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刻印戦記-Crimsonuniverse  作者: ワサオ
1-③ 龍皇の目覚め
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二の巻 発見

 

 タクシーから降りて、一人山奥に向かって獣道を歩く朝姫。

 蝉の鳴き声がうるさい夏の空。風邪で草木が揺れるも、その音を蝉が、いとも簡単に掻き消してしまう程だ。

 それに何と言っても暑いの一言。重い荷物に風通りの悪い道。もう汗だくになり、口の一つもこぼれ落ちる。


「やっぱり夏に来るんじゃなかった……」


 一人で愚痴をこぼしながも、足の速度は緩まない朝姫。

 それにこの時期に来たのも理由がある。


「でも、この日が龍が現れた日だしなぁ……」


 あの日龍に出会ったのが今日と同じ日であり、その日と同じなら出会えると思い、今ここを歩いている。

 もちろん確証なんてない。でも、あの日以来何度も来ているが異変は一度もない。今回は一人で初めて来た。

 あの日と同じ日に──


「ん?」


 朝姫は突然足を止め、草の上に乗っているとある虫を見つけた。


「てんとう虫……カメノコテントウムシより大きい」


 そのてんとう虫は通常のてんとう虫よりも遥かに大きい5センチ以上もあり、日本一大きいと言われているカメノコテントウムシよりも大きい。

 大きさでさえ異様な光景だが、見た目も赤い背中に紫の斑点、手足も以上に長いし、謎の触覚まで生えている。

 普通とは思えない虫に朝姫はビビるかと思ったら──


「これいいわね」


 恐れる様子も見せずに、素手で掴み取り、バッグに入れてあった虫籠に入れた。

 ウキウキとした顔で虫籠に入れたてんとう虫を見つめて、やる気が沸いたのか足軽に山登りを再開した。


「早速いい収穫ねぇ」


 と鼻歌を歌いながら、何十分と速度を落とさずに進んでいくと、周りが木に囲まれた広々とした野原に到着した。

 あれから時間が経ち、キャンプ場は閉鎖しており、閑散とした草木が無造作に生えた土地へと変わり果てていた。


「到着〜っと!」


 それでも朝姫は、ふか〜く息を吸って自然の匂いを満喫した。

 目を瞑って昔を思い出し、初めて来た時と同じ光景を思い出した。

 数分間の間、自分の時間に浸り──


「よし!」


 自分の頬を叩くと、バックパックを下ろして中からテント用具を取り出して手慣れた手つきでテキパキと組み立てていく。

 ものの10分も掛からずに一人用のテントを作り上げた。テントを固定するロープもピンッと張ってあり、釘も深くしっかりと埋められており、もしもの時の為にきっちりと用心深くテントを設置した。

 そして折り畳み椅子も用意して、力を抜いて椅子に腰を掛けた。


「さぁ〜って夜まで自然を満喫──」


 と寝る気満々で懐からアイマスクを取り出した時、スマホの電話が鳴った。

 何度かコールが鳴っても出ようとはしなかったが、電話番号を見て慌てて出る。


「はい栗宮です!」

新谷(にいや)だが、今は大丈夫かね』


 と新谷と名乗る中年男性の声が聞こえてきた。

 朝姫はアイマスクを投げ、電話を耳に当てたままバックからさっき捕まえたてんとう虫のカゴを出した。


「はい!今、千々賀原山にいて、以前教授にお伝えしたこの山の生命体の異常成長についてですが』

『その事だが、この前君から預かったおたまじゃくしは──』

「ゴンちゃんですよ!」


 と語尾を強く言われて、数秒の沈黙が起きるも、新谷教授は一度咳払いをすると話を続ける。


『……ゴンちゃんがカエルとなって、観察したんだが他で採取したカエルと違う。細かく胃液や体液を解析したんだが、事例のない細胞が見つかった』

「やっぱりですか!?」

『カエルに似て非なる新種の虫の可能性さえある。それに身体の構造そのものがカエルとはまるで違う。検査も進めているし、交配などもして遺伝子検査なとも行ってみるよ。君にも見てもらいたい。今から、詳しい画像を送るよ』

