐められ続けた。
「教授……」
教授に助けを求めて手を伸ばそうとした時、手がバックに当たって中から捕まえた虫籠が転がり落ちた。
ラプトルはそれに気づいて、朝姫から離れてその虫籠を調べ始めた。
その隙に離れて、教授の元へと戻った。
「あ、あれは何ですか?異次元から来たんですかあれ!」
「そんな映画みたい事が──」
霧に包まれる中、二人がどうしようかと意見を出し合いながら慌てふためく。
「ちょっと教授……」
教授に手を突き出して朝姫が話を止めてた。
森の奥から複数の足跡と共に何か人のような影が接近して来るのが見え、聞こえてきた。
「何か来る……」
二人が注視して、迫る影を警戒する。
そして──
「誰だ!?」
「え!?」
声と共に、霧の奥から3人の人間が現れたのだ。
二人の若い男と、若い女の子。それも中国の道着のような黒色に身を包んだ服装である事が、朝姫と教授を困惑させた。
「カンフー?」
「現代人が何故ここに?」
頭にハチマキを巻いた男が腰の刀を取り出し、朝姫らに刃先を突きつけた。
「純也、落ち着け」
純也の刀を手で押し戻して、真ん中の男が前に立つ。
「だってよ、剛太郎。こいつら、俺達の存在を──」
「だからって殺すわけにもいくまい」
剛太郎は朝姫らに近づき問いかけた。
「ここにどうやって入った」
「入ったって……山にいたら変なオーロラが空を覆って、そしたら辺りが霧に包まれて、あのラプトルちゃんが現れて、あなた達が現れたのよ」
「オーロラ?」
剛太郎がその言葉にまゆをひそめた。
隣にいる少女が剛太郎に耳打ちする。
「もしかしたら、人間界の方で何かあったのかもよ。境界線が打ち消される力なんて、刻印以外にはありえないよ」
「……あまり刻印の話をするな凛花」
「でも、ここ見られたんだから別に良いでしょ」
二人が言い合いを続けていると、朝姫が勢いよく挙手して話に割り込んだ。
「はい! 質問いいですか!」
「な、何だ?」
無神経な朝姫の行動に3人は驚いたが、そのまま話を続けた。
「詰まるところ、ここは異世界と言う認識で良いって事?」
「ん〜。どうなの兄さん?」
朝姫と凛花に尋ねられた剛太郎は、一度咳払いをして、言葉を詰まらせてから言う。
「……よく聞いてくれ。ここは龍界と現世の狭間にある異空間のような場所だ」
「おい、剛太郎。ここの事を話すのか!」
何か知られちゃまずい事を言われたのか純也が剛太郎の前に立ち、喋りを遮る。
「困惑させたままより、簡単に言い聞かせた方がいいだろ」
「ここの事を人間に知られたら、俺達の暮らしが!」
「境界線は一度封鎖すると、数日は閉じる事が出来ない。そのルールはお前にも分かるだろ。どの道、彼らをここに数日間は保護しなくてはならない。
「やはり見られたからには!」
純也が刀を抜き、二人に向けると剛太郎は純也の腕を強く握りしめて、刀を引かせた。
「お前は村に戻ってろ」
「だが、コイツらを返すと碌な事にならんぞ!」
「殺したところで何になる。ここは守れても、お前自身が人殺しの汚名を着ることになる。我が種を守る気持ちも大事だが、他種を信じるのも一つの道だ」
説得の言葉と共に握る力は更に強まり、純也は剛太郎の腕を払い、刀を納めた。
「……わかったよ」
刀は納めたが、いまだに怒りが収まっていない様子の純也。
剛太郎は柔らかい物腰で、語りかけた。
「お前は、先に戻って柔老様に事情の説明と数日間の保護を連絡してくれ」
「了解した。だが、もしもコイツらが何かやましい事を考えていたら、即座に殺す」
「俺からもキツく言っておく」
「その優しさから、我々はここに暮らしている事を忘れるなよ。異物を入れる事は、よく言えば何か変えられる事が出来る。だが、悪く言えば異物によって汚染される事だ」
純也の言葉はキツく胸に突き刺さり、剛太郎は無言で目を逸らした。
「やっぱり私達、スピリチュアルな世界に来てしまったのですかね」
「あぁ、しっかりと写真を撮らねば」
朝姫と教授がヒソヒソと話している間、ずっとラプトルは朝姫のズボンを噛んでいる。だけども、この3人が気になりすぎて、噛んでいる事には一切気付いていないのだ。
純也は口笛を吹くと、上空から翼の生えた巨大な龍が滑空し、剛太郎の前に降り立った。
石のように硬そうな鱗に、ティラノサウルスのように鋭い目と牙、大きさも人間の大きさを優に超え、10メートル程の大きさであろう。
「きゃあぁぁぁ!!」
龍に睨まれた朝姫は腰を抜かした。
「本物の龍だ……」
「これは撮らねば!」
教授は驚きを我慢してコソッと写真を撮りながら龍の様子を観察した。
「人間ってモノは分からんもんだ……」
二人の対極的な行動に純也は呆れながらも、龍の背中に飛び乗った。
手綱を握って軽く龍の背中を叩くと、龍は耳に響くほど大きな咆哮を上げて、翼を何度も羽ばたかせて宙に浮き、森の上空へと飛び立った。
「す、凄い……本物の龍がいたんだ。でも、昔見たのはあれじゃなかった」
朝姫の言葉に剛太郎が食いついた。
「昔?お前、昔見たのか。龍を」
「えぇ、十年以上前に……この山で」
「十年前……」
剛太郎は十年前のワードが引っかかるも、朝姫らには考える顔を背けて口笛を吹き、純也と同じタイプの龍を呼び寄せた。
「凛花、客人を台扇寺へと連れてってくれるか」
「この人達を泊めるの?やった!」
喜ぶ凛花に後を任せて、剛太郎はその場から去っていく。
「兄さんはどこ行くの?」
「もうちょっと周りを見てくる」
「任務了解、客人をしっかりお届けします!」
剛太郎がいなくなると、凛花は二人に頭を下げて元気よく挨拶をした。
「私は凛花。お二人は?」
と言われると二人は「栗宮朝姫です」「大学教授の新谷剛」と頭を下げて自己紹介した。
「今のが私の兄で剛太郎兄さん。そして刀を向けてきたのが純也さん。兄さんとは古くからの仲」
「古くからにしては仲悪そうだけど?」
「まっ、ここの龍族は二つの考え方を持っているから、対立は良くあること」
凛花は龍の背中を軽く撫でると、龍は顔を凛花の顔に頬擦りして腰をかがめた。
「さっ、この子の上に乗って」




