一の巻 交わる前夜
現代──山奥の林の中で、二人の青年が慌ただしくもけただましい声を上げて縦横無尽に走っている。
一人は短髪の男で、もう片方の男は風に靡く長髪の男。
手に握っている刀を激しく交わらせ、鍔迫り合いを繰り広げ、男達の声と金属音がぶつかる音が響き渡っていた。
「はぁ!!」
「オラァ!」
二人は別々の木に飛び乗り、木から木へ飛び移つりながら、刀を激しく交わらせる。
パワーが凄まじいのか、飛び移つる度に当たり一帯の木が、切り落とされるほどの威力であり、山全体に衝撃が走るほどだった。
二人がどれほどのパワーて刀を振っているか分かるだろう。
「中々やるな!豪太郎!!」
「ふん」
二人は巨木の挟んで着地して、巨木越しに睨み合いが続く。
豪太郎が先に動こうと足を踏み込んだ時──
「!?」
先に右側から飛び出て来て、豪太郎は攻撃を仕掛け、刀を振り払った。
「何!?」
だが、豪太郎が攻撃したのは上着であり、囮攻撃であった。
次に感じたのは上からだった。
「はぁ!!」
「くっ!」
気づいた時には遅く、木の上から飛び降りて来た男に背後を取られた。
豪太郎は咄嗟に刀を背後に振るも避けられて、刀の頭部分で腹部を小突かれて、豪太郎は腹を押さえて膝をついた。
そして長髪の男に刀を眼前に突きつけられた。
「今回も俺の勝ちのようだな」
「あぁ、俺の負けだ純」
豪太郎は自分の負けを認めた刀を地面に下ろした。
長髪の男純は、刀をわざと豪太郎の目の前の地面に突き刺した。
「いつでも首を取ってやるという事か」
「そうじゃねぇよ。お前が死んでも俺が刻印を継ぐって意思表示だよ」
「その時はまた別だ」
「まっ、そん時は頼むぜ。後継者選びをな」
純は気軽に言ってるつもりだろうが、豪太郎はそんな気はさらさら無いと突っぱねた。
純は刀を鞘に収めると、豪太郎に手を差し伸ばした。
「お前が色々と気にしているのは分かる。だが、それを刀に向けるのは違うんじゃないのか」
「……分かっていたのか」
「最近のお前は何処か焦っているように見える。地上に降りた後から訓練に多くなっている。だから言ったろ。地上には降りるなって」
「……」
豪太郎が語らないところを見て、何か察した純はため息を吐いた。
「その様子だと、刻印を使用しなかったんだな。あの力を恐れて、怯えて、拒絶し──」
豪太郎は純の言葉に何も答えず、目を合わせずに手を振り払って自分の足で立ち上がった。刀を拾い上げて、純の横を素通りしてその場から立ち去る。
「まだ使えないのか刻印を」
豪太郎に何を言っても反応せず、言葉を背中に受け流し続けた。その話から避けるように。
純は素っ気ない態度に腹を立て、豪太郎へと声を荒げる。
「お前が逃げている限り、龍族の長とは誰も認めてくれないぞ!先代がお前に刻印を継いだ事を悔やんでいるぞ!!」
それでも豪太郎は何を反応を示さずに、森の奥へと消えていった。
「龍族はお前の為にあるのでは無い!俺達の家だ!何か起きてからでは遅いんだよ!!」
純の声は静まり返った森の中に虚しく響き渡った。
*
同時刻、一台のタクシーが険しい崖に面している山道をゆっくりと走っていた。
中年のベテラン運転手、後ろの席にはまだ若い女性が座席に座って紙の地図を見ながら、何処かへと電話していた。
「……はい。だから、明日はちょっと行く事が出来ませんので……はい。すいません」
その電話の内容が気になり、運転手は運転中何度も、女性へと目を向けて、女性の隣に置いてあるバックをチラチラと確認する。
「本当にこの山でいいのかい?」
「はい!ちょっとここに用があるんで」
「どんな用事?」
「キャンプですよ。一人キャンプ。今流行ってるやつですよ」
「……そうかい?」
まだ納得いっていない運転手。でも、女性の言う通り、女性の隣にはキャンプ用の大きめのバックパックが置いてあった。
走り続ける事更に数分が経ち、運転手は未だ気にしている様子。
すると、女性がとある場所を見つけて運転手に止まるように指示した。
「あそこです!あそこで止めて下さい!」
女性が指した場所は、砂利が適当に敷かれている脇道であり、山奥へと進める砂利道は車一台入れるくらいのギリギリな道幅。
「ここかい?この奥は何かあったかなぁ?」
「昔はキャンプ場だったんですよ。今は閉鎖しちゃったけど」
よく見ると山へと続く砂利道の端には、キャンプ場の名残りとも言える看板らしき物が転がり落ちていた。
運転手は不審に思いながらも指示された通り、脇道に車を停めた。
女性がドアに手を掛けると、運転手は鍵が掛かっていながらも念入りにもう一度ドアの鍵を掛けた。
「あの〜ドア開けてくれますか?」
「もう一度聞くけど、本当にキャンプかい?偶にいるのね、そんな風に偽装するの。軽装でここじゃあ、あまりにも怪しいから、僕ら運転手もなるべく降ろすのを拒否するんだよ」
運転手はもしかしてと思い、落ち着かせるように言うが、女性は運転手が思っていることを察知したのか、慌てた様子で手を振り、違うと弁明した。
「違いますよ!するわけないですって!」
「でも、一人でこんなところに来るなんて、それが理由だと思っちゃうよおじさんは」
「私は大学の教授の助手なんです!考古学研究の」
と言ってバックから一枚の紙を見せた。
筑波大学所属、研究補助、教員助手、栗宮朝姫と名が記されていた。
「これでも、今年から助手になったんですよ!世界にある龍などの神話の生物を研究して、もし、現代に存在したいなら、どのような活動を送り、生命との共存は可能なのかを」
よく分からないが、とりあえず命を断とうとする者じゃないと分かった運転手は安心し、鍵を開けた。
朝姫は外へと出て、大きく背伸びをした。
「若いのに偉いねぇ。でも、そんな子が何でここに?」
「龍がこの世に存在していた事をキャンプしながら調べるんですよ。逸話によると、この千々賀原山に龍が存在してあ話があるんですよ」
「龍ねぇ。君はいたと思うのかい?」
外へ出て、空を見上げながら言う。
「今もいますよ。昔この目で、龍を見ましたから」