「はい!すぐに!」


 朝姫は教授からの発見を聞かされて、さっさと電話を切った。

 そして目の色を変えてウキウキでバックからパソコンの電源を入れ、送られてきた画像を確認する。

 何枚かの画像が送られており、普通のカエルと比較された画像で、濃い緑色をした5センチはある大きさ。

 これだけだと普通のカエルより大きいだけだが、後ろ足を見ると、足の先端に近づくに連れて鱗のように硬い皮膚へと変貌を遂げていた。それに前足が後ろ足以上に発達しており、カエルとしてはあり得ない人間が跳び箱を飛ぶようなフォームで飛んでいる。


「鱗の部分が本来関節を曲げる姿勢の妨げになっているのかしら?ジャンプする時、前足の筋肉は引き締まっている。異常発達?それとも、やっぱり新種の生物?それとも進化?」


 と写真を眺めながら、一人ぶつぶつと呟きながら考察を続けた。暑さも忘れ、黙々とノートに書き続けた。

 夕方になる頃には、ノートは何十ページと記されており、カエルの朝姫なりの見解や考察がびっしりと書かれていた。

 それと今回採取したてんとう虫の事も書かれていた。

 強風が吹いた事で、ようやく空を見上げてオレンジ色の夕日だと気づいた。


「もうこんな時間?勤勉なのも偶に傷ね」


 朝姫はノートを閉じ、ふとてんとう虫の籠を見た。


「あれ?少しだけ大きくなった?気のせいかしら?」


 違和感を感じた。てんとう虫が少しだけ大きくなったように見える。

 朝姫は気のせいだと思い、気にせずに夜を過ごした。

 この自然を満喫するのが楽しくて、夜でもずっと空を眺めて自然な風を満喫した。


 *


 次の日──朝姫は残念そうな顔で山を降りた。

 そして登山の服装のまま、休日に関わらず大学へと向かった。


「結局、何も現れなかったなぁ。収穫はあったからいいけど……」


 人があまりいない大学内を歩き、自分の研究室へと入った。

 研究室の中には中年の教授がコーヒーの飲みながらパソコンを弄っていた。


「教授〜」


 小声で声掛けするも、教授はパソコンに夢中で声は届いていなかった。


「教授!ただいま戻ってきました!」

「!?」


 朝姫の元気のある声で、教授はコーヒー吐きかける程に驚き、ようやく朝姫の存在に気づいた。


「す、すまないね。呼び戻したりして」

「いいですよ。研究の為なら、何処からでも戻ってきます!」

「それは助かるよ。すぐにカエ……ゴンちゃんの様子を見てほしい」


 教授に呼ばれて朝姫は実験室へと移動し、大きな水槽に入れ替えられたカエルのゴンちゃんと対面した。

 昨日見せられた写真や動画のようなカエルとは思えないほどの異常進化を遂げた姿に唖然とする。


「いつからこのような感じに?」

「幼体の時は普通のおたまじゃくしと変わらぬ姿だった。だが、成体に成長した数日後に徐々に足元に鱗のような硬い皮膚へと変わっており、更に数日後にはジャンプの仕方も変わっておった」

「やはりこれは異常進化でしょうか?それとも、新たな新種でしょうか?」


 朝姫の問いに教授は首を横に振り即答した。


「我々だけでは完璧な答えは出ない。時間も人も機材も全てが足りない。だが、これほどの発見となると多くの支援や、研究希望者が現れる事は間違いない。学会に研究支援を要請しよう」


 教授の提案に朝姫は手を強く突き出した。


「いや、それはまだ待ってください」

「何故だい?」

「私達だけで調べる時間を下さい。もう一度確かめに行きます。教授も一緒に行きましょう!」


 いきなりの同伴に教授もびっくりとした表情を浮かべた。


「ワシも!?」

「もちろんです!この目で見て欲しいんですよ!あの山の自然を」


 という事で、半ば強制的に教授も山へと行くこととなる。

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